番外編5

「でも、皇帝を目指したんだ」


「はい、セーラと共に歩む未来が欲しかったので。セーラと再会するまでは、父上は無関心でしたし、使用人は全て兄上の配下で安心出来る場所はなく、オレの心は凍っていました。セーラを探したくて、継承権も放棄しようとしていたくらい、皇帝には興味がありませんでした。継承権の放棄は父上に認められませんでしたが、それに怒った兄上がセーラを暗殺者として送り込んできました。セーラがオレの目の前に現れた時にようやく心が戻ってきました。彼女が望むなら、殺されても構わないと思うくらい自分の命に執着はなかったです」


「そうか……ごめんね……僕はイオスにとって良い兄ではなかったんだね。母上が死ぬまでは、今の僕だったの?」


「いえ……今の兄上とは違っていました。母上が亡くなった時、僅かだけですが兄上は笑っていました」


「なんで……そんな恐ろしい事を……僕は……笑ったの……?」


「はい。それを見てオレは兄上を信用出来なくなりました。それから兄上はオレを殺そうとし始めたのです」


「僕は……何でそんな事を……」


「何故オレが憎まれたか、きっかけはわかりません。多分、調子に乗って知らず知らずに兄上を傷つけていたんでしょう。ただ……オレは、フランツが兄上についた事が関係あるのかと思っていました」


「ああ……確かに僕たちを対立させようと色々言ってたね。でも、イオスが僕を蔑ろにしているとは思わなかったから聞き流してたけど。一応、信じるフリくらいはしてあげていたよ。もしかして、過去の僕はフランツの戯言を信じたのかな?」


「以前のオレは兄上の信頼を得られなかったんでしょうね。フランツの方が信用出来ると思われたのでしょう。兄上を蔑ろにしたつもりはありませんでしたが、オレは出来ると調子に乗っていたのは事実です。教育が順調に出来たのは、兄上が事前に教えてくれていたからだという事に、過去のオレは死ぬまで気が付きませんでした」


「それは……やっぱり僕も最初は苦労したからね。イオスが少しでも助かれば良いと思ったんだ」


「兄上の優しさに気付かなかった事、本当に反省しています。兄上は優しく、いつもオレを見守ってくれていました。だから……兄上には絶対知られてはいけないと思っていたのです。それなのに、子どもだと感情のコントロールが上手くいきませんでした。フランツに冷たくする兄上を見ると、少し思い出して怯えてしまいました。不快な思いをさせてしまい申し訳ありません。以前なら、平気な顔で誤魔化せたのですが」


「イオスはまだ5歳だからね。さすがに無茶だよ」


「そういえば、オレは5歳でしたね。確かに5歳で一人称がオレは不自然ですね。さすが兄上です」


「あまりにしっかりしてるからたまに忘れるんだけど、まだイオスは子どもだからね?!」


「すっかり忘れていました。一応、教育は過去を思い出しながら、不自然でない程度の進み具合にしていたつもりですが……」


「イオスは、神童だと城中で言われてるよ?!」


「……失敗しましたね」


「まぁ、良いよ。確かにイオスが僕を立ててくれるから周りも僕も両親も気にしなかったけど、イオスばっかり褒められたら僕もマトモな判断出来ていたか怪しいしね」


「兄上も、まだ子どもですからね」


「イオスに言われたくないよ?! ……ねぇ、イオスは僕をどう思う?」


「尊敬出来る素晴らしい兄上です」


「そうか……良かった……」


フォスは、ボロボロと泣き始めた。


「黙っていて、申し訳ありませんでした」


「いや……これは……言えないよね。むしろよく言ってくれたね」


「逆の立場ならオレも知りたいですし、それに今の兄上は何もしていません。それなのに以前と重ね合わせるのはあまりにも兄上に失礼だと思いました。もっと早く気がつけば良かったと思っています。本当に申し訳ありません」


「うん、今の発言でイオスが過去を経験したのは間違いないと思ったよ。なんなの?! イオスがまるで宰相みたいだよ! 子どもらしいイオスは何処に行ったの?!」


「……その辺に居ますよ。多分」


「多分?! 多分って何?!」


「イオス、僕が国を滅ぼすっての詳細を聞いて良い?」


「……それが、オレも詳細が分からないんですよね。兄貴は反乱軍と繋がっていたそうで、武器やお金の提供もしていたそうですよ」


あれから、ふたりは泣きながら色んな事を話した。最終的に、お互いが謝罪しだしたところで、今は何も起こっていないのだから、気にしない事にしようと決めた。


それから、この事は誰にも言わないでおこう。兄弟だけの秘密にしようと話し合った。荒唐無稽な話は、場合によっては排除される事を知らないふたりではなかったからだ。ただし、イオスはセーラには既に伝えてしまったと言った。フォスも、それには納得していた。あれだけ仲が良かったなら、イオスも信頼して話すだろうと。


イオスは、セーラも過去を覚えている事は言わない事にした。


兄を信用しなかった訳ではない。セーラの記憶があると分かれば、兄がセーラに罪悪感を抱く事は容易に想像出来たからだ。


イオスは、今の兄を『兄上』過去の兄を『兄貴』と呼び区別する事にした。それを聞いたフォスは、兄貴……兄貴か……それも良いな、等と呟いてイオスを呆れさせた。

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