第16話

「え……あり得ないとは思ったけど、フォス様の発言ってそんなにまずかったの?」


「セーラ様、フォス様は2つ失敗をされました。ひとつはフランツが次期皇帝はフォス様だと言った時に嗜めなかった事。イオス様の侍従がそのような発言をしては、フォス様はイオス様の侍従を支配下に置いていると皆に分からせてしまいます」


「あれだけ取り繕っていたのに、イオスとフォスが敵対してると周りに知らしめてしまったのね」


「その通りです。せめてフォス様がまだ皇帝は決まってないと言えば良かったのですが、フランツの発言を当然のように聞いていた事で、優しい王子から傲慢な王子と評価は一変しました」


「ふたつめは、あの禁句か」


「あの発言で貴族のほとんどはイオス様を支持するでしょう。私も平民出身ですからな、怒りしかありませぬ」


「え?! そうなの?」


「はい、500年程前に貴族だけに流行る病が起きました。貴族は魔力持ちを産む為に血の近い者同士で子を作りすぎて、体内の魔力が暴走したのです。半分以上の貴族が死に絶え、平民から優秀な者を貴族に叙勲しました。私の家も、450年前文官をしていた先祖の働きぶりが認められて貴族となりました。その後、当時の王女様が降嫁してくださり公爵となったのです。我が家は過去の教訓を生かして、素養さえあれば平民を身内として受け入れる事も多いのです。わたしもそのひとりですな。フォス様の発言は、許し難い」


「仕事してりゃあ、貴族の養子縁組や、平民との結婚なんてしょっちゅうだから、自然と気がつく。オレは気になって歴史も調べたけど、言われてみりゃ家庭教師からは習わなかったな」


「はい、王族として成人してから自ら気がつくまでは教えないのがしきたりです。お若い頃の皇帝陛下も、疑問に思われて散々調べられておりました。私も付き合わされて大変でしたよ」


「そうか、父上は今は全く仕事をしないが、以前はしていたものな」


「フォス様にも王族としての仕事をして頂きたいと、わざと自分がやらない事で仕事を増やしたのです。ですがフォス様はイオス様に全てを押し付けた。イオス様、指名の前日に皇帝陛下との謁見があります。その時は、必ず正直な自分の気持ちをお伝え下さい。我々は、イオス様が望まなくてもイオス様を支持します。それでフォス様が皇帝になり、処刑されても構いません。平民が貴族になるなど烏滸がましいのなら、我々が王家に仕えてきたのは何だったのでしょうか。そのような皇帝に仕えるくらいなら、処刑された方がマシです」


「そんな事はさせない。デュバルにはまだまだ働いて貰う。もちろん、オレの下でな。オレは、必ず皇帝になる」


「イオス様が皇帝になる、そう言って頂けたのは初めてですな」


嬉しそうにデュバルが笑ったところで、鈴が鳴った。


「まずいよ! 多分フランツだよ! 早く戻らないと!」


「ちっ……いつも良いところで来るな。セーラは、寝室に隠れてろ。オレとデュバルで誤魔化す」


「分かった! 私はイオスにセーラの話を聞いて落ち込んでる設定でよろしく!」


部屋に入ったフランツが見たものは、揉めているイオスとデュバルだった。後ほどデュバルは、イオスがマリアを怒鳴りつけており見ていられなかったとフォスに報告した。


そして、数日後にマリアは城を出ていった。知らせを聞いたフォスは、とても喜んだ。その裏で、自分の評価が底辺にまで下がっている事には全く気がつかなかった。

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