第6話
「オレが、セーラを守るよ」
それは、果たされなかった約束。
「私ね、結婚するの。隣の大陸を統一している国王陛下の第三夫人だって」
「……なに?」
「そんな顔しないでよー! しょーがないじゃん?
最近うちの国荒れててさぁ、お金もないのよね。資金援助と引き換えに私が嫁げってさ」
「セーラは、それで良いのかよ?」
「王族の義務だからね。仕方ないよ。後宮に入ったら二度と出られないから、イオスと会うのも今日で最後かなぁ……」
セーラの目には涙が溢れているが、顔は必死に笑顔を作っている。
「セーラ、もし……もしもだぞ、結婚しなくて良いってなったら、嬉しいか?」
「そりゃ嬉しいよ。私だって第三夫人なんて嫌だもん」
「……そうか」
「イオス? 炎が漏れてるよ? そんな怒らないでよ。しょうがないんだからさ」
「なぁ、セーラ。もしオレがセーラを一生守るって言ったら迷惑か?」
「嬉しいに決まってるじゃん。まぁ、もうイオスとは会えないから夢物語だけどさ……」
夢物語にしない。オレが、一生セーラを守る。そう決めたイオスは、すぐに行動に移した。
イオスがセーラを望んだ事で、セーラの婚約話はなかった事になった。イオスは私財の半分をセーラの家族に譲渡した後、すぐに皇帝から与えられた仕事をする為に諸外国に旅立った。この仕事が終われば婚約出来る。だから待っててくれと書かれた手紙はセーラの元には届かず、セーラは全てを失った。
…………………………
「起きて! 起きてよイオス!」
「……痛え、オレは大丈夫だから叩くのはやめろ」
「ご、ごめんイオス!」
「セーラは変わんねぇなあ。オレが昔同じようにぶっ倒れた時も同じ事してただろ?」
「良かった、良かったよぉ……」
セーラはイオスに抱きついて、泣き崩れている。
「そうやって泣くところも変わらないな。大丈夫、こんくらいの毒なら夜には抜けるよ」
優しくセーラの頭を撫でるイオスは、毒で苦しい筈なのにとても嬉しそうだ。
「ごめん、ごめんね……イオスを信じられなくて……ごめんなさい……」
「あんな事あったんだ。助けにも来なかったオレを信じられなくて当然だ」
「違う……違うの……。心のどこかで、分かってた……イオスはこんな事する訳ないって。だけど、何かを恨まないと生きていけなかったの……」
「セーラが生きていく為なら、オレをどんだけ恨んでくれても構わないさ」
「なんで……なんでそんなに優しいの……」
「母上が死んじまって、やさぐれまくって態度が悪いクソガキだったオレに唯一優しくしてくれたのはセーラだぞ? いくらオレの国の方がデカくても、オレの態度は王族に対するもんじゃなかった。だいぶ酷かった筈だぜ?」
「けど、私はイオスを殺そうとしたんだよ?!」
「オレは生きてる。なんの問題もない。それにセーラは兄貴に騙されただけだ。セーラは悪くない。悪りぃのはオレと、兄貴……それから同盟国が滅ぼされそうなのになんもしなかった皇帝だ。セーラの国が滅んだのも、オレ達のせいだ」
「滅んだ原因は分からないけど……、イオスは私を助けようとしてくれてたんでしょう? 私が後宮に行かなくて済んだのもイオスのおかげだって聞いたよ」
「金がないのが問題なだけなら、オレの私財を渡せば済むからな」
「嬉しくてみんなで喜んでたら、内乱が起きてあっという間に城は制圧されたわ。王族しか知らないエリアも、隠し部屋もあっさり見つかってみんな捕まった。私は、フォス様が助けてくれたの。……そう……思ってたの」
「隠し部屋……まさか、幼い頃セーラが内緒だって教えくれた部屋か?!」
「そう、そこ。家族以外は、イオスとフォス様しか知らないし、あっさり見つかったのはイオスが情報を流したからだってフォス様に言われたわ。私財をほとんど提供したのに、すぐ私を差し出さなかったからイオスが怒ったって」
「んな訳あるかよ! あの時は皇帝から視察の仕事が済んだらセーラと婚約出来るって聞いて、必死で仕事してたんだよ。手紙は送ったぜ。返事来ねえから2回送った。1ヶ月しても、音沙汰ねぇからおかしいと思って調べようとしたら、オレの送った手紙と、セーラからの助命嘆願の手紙が同時に来たんだよ」
「うそ……」
「確かにセーラの字なのに、まるでオレを恐れてるような文章だったから、読んですぐにセーラの国に行ったけど、間に合わなかった。ごめん……」
「ううん、私こそごめんなさい……イオスはこんな事した私にも優しくしてくれるし、怒って人殺しなんてする人じゃないのに……なんで、なんで疑ったのかなぁ。私、馬鹿だね……」
セーラの目からは、涙が溢れている。イオスはハンカチでセーラの涙を拭きながら苦しそうに言った。
「オレはセーラが思ってる程優しくねぇぞ。階段で聞いてたんなら分かるかもしれねぇけど、暗殺者は何人も殺してる。話が分かる奴は解放してるけど、兄貴に心酔してまったく会話が通じない奴はさっきみたいに跡形もなく焼き尽くしてるぞ。セーラに見せかけた遺体だって、ちょっと前に襲ってきた暗殺者だ。オレのどこが優しいんだよ」
「でも、イオスは私を助けてくれたよ。さっきだって、なんで私を殺さなかったの?」
「セーラを殺せる訳ねぇだろ」
「そうじゃなくて、私の服を切った時、イオスならすぐ私を殺せたよね? いつもああやって、最初は力の差を見せつけて、追い返してるんじゃないの?」
「何人も殺すのは面倒だからな。それでも向かって来る奴は容赦なく始末してるぞ」
「やっぱりイオスは優しいよ」
「オレを優しいなんて言うのはセーラだけだ。オレはみんなから恐れられてるからな。優しい兄貴と、怖い弟。皇帝陛下の跡を継ぐのは兄貴が相応しいってな」
「そんな事ない! イオスは、イオスは優しいよ……。私が、イオスを信じられたら……何か違ったのかなぁ……」
「これからはオレが守るから。今は泣きたいだけ泣いてくれ。オレこそ、セーラがいちばんつらい時に側に居なくてごめんな。……なぁ、セーラを抱きしめても良いか?」
「うん……うん……」
イオスは、恐る恐るセーラを抱きしめた。セーラは泣き崩れながらも、もっと強く抱きしめてと懇願する。
「悪りぃ、まだあんまり力が入らねぇや。毒が抜けたらもっと強く抱きしめられるのになぁ。なぁ、セーラがオレを抱きしめてくれよ」
「イオス……イオス……」
強く抱きしめる事が出来ないイオスに、セーラが力いっぱい抱きつく。イオスも嬉しさのあまり涙が止まらない。セーラが泣き疲れて眠るまで、ふたりは泣きながら抱きしめ合っていた。
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