番外編9

「今後の為に、色々情報収集を致しますのでお任せください。宰相の人脈をフル活用致しますぞ」


逞しい味方を得た兄弟は、父へのサプライズを決めて解散した。


デュバルを味方にしてからは、フォスとイオスだけでは出来ない事も可能になった。やはり、長年宰相をしていたデュバルの情報網は侮れない。


デュバルが隣国に警戒網を張ったところ、フォスの結婚式を壊す計画がある事が分かった。


更に、セーラの国にもちょっかいを出すつもりらしくセーラを後宮に入れようとしているらしい。


「なんでセーラなんだ、オレを狙えば良いだろ」


この話を聞いたイオスは、イライラを隠しきれないでいた。フォスの結婚式は、シンプルに国に恥をかかせようとしていると推察出来た。だが、セーラを狙う意味がわからない。


「落ち着いて、イオス」


「兄貴、想像してみろよ。レミィ様が後宮に入れられようとしてるって知ったらどう思う?」


「即処分だよね」


「オレより過激じゃねぇかよ!」


「ははっ、イオスはイライラすると僕を兄貴って呼ぶ様になったね」


「過去の記憶もあるんなら区別しなくても良いかなって思ってな……ちょっと素が出た。申し訳ない。とりあえず、オレも今すぐ処したい気分だ。兄貴、良いやり方教えてくれ」


「そうだねぇ、過去にやってたえげつないヤツなら結構あるけど……イオスに言いたくないなぁ」


「ひとまず落ち着きましょう……。はぁ、隠し部屋で良かったです。おふたりのこんなお姿、セーラ様にも娘にもお見せできません」


「「婚約者が大事なのは当たり前だろう!」」


「それはそうですが、まるで皇帝陛下が3人居るようでなんとも……。とにかく、来週のフォス様の式の邪魔をしようとしている輩を排除します。既に大半を捕らえておりますが、尋問が進まないのでまだネズミが居るかもしれないのです」


「じゃあ、僕がやろうか。尋問」


「フォス様が?」


「過去に色々やってたからね。薬でぼんやりした記憶しかないけどやり方は覚えてるよ。試してみる価値はあるんじゃないかな?」


「兄貴の使用人、全員やたら忠誠心高かったもんな。オレも見てて良いか?」


「うーん……イオスには見せたくないなぁ」


「頼むよ、今更そんな事で嫌ったり引いたりしないからさ」


「まぁ、そうだね。良いよ」


「末恐ろしいような……頼もしいような……」


「デュバルはもう運命共同体だから諦めてくれ」


「よろしくね、父上」


そう言って笑う兄弟は、にこやかな顔をしていたが底知れぬ凄みがあり、デュバルは恐怖を覚えた。


だが、自分が恐ろしいと思うくらいの方が皇帝に相応しい。これなら、どちらが皇帝になっても安泰だとデュバルは密かに笑った。


その後、フォスの尋問により隣国の企みは露見し、イオスが自ら隣国に留学して、国内を引っ掻き回した結果、元締めは隣国の王子だと分かった。


隣国の王子は、セーラに横恋慕していたのだ。それを知ったイオスの怒りは凄まじく、フォスも手を貸した事で隣国の王子はあっさり破滅した。


更に、国にも多大なダメージを与え、隣国は壊滅。皇帝陛下の傘下に入った。皇帝陛下には、全てが済んでから報告したところ、予想通り怒り狂った。だが、既に獲物が手に入っていた為、国に手を出す事はなく、民に血が流れる事はなかった。


獲物は、皇帝陛下に丁重に進呈された。


「まさか、国が壊滅した理由がひとりのお姫様だなんて思わないよね。多分セーラは過去でも狙われてたんだろうね。僕も記憶はぼんやりだけど、フランツにやたらとセーラを勧められてたよ」


「……後宮問題もクソ王子の差金だったしな。多分過去でもセーラを助けて恩を売ろうとしたらオレが先に助けたんだ。さぞ悔しかっただろうよ」


「って事は僕が国を滅ぼしたのも……?」


「あの王子の差金だろうな。兄上の意思もあったかもしれねえけど。オレの記憶が確かなら、あのバカ王子はオレがセーラに襲われる寸前くらいで結婚しやがるんだ。多分、セーラの事はもうどうでも良くなったんじゃねぇか?」


「だから、あっさりセーラを捨て駒に出来たって事? 確かに、僕はさっさとセーラをイオスにけしかけようとしたのに、フランツがずっとストップをかけてたんだ。だけどある時を境に、それがなくなった。王子がセーラに興味がなくなったって事だったんだね」


「そうだろうな。今世で確かめられるか分かんねえけど」


「まだ獲物は生きてるかな? 確かめる?」


「やめようぜ。兄貴ならまだしも、父上の尋問を見る勇気はねぇよ」


「そうだね、母上に手を出したんだから、まだ生きてるか怪しいしね。生かして苦しめてるかもしれないけど」


「フォス様の尋問も恐ろしかったですが、皇帝陛下は別格ですからな」


「皇帝って、尋問も出来ないとダメなのか?」


「そのような事はありませんが、恐れられる事も皇帝には必要ですぞ」


「ならやっぱり、兄貴が向いてるよ」


「どうだろうね、怒り狂ったイオスもなかなかだったけど」


「兄貴だって、レミィ様に手を出されたらあんなもんじゃ済まないだろ?」


「……そうだね。イオスは優しいよ」


「基準が崩壊しておりますぞ。まぁ、頼もしい方が娘の夫で良かったですが……」


皇帝を決める投票はもうすぐ。デュバルは、密かに動き出した。

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