番外編10

「さて、貴族は全員揃っておるな」


「はい、当主または当主代理が全員来ております」


いよいよ皇帝指名の日がやってきた。イオスとフォスは、それぞれ皇帝の右隣と左隣に正装して座っている。進行は宰相であるデュバル公爵。貴族は、各家の代表が全員来ている。投票は、滞りなく進められた。


「さて、投票は終了しましたね。開票致します」


開票は、不正がないようにすぐに同じ場所で行われる。以前はあっさりイオスの支持が過半数を超えたが、今回は接戦だった。


「フォス様125票、イオス様125票 同数です。我々は、どちらが皇帝になっても全力でお支え致します」


宰相であるデュバルが、そう言って跪くと貴族達は全員それに倣った。


「同数か……今まではなかったが、なんとなくこうなる気がしておった。例外ではあるが、皇帝はフォスとイオスの両方を指名する」


「「えっ?!」」


「父上! それはあり得ません! イオスの方が皇帝に向いているに決まっています。イオスは優しいし、民の事を第一に考えています! 僕のように冷酷ではない。皇帝は、イオスが相応しい」


「いや、オレは甘いから兄上の方が皇帝に相応しいです。もちろん、兄上の治世を全力で支えます」


「だからだ」


父の威厳のある声に、フォスもイオスも背筋を正す。


「フォスは皇帝に相応しい判断力があるが、温かみに欠ける。イオスは、国中を見て的確な仕事をするが、確かに甘い。どちらが皇帝になるにも素晴らしいところがあり、欠けたところがある。貴族の支持が高い方を指名しようと思ったが、同数だ。それならふたりで最高権力者となり国家を運営しろ。ひとりでやるより厳しいが、フォスとイオスなら可能だろう。それに……」


「それに?」


「ふたりとも妻が第一なところがあるからな、皇帝にならなかった方が、いつの間にか隠居してしまいそうだ」


「「う……」」


フォスもイオスも、皇帝になりたいわけではなかった。イオスは一度経験しているからこそ大変なのは分かっているし、今のフォスなら皇帝に相応しいから自分はサポートをすれば良いと思っていた。


フォスも、自分のような冷たい人間には皇帝は出来ない。皇帝を経験したイオスが相応しいと思っていた。


どちらも、妻との時間を出来るだけ長く取りたいという欲望があった事は、否定できなかった。


「戴冠式の準備をする。冠もマントもふたつあるからな」


「父上……冠もマントもひとつしかなかった筈では?」


「デュバルが、ふたつ要るかもしれんから作れと言っていたからな。作っておいた」


「「なっ……!」」


「皇帝陛下は支持数が同数に近ければおふたりを指名するつもりだったそうですからな。まさか、完璧に同数とは思いませんでしたが」


そう言って笑うデュバルを見て、フォスとイオスは本当の黒幕を知った。


「……どちらの父上も、手強すぎる……」


「兄上……もう諦めましょう」


「まだまだ若いな。ふたりなら私よりも素晴らしい皇帝になる。皆もふたりの皇帝を支えていってくれ」


前代未聞のふたりの皇帝陛下は、最初は不安視されたが、すぐに受け入れられた。ふたりの意思疎通が損なわれず、意思決定がブレる事がなかったからだ。それどころか、2倍の仕事を可能にした。


真似をして、最高権力者をふたり置いた国もあったが、成功した国はなかった。兄弟でも、双子でも上手くいかなかった。何故フォスとイオスは上手くいくのか、みんなが不思議がった。


ひとりの皇帝陛下は民の為にさまざまな事を行った。道は整備され、子どもは教育を受けられるようになった。民は賢く豊かになり、国はますます豊かになった。


だが、それを快く思わない者もいた。


民を虐げ、私腹を肥やす貴族は簡単には居なくならなかった。


もうひとりの皇帝陛下は、そのような貴族を容赦なく粛正した。特に、サッシャー侯爵家のように貴族は選ばれた血筋だと思い好き勝手していた貴族は、容赦なく挿げ替えられた。サッシャー侯爵家は、平民から能力がある者が継いだが、他の貴族も同様に怠惰な者はどんどん挿げ替えられた。


中には、冤罪だと主張する者も居たが、皇帝陛下は完璧な証拠を揃えており、往生際が悪いと更に罪が重くなった。


貴族の義務は明文化され、無駄に私腹を肥やす事は禁止された。


「義務を果たさない者は貴族を名乗らないでね」


冷たく笑う皇帝陛下を民は讃え、貴族は恐れた。もうひとりの皇帝陛下は、自分ではこんな事は出来ないと兄を讃えた。


国は発展し、ふたりの皇帝陛下は民にも慕われた。皇帝陛下はふたりとも愛妻家で、憧れた民が妻を大事にするので国には愛妻家が増えたという。

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興味はないが、皇帝になってやるよ 編端みどり @Midori-novel

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