番外編8
「それは分かるよ。全て父上と調査したからね。母上に使った毒も、僕に使った洗脳薬も、製法と薬の現物を見つけた分は全部破壊したよ。最近定期的に健康診断するようになったでしょ? あれね、毒や薬が使われてないかも調べてるんだ。城に働きに来てる者には全員してるよ。調べてみると、文官や騎士なんかに、ちょこちょこ薬の被害者が居たよ。騎士団長に母上と同じ毒を盛ってたのはびっくりしたよね。アイツら、国政に少しずつ食い込もうとしてたみたいだよ」
「そういえば、過去では騎士団長は病に倒れられて、急遽交代されましたよね」
「そうそう、その交代する騎士団長の妻になる筈だったのが僕の婚約者のレミィだね」
「騎士団長の妻は宰相のお嬢様でしたね。今の騎士団長は、既に妻帯者ですが」
「皇帝が決まったあの時に、セーラを連れて来たのはレミィだったじゃないか」
「よく覚えてますね」
「僕は幼い頃はレミィが好きだったんだよね。だから、ぼんやりだけど覚えてるんだ。薬で色々されてるうちに、イオスへ執着しちゃってさ、イオスの好きなセーラが物凄く良く見えちゃったからセーラに言い寄ったけど、セーラからは相手にされなかったよ。もうさ、5歳も下の弟の好きな子に言い寄るって僕、痛すぎるよね。ホント勘弁して欲しいよ。僕はレミィが好きだったのに」
「そういえば、兄上とレミィ様は幼馴染でしたね」
「幽閉されて正気に戻るとちょっとだけ絶望したよ。もうレミィは騎士団長の奥さんで子どもまで居たしね。で、フランツと喧嘩してるうちに死んじゃったんだ。フランツはあれからどうなったの?」
「傷が化膿して半年苦しみ抜きました。あまりに哀れだという事で、処刑しましたよ。死ぬ時は礼を言ってました」
「ははっ、なかなか壮絶な最後だね」
「兄上も……その……」
言いにくそうにイオスが謝ろうとするが、フォスは止めて、今後の事を話し始めた。
「大事なのはここから。侯爵家だけで、こんな大それた事出来る訳ないんだ。絶対裏がある。セーラも過去を覚えてるんでしょ? 今度、3人でゆっくり話したいんだ。まだ、お互いの国が安全とは思えなくてね」
「どういう事ですか?」
「多分、セーラの国を滅ぼしたい奴がまだいる。それに、僕らの国を混乱させたい奴もね」
イオスは兄を信じて隠し部屋へ連れて行った。
「こんな部屋あったんだ。だからイオスはセーラを匿えたんだね!」
現在、イオスとセーラとフォスは、過去のイオスの部屋にあった隠し部屋に居る。フォスの婚約者のレミィも一緒だ。
それから、イオスの提案で宰相のデュバルも居る。セーラから話を聞いたフォスとイオスは、数々の企みの裏に冷戦状態の隣国が居るのではないかと考えていた。だが、詳細を話したくとも、どこで話が漏れるか分からない。皇帝陛下の目である密偵があちこちに潜んでいる為、城でそのような話をできる場所はほとんどない。
その為、イオスが過去に使っていた隠し部屋を提供した。現在は、一棟全てがイオス専用として使われており、イオスに忠実な使用人も揃っていた。例の隠し部屋は、天井裏にも潜めない。過去の皇帝が、そのように作ったからだ。
本日は、結婚式の打ち合わせという名目で集まっている。父上と母上に、育ててもらった恩返しをしたいので、サプライズを考えている。その打ち合わせだと使用人には伝えてある為、皆快く席を外してくれた。恐らく、忠実な使用人達は今日の事を皇帝陛下に報告する事はないだろう。
万が一報告されても、父も知らないフリをしてくれる筈だとフォスは言った。デュバルも、笑顔で同意した。
フォスはデュバルを呼ぶ事を反対したが、イオスはデュバルの人脈や、情報網が必要だと主張して今回の場が用意された。レミィだけに話すより、デュバルも巻き込んだ方が安心だとイオスは主張した。
「デュバル公爵は、義理堅い男ですし今後も兄上が皇帝になれば支えてくれる人物です。オレの時も、ずいぶん助けてくれました。彼は信用して良いと思います。それに、僕らだけで動くには限界があります。父上に全て話すのも手ですが、母上に手を出したと知れば見境なく戦争を仕掛けるでしょう。無駄に民の犠牲を出したくありません」
「……確かに、父上に言うのはナシだ。分かった、イオスを信じるよ。だけどイオス、皇帝になるのは僕じゃない、イオスだよ」
「兄上の方が向いています」
「……ま、それはおいおいだね。今は、目の前の事を片付けよう」
「はい!」
デュバルは、初めて見る隠し部屋に驚きを隠せない。部屋の由来を話せば、口をあんぐり開けていた。
「「安心してくれ、我々が愛人を持つなどあり得ない」」
口を揃えて主張する兄弟に、セーラもレミィもクスクスと笑った。
「このような隠し部屋は存じませんでした。ここに入れて下さる程に信用して頂き光栄ですが……一体おふたりは何を話したいのですか? 皇帝陛下へのサプライズにしては、厳重過ぎますぞ」
「デュバル公爵、いや、お父様。それからレミィ、これから我々が言う事は現実的ではない。だが、実際に僕たち3人が経験した事なんだ。レミィ、本当は貴方に言うのが怖い。お願い……僕を嫌わないで」
「フォスは相変わらず臆病ね。わたくし、貴方が好きよ。隠し事は嫌い。だからね、教えて。受け入れ難い事でも、頭ごなしに貴方を否定したりしないわ」
「そこで全て受け入れるって言わないあたりレミィだよね」
「そりゃそうよ。聞かないと判断できないもの。でも、隠さず話してくれようとするフォスは、素敵よ。大好き!」
「……ああもう、レミィには敵わないよ」
フォスは、少しずつ過去の事を話し始めた。最初は半信半疑だったデュバルとレミィだが、フォスやイオスが知らない筈の事を知っていたり、セーラの国の危機など見逃せない事も多くあり、最終的には3人は過去の記憶があると判断した。
「これは……確かに人に言えませんな。我々を信用して明かして下さった事、心から感謝致します。誰にも明かさない事を、ギレ・ディ・デュバルの名において誓います」
それは、本来であれば皇帝陛下にしか行わない誓い。デュバルは、ふたりの心意気に報いる為にあえて誓いを行った。
「同じく、レミィ・ディ・デュバルの名において誰にも明かさない事を誓いますわ。フォス、教えてくれてありがとう。隠すのは辛かったでしょう? わたくし、変わらずフォスを愛してるわ」
「レミィ……ありがとう……」
フォスはレミィに拒絶されなかった事に安心して、レミィを抱きしめ、静かに泣いた。
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