同じ腹から
Take_Mikuru
同じ腹から
◯結樹家、リビング・中・夕方
友木(25)と紗季(19)が向かい合ってダイニングテーブルに座っている。
2人の前にはそれぞれステーキとサラダが一皿ずつ置かれている。
2人はそれぞれ黙々と食べている。
しばしこの状態が続く。
友木はステーキを切っては口に運びながら、何かを期待している様子で時折紗季をチラ見する。
同じように、紗季もサラダを口に運んでは、何かを期待している様子で時折友木をチラ見している。
この状態がしばし続くと、今度は友木がフォークをステーキの皿に少し当てて音を立てながら咳払いをし、紗季の様子を伺うように紗季を見る。
紗季はサラダの皿を口元まで持ち上げ、一気にサラダを口の中にかき込むと、皿をテーブルに置き、友木の反応を待つように友木を凝視する。
2人はしばし睨み合っている。
テーブルを見ると、友木はステーキのみ、紗季はサラダのみが綺麗さっぱりなくなっている。友木はサラダ、紗季はステーキに一切手をつけていない。
友木は残りのステーキを噛み砕いて飲み込むと、苛立った様子で深呼吸をし、口を開く。
友木「・・・何か言う事あるんじゃない?」
紗季も苛立った様子で息を荒げている。
紗季「お兄ちゃんこそ」
友木は自分の空になったステーキの皿を指で強く突っつく。
友木「ステーキ」
紗季は手に持っているフォークを立て、自分の空になったサラダの皿に突き刺す。
紗季「サラダ」
2人同時に「美味しいのかって!」
2人はお互いに息を荒げて睨み合っている。
友木「俺がお兄ちゃんだ、先に言え!」
紗季「生まれた順番なんて関係ないでしょ!?私の方が早く出来たんだから先に言いなさいよ!」
友木「お前そのサラダほぼ盛り付けただけだろ?こっちは生肉焼き上げてんだよぉ!見ろよこの厚み!」
友木は紗季のステーキの皿を指差す。
紗季「し、知らないわよそんなの!てかそっちこそ焼いただけでしょ!?何言ってんのよ!?」
友木「あああ!!!うるせぇ!うるせぇ!ホンっトに可愛くねーなぁテメェは!」
紗季「それゃすいませんねご意向に添えなくて、そっちこそ信じらんないくらい頼りねぇ兄貴だけどなぁ!」
友木は一瞬固まってから、もの凄い勢いで泣き叫び始める。
友木「うううううああああああはああああ!!!!!」
紗季「泣いても何も変わりませんよぉー!?」
友木は目に涙を浮かべながら顔を赤らめた状態で紗季を睨みつける。肩が上下するほど激しく呼吸しながら友木は目の前にあるサラダの皿を床に投げ捨てる。
友木「ううああああああ!!!!!!!!」
それを見た紗季は一気に表情が固まり、目を見開いて友木を凝視する。
数秒この状態が続くと、紗季は目の前にあるステーキの皿を思いっきり放り上げ、ステーキが高く宙に舞う。紗季は素早くナイフを手に取り、友木に向かって思いっきり投げる。
すると、ナイフが友木の頭上ギリギリでステーキを捉え、そのまま友木の後方にある壁に突き刺さる。壁にステーキが突き刺さっている。
紗季は肩を上下させながら激しく呼吸し、ナイフを見ている。
友木は恐る恐る壁に刺さっているナイフを見る。
友木「ああああああああ!!!!!!!!!」
〇塾、指導ブース・中・昼
田中総一郎(14)が椅子に座って泣いている。田中の前にはノート類が置ける机がある。
田中の隣には友木が座っており、田中と同様に目の前に机がある。
他のブースが見えないよう、ブース内は一部以外全て仕切りで囲まれている。
田中は顔を真っ赤にしながら泣いており、友木はそれを優しく見守っている。
友木は優しく田中の肩をポンポンしてあげる。
友木「・・・そんなのはさぁ、クソ喰らえなんだよ」
田中は「え?」という顔で友木を見上げる。
友木「うん、あのな、勉強なんてな、やらなくてもいいんだよ」
田中は口を開けて友木を見ている。
友木「おう、やらなくていい、できなくてもいい、そんなこと本当にどうでもいい」
田中は笑いだす。
それにつられて友木も笑いだす。
友木「総一郎君にはその弾ける笑顔があるじゃん、それにゲームだって、アニメだって、沢山あんじゃん!そういうのがあればいいんだよ、勉強なんておまけおまけぇ~」
田中はさらに声を上げて笑う。
友木は田中に合わせて笑う。
友木「そうだよそれそれぇ~」
〇塾、入口・中・昼
友木と田中が入口まで出てくる。
田中は笑顔で鞄を背負っている。
2人は立ち止まり、田中は笑顔で友木の方を振り返る。
田中「先生さよなら」
友木も笑顔で答える。
友木「おう、さよなら、今日もお疲れ様、気をつけて帰ってね」
田中「はい!」
田中は笑顔で入口を出て行く。
友木は満たされた様子で歩いていく田中を見ている。
すると田中が後ろを振り返り、笑顔で友木に手を振る。
友木もまた笑顔でそれに応える。
しばし友木はその場で余韻に浸っている。
すると、横から須藤元気(25)が声をかけてくる。
須藤「よう〜」
友木はビックリした様子で心臓を抑える。
須藤はそれを見て笑う。
須藤「わりぃ、わりぃ、偉く余韻に浸ってんなぁ〜って思ってつい声かけちゃった」
友木は「なんだお前かよ」という顔で須藤を見る。
友木「なんだよお前、やめてくれよぉぉ」
須藤「すまんすまん、で、誰?」
友木「うん?」
須藤「だからさっきの生徒だよ」
友木「ああ、総一郎君だよ」
須藤は露骨に興味が失せた素振りをする。
友木「おい、お前が聞いたんだろ?」
須藤「ああ、すまんすまん、聞いた俺が悪かった、休憩行こうぜ」
須藤はそのまま入口とは反対方向に歩き出す。
友木は笑いながら須藤の方を見る。
◯冷蔵庫内・中・昼
冷蔵庫が開き、中にはエネルギードリンク3本とブラックコーヒーのボトル3本、そしてタピオカが入っている。タピオカが取り出される。
〇塾、講師室・中・昼
講師室には丸机が2つあり、各机をそれぞれ3つの椅子が囲んでいる。
須藤は奥の方にある丸机にチョコレートの包みを広げて食べている。
友木は須藤の後ろにある冷蔵庫からタピオカを取り出し、須藤の横に座る。
須藤はちらっと友木のタピオカを見る。
須藤「お前またタピオカか」
友木「うん、そう言うお前もまたチョコレート」
須藤「ああ、塾講師は頭を使うからね。糖欠になるのよ」
友木「酸欠みたいに言うなや」
須藤「おお、ツッコミを習得したようだね」
友木「別に、ツッコミって言うほどのものでもねぇよ」
須藤「ほうほぉーう」
須藤は前を向きながらチョコをむしゃむしゃ食べ続けている。
友木はそんな須藤を見ながらタピオカを飲み、講師室の壁沿いに置かれているロッカーたちの方に視線を移す。
この状態がしばし続く。
須藤がチョコを食べ終わると、突然丸机に両手を置く。その際、パン!という音がする。
須藤「友木、推しメンは?」
友木は驚いた様子で須藤を見る。その際、友木の口からタピオカが一粒溢れる。
須藤は凄い目力で友木を見る。
友木はタピオカを拾おうとする手を止める。
須藤「聞こえてるだろ、今の推しメンは?」
友木「推しメン?」
友木は開けっ放しになっている講師室入り口の方を気にするように見る。
須藤「ああ、この前聞いた時は若槻さんだったよな」
友木は「いい加減にしてくれよ」と言わんばかりの表情で須藤を見る。
須藤「で、どうなんだ?」
講師室前から男女の話し声が聞こえる。女の方がキャッキャッしている。
須藤は講師室入口の方に目線を移し、残念そうな様子でチョコレートの包みを片付け始める。
友木もその様子を見てティッシュを取り出し、落としたタピオカを拾う。
講師室前の男女の話し声がどんどん近づき、竹田尚孝(24)と若槻瑠美(17)が講師室に入ってくる。
竹田「だからお前はさっきから何言うとんねん」
若槻はこの上なく楽しそうに竹田の横に引っ付いている。
若槻「だからぁ、今日の分の英語はぁ〜、明日やってくるぅっ」
竹田「いやいや、だからぁ、何言うとんねん、なんでそれが受け入れられると思うたんや」
若槻はこの上なく楽しそうに笑っている。
竹田は後ろを振り向き、友木と須藤に会釈する。
竹田「お疲れ様です」
須藤「お疲れ様です」
友木「お疲れ様で〜す」
この時、友木と若槻の目が合う。
若槻は少し気まずそうに笑って会釈する。
若槻「あ、お久しぶりでぇ〜す」
友木は笑ってそれに応える。
友木「あ、久しぶり〜」
竹田は若槻を振り返る。
竹田「お前、敬語使えんだな」
若槻も竹田に目線を戻し、これまた嬉しそうに笑いながら答える。
若槻「それはそうだよぉ〜、一応高2までちゃんと学校行ってるし」
竹田「ろくに勉強もしてへんのにな」
若槻「っああ〜もうヒッド〜イ!それが講師の言うことなんですかぁ〜??」
竹田「ああ、そうや、だからこれも言ったる、もう次の授業始まるから、ちゃんと授業時間までに予習終わらせとけよ、ええな?、じゃあ以上、とっとと出てけ」
若槻は相変わらずこの上なく嬉しそうに笑いながら、明らかに戯れている様子で口をとんがらせる。
若槻「もう!先生嫌い!講師変更しちゃうよぉ〜??」
竹田は手に持っている書類に目を通している。
竹田「ああ、せいせい、その方が俺も気が楽だわ、はよせいせい」
若槻は悪戯そうに竹田を見ながら、「もう終わりかな?」と言わんばかりの顔をしている。
若槻「・・・ああもう分かったよぉ〜、やってくればいいんでしょ?」
竹田「ああ、最初からそう言うとるやないかい、はやいけや〜」
若槻「もう〜」
若槻は顔を膨らませながらも、楽しそうな様子で竹田を見ながら講師室を去っていく。講師室を出ると同時に若槻がスキップし始めるのが見える。
竹田は書類を確認し終え、友木と須藤を振り返って会釈する。
竹田「騒がしくしてすんません、授業行ってきます」
須藤は竹田に会釈する。
須藤「お疲れ様です」
友木も竹田に軽く会釈する。
友木「お疲れ様で~す」
竹田は会釈を返し、講師室を出て行く。
須藤は椅子の背もたれにもたれかかりながら友木を見ると、講師室のドアまで歩いていく。
講師室のドアを閉めた後、須藤は元の席に戻って改めて友木を見る。
友木は傷ついた様子でタピオカを片手に宙を見ている。
この状態がしばし続く。
須藤はチョコレートの包みを隣にあるごみ箱に捨てて立ち上がる。
友木は依然として宙を見つめている。
須藤は何か声をかけたそうにしている。
友木は突然肩を揺らして笑いだす。
友木「ひっひっひっひっひっひっ」
須藤はかける言葉に迷っている様子で目線を泳がせている。
友木はどんどん笑いのツボに入っていく。
須藤はしばし友木を凝視してから、同じように笑い始める。
須藤「ひっひっひっひっひっひっ」
友木は須藤を見る。
友木の顔は笑っているものの、声は出ていない。
須藤は友木を見ながら笑い続ける。
須藤「ひっひっひっひっひっひっ」
友木の顔から笑顔が消える。
須藤「・・・あれ?、ひっひっひっひっ?」
友木は傷ついた様子で下を向いて数回頭を横に振る。
須藤は笑うのをやめ、「あ~」と言った表情で友木を見る。
須藤「・・・まぁ、そんなに気にすんなよ、講師変更だろ?よくあることじゃん」
友木は溜息をつく。目は涙目になっている。
友木「もう何回目だよ。あいつに取られるの。あの手の生徒は皆あいつんとこ行くじゃん。もう嫌だよ」
須藤は友木をしばし見つめてから再度椅子に座り、丸机に両肘を置いて下を向く。
須藤「・・・そうだよな。あの感じはキツいよな。俺らの入る隙ないもんな。生徒にはそんなつもりないんだろうけど、正直、普通に傷つくよな」
友木「うん、、、」
友木は安心した様子で須藤を見る。
友木「お前もそうだったんだな」
須藤「まぁな、何かあのイチャついてる感じはやめて欲しいよな、完全女になってるもんなあれゃぁ」
友木「うん、ホンっトにそう」
須藤「ああ」
須藤は友木を見る。
須藤「まぁ、でも、俺は講師変更になったことないけどな」
友木は唖然とした表情で須藤を見る。
須藤はそんな友木を見て笑う。
須藤「ああ、ごめんな、励まそうと思ってさ」
友木は頭を横に振りながら笑う。
友木「いや、それならさ、それ言わないでよ」
須藤「だな、ごめんな」
友木は笑い、須藤もそれにつられて笑う。
〇塾、指導ブース・中・夜
工藤朱里(17)が友木の横に座っている。
工藤の目の前には英語のテキストが開かれており、工藤はそれを真剣に見つめている。
友木は優しい表情で英語のテキストと工藤を交互に見ている。
友木「うんうん、それで、beautifulは品詞でいうと何だっけ?」
工藤はしばし考え込む。
工藤「う~ん、けいようし?」
友木「そう!いいね、ってことは、これはO?、それともC?」
工藤「・・・しー?」
友木「正解!できたね」
工藤はホッとした様子で笑い、友木を見る。
工藤「はい!」
友木も笑顔で応える。
友木「他に分からないところはある?」
工藤「いえ、今のところ大丈夫です。ありがとうございます」
友木「いえいえ、じゃあ、時間だし、今日はこれで終わりにしよっか?」
工藤「はい、ありがとうございました!」
友木「うん、お疲れ様」
工藤は笑顔で友木に会釈をすると、机の上を片付け始める。
友木も机の上を片付けながら工藤の方を見る。
友木「工藤さんって部活とかやってるんだっけ?」
工藤「あ、はい、ダンス部です」
友木「お~、いいね」
工藤「ありがとうございます」
若槻「あれ?朱里じゃん」
工藤が横を見ると、工藤と友木が座っているブースの前に若槻、その後ろに竹田が立っている。
工藤「お!留美!」
工藤は笑顔で勢いよく立ち上がる。
若槻も笑顔で応える。
若槻「お疲れぇ~、朱里もこの塾だったんだぁ~」
工藤「そうそう!最近入ったの!」
工藤は何かに気づいた表情になる。
工藤「あ、」
工藤は友木を振り返って軽くお辞儀をする。
工藤「すみません、今日はありがとうございました」
友木「いえいえ、お疲れ様~」
工藤は笑顔で会釈し、若槻を振り返る。
若槻「今日はもう終わりぃ~?」
工藤「うん、留美は?」
若槻「あ~、そのはずなんだけど、何かこの人が帰して来んないんだよねぇ~」
若槻は竹田を振り返る。
竹田「いやいや、俺のせいちゃうねんて」
若槻はこの上なく楽しそうに笑う。
工藤と竹田の目が合い、お互いに会釈する。
工藤「あ、はじめまして、工藤朱里です」
竹田「あ、講師の竹田です」
工藤「よろしくお願いします」
竹田「いえ、こちらこそ~」
竹田が友木の方をチラっと見てから工藤と若槻に視線を戻す。
竹田「それじゃ、一旦ここは引き上げようか」
工藤「あ、はい」
工藤は友木を振り返って笑顔で軽くお辞儀する。
工藤「すみません」
友木は笑顔でそれに応える。
友木「あ~、いいえ~」
竹田「じゃあ」
竹田は手を入口の方に向け、若槻と工藤が2人で話しながら入口の方に歩いていく。
竹田は友木に向かって会釈する。
竹田「すみません」
友木「あ、いえいえ」
竹田も若槻と工藤に続いて入口の方に歩いていく。
竹田が若槻と工藤に追いつくと若槻から声をかけられ、竹田がそれに返すと、若槻と工藤が大爆笑する。指導ブースエリアを抜けるまでこのやり取りが続く。
友木はゆっくりと立ち上がり、その様子を悲しそうに眺めている。
〇商店街・外・夜
友木は何かを堪えている様子で歩いている。
友木の両脇にはスーパーや飲食店がある。
少し歩くと、友木の右手にラーメン屋が現れる。
友木はラーメン屋を見ると、その方向に歩みを進める。
〇ラーメン屋・中・夜
友木がカウンター席に座りながら、ラーメンのドンブリを両手で持ち、そのまま口をつけて汁、麺共に物凄い音を立てながら吸い込んでいる。途中でドンブリを持ち上げ過ぎ、大量の汁が友木の上着にかかる。友木は痛みで叫びながらもドンブリから口を離さず、吸い込み続ける。
友木「んんんんんん!!!!!!」
板前にいる店主の声だけ聞こえる。
店主「ちょっと、お兄さん大丈夫~?」
〇結樹家、風呂場前・中・夜
友木がラーメン汁まみれの上着を脱いで洗濯機に入れる。
〇結樹家、風呂場・中・夜
友木は風呂につかり、両手で自分の顔を叩き続けている。顔を叩く度に水もかかっている。
〇結樹家、風呂場前・中・夜
友木が機嫌悪そうに鏡を見ながらドライヤーで髪を乾かしている。
〇結樹家、リビング前・中・夜
友木がリビングに繋がるドアの前に来て立ち止まる。
友木の首の周りにはタオルが巻かれている。
友木は深呼吸をしてからドアを開ける。
〇結樹家、リビング・中・夜
リビング中央にあるダイニングテーブルに紗季が座っている。
紗季はスマホをいじっている。
友木は紗季を見て溜息をついてからドアを閉める。
紗季は友木の方を見る。
友木も紗季の方を見る。
数秒間沈黙が続く。
紗季「・・・おう」
友木「・・・おう」
友木はすぐに紗季から目線を外し、ダイニングテーブルの少し先にある冷蔵庫に向かう。
それを見た紗季もすぐにスマホに目線を戻す。
友木はキッチンの中から杏仁豆腐の容器とプラスチックスプーンを取り出し、その場で食べ始める。
しばしこの状態が続いた後、紗季がスマホの画面を消してから立ち上がり、ドアの方に向かう。
それを感じ取った友木は紗季を見ずに、杏仁豆腐を食べながらダイニングテーブルに座る。
紗季はドアの前まで来ると、ふと何かを思い出した様子で立ち止まる。
紗季「あ、」
紗季は友木を見る。
友木は相変わらず杏仁豆腐に夢中になっている。
紗季「お兄ちゃん」
友木はちょうど杏仁豆腐が乗ったスプーンを口の中に運んだところで静止し、静かに顔と目線を上げ、紗季を見る。
紗季は疲れた様子で友木を見ている。
紗季「・・・いや、食べなよ」
友木はしばし紗季を凝視した後、パクッとスプーンに乗った杏仁豆腐を食べ、モグモグしながらスプーンを下に下ろす。
紗季はずっと疲れた様子で友木を見続けている。
友木が杏仁豆腐を飲みこんで頷く。
紗季は飽きれた様子で息を吐き出す。
紗季「・・・ママの誕生日ディナーの場所なんだけどさ、高級フレンチ、予約しといたから」
友木は急に咳き込む。
友木「・・・高級フレンチ?ママの誕生日に?」
紗季「・・・うん」
友木「・・・なんで、、、」
紗季「あたしが前に友達と一緒に行ったとこなんだけど、めちゃくちゃいい感じだからさ、行きたいなって思ってさ」
友木「ママってフレンチだっけ?」
沈黙が流れる。
友木「ママって韓国料理好きじゃなかったっけ?」
紗季「まぁそうだけどさ、もう予約しちゃったし、いつも韓国料理ってのもあれでしょ?だからとにかくそういう感じでよろしくね」
友木「嫌だよ、、、ママの誕生日なんだからさ、、、」
紗季「だからもう予約しちゃったから、ごめんね?今年は高級フレンチだからぁ」
紗季はそれだけ言い残すと、後ろを振り向いてドアを開け、足早にリビングを出て行く。
ドアが勢いよく閉まる。
友木は腹が煮えくり返っている様子でしばしドアの方を見つめた後、思いっきり杏仁豆腐の容器を潰す。杏仁豆腐が思いっきり友木の顔と髪にかかる。
友木はしばしその状態のまま静止した後、急に泣き叫び出す。
友木「うあああああはぁぁ!!!!!」
〇塾、講師室・中・昼
友木がボオーっと丸机に座っている。
須藤が立った状態で後ろに来て、友木の頭の匂いを嗅ぐ。
友木が須藤を見上げると、須藤は何回か鼻をクンクンした後に首を傾げる。
須藤「お前なんか、甘い匂いするな」
友木は数秒間須藤を見つめてから前を向く。
友木「アンニン」
須藤「ん?」
友木はウンザリした様子で答える。
友木「杏仁豆腐だよ」
須藤は数秒間首を傾げた状態で静止する。
須藤「・・・おお」
友木はぼおーっと前を見ながら溜め息をつく。
須藤は怪訝そうな目で友木を見つめる。
数秒後、須藤自身も深呼吸し、横を向く。
須藤「ちょっとツラかせよ」
須藤はドアの方に歩き出す。
友木は怪訝そうな顔で須藤の方を見ている。
すると須藤の声だけが聞こえる。
須藤「早く」
◯塾、入口付近・中・昼
須藤が壁沿いに立って壁の向こう側を覗いている。
友木は「何やってんだよ」と言わんばかりの表情でその後ろに立っている。
時折他の塾講師が怪訝そうな目で2人を見ながら横を通っていく。彼らに対して、友木は「参っちゃいますよ〜」と言わんばかりの表情で軽くお辞儀をしていく。
須藤が友木の方を振り返る。
須藤「おい、いたぞ」
友木はかったるそうに須藤を見る。
友木「なにが?」
須藤は友木に顔を近づける。
須藤「期待のスーパー新人だよ、しかも」
須藤は友木の腕を肘打ちする。
友木は嫌そうに顔をしかめる。
友木「なんだよ」
須藤「かわいい」
須藤はさらに強い力で2回友木を肘打ちする。
友木は須藤を強めに押す。
友木「だからいてぇーっつってんだろ」
須藤は少し重心が後ろにいきながらも、後ずさることなく、再び友木に顔を近づける。
須藤「チャンスだろチャンス!」
友木「もういい加減にしてくれよぉ〜」
須藤「いいからいいから、とりあえず見てみろよ、おう」
須藤は友木の腕を掴み自分がいた位置に引っ張る。
友木は無理やり須藤がいた位置に立たされ、須藤はその後ろに立つ。
須藤は何度も両手で軽く友木の背中を押す。
須藤「早く、早く」
友木は心底うんざりした様子で須藤を見返してから、「仕方ないなぁ〜」と言わんばかりの表情で壁の端に近づき、壁の向こう側を覗く。
壁の向こう側には、少し距離のある所に入り口があり、なんとその入り口付近にある椅子にスーツ姿の紗季が背筋をピンと伸ばして座っている。
友木は驚きのあまり声を上げてしまう。
友木「んあ!」
瞬間的に紗季が友木の方を見る。
友木はあまりの動揺にまた奇声を上げてしまう。
友木「うああああ!!!!」
紗季は心底困った様子で友木を見ている。
須藤が横からスッと友木を壁の後ろに引き戻す。
須藤は友木の胸ぐらを掴んで壁に押し付け、顔を近づける。
須藤「お前自分が何やってるか分かってんのか?!」
側から男の声がする。
塾長「おい何やってんだ、ここは塾だぞ塾、講師が騒いでどうすんだ」
須藤と友木が塾長(44)の方を見る。
須藤は友木から手を離し、体を塾長に向ける。
須藤「大変失礼いたしました」
須藤は深々とお辞儀をする。
友木もそれに続く。
友木「失礼しました」
塾長は2人を睨みつけながら舌打ちをし、入り口の方に歩き去っていく。
須藤は塾長を見送ってから友木に向き直る。
友木は心底嫌そうな顔で須藤を見ている。
◯塾、講師室・中・昼
須藤と友木は丸机に隣同士で座っている。
須藤「おいおいおい、嘘だろ」
友木「嘘じゃねぇんだよ、バッチリ目合ったもん。あれゃ紗季だよ、紗季以外の何者でもねぇよ」
須藤は「なんてこった」と言わんばかりの表情で背もたれにもたれかかり、息を吐き出す。
友木は思い詰めている様子で両手で頭を抱えながら深々と溜息をつく。
須藤は同情している様子で友木を見る。
この状態がしばし続く。
すると突然、友木が肩を揺らしながら笑い始める。
友木「ひっひっひっひっひ」
須藤はただただ友木を見つめている。
友木は大きく目を見開いた状態でゆっくりと顔を上げ、同じように笑い続ける。
須藤はより一層心配そうな様子で友木を凝視している。
友木はさらに大きな声で笑い始める。
友木「っひ!ひっひっひ!っひ!ひっひっひっ!」
◯塾、指導ブース・中・夜
友木が指導ブースに座り、隣で真剣に教材を見つめている琴葉(13)を見ている。
少し奥のブースから田中の声が聞こえてくる。
田中「先生、ありがとうございました!」
友木はチラッと田中の方を見る。
田中は奥の方のブースの前に立ち、ブース内にいる人物にお辞儀をしている。
それを友木は「あれ?」と言わんばかりの表情で見ている。
すると、ブースの中から紗季が出て来る。
紗季「いえいえ、今日もお疲れ様。沢山頑張ったね」
友木は驚いた様子で紗季を凝視する。
紗季はこの上なく穏やかで優しい笑顔で田中を見ている。
紗季「さよなら~」
田中「さよなら!」
田中は踵を返し友木のブースの方に歩いてくる。
田中はとても嬉しそうに笑っている。
友木のブース前辺りまで来ると、田中は紗季を振り返り手を振る。
紗季は明るく笑いながら田中に手を振り返す。
紗季「またね~」
田中は満足そうに笑いながら友木のブースを通り過ぎていく。
今目の前で起こった出来事が信じられない様子で友木は田中を見てから紗季に視線を戻す。
紗季が笑顔で田中を見送っていると、さらに奥のブースから塾長が出て来る。
塾長はこの上なく嬉しそうに笑っている。
塾長「いやぁ〜、初めてとは思えないですね〜、本当は指導のご経験おありなんじゃないですか〜?」
紗季は照れた感じで笑いながら塾長を振り返る。
紗季「あ、いえ、本当に初めてなんです。私なんて本当にまだまだなので」
塾長「いやいや〜、下手な社員よりもよっぽど上手ですよぉ〜」
紗季は照れた様子で笑っている。
紗季「いやいや、本当にそんなことないです」
塾長もこの上なく楽しそうに笑っている。
塾長「総一郎君も本当に楽しそうに紗季先生の指導を受けていましたし、これからが楽しみですね」
紗季「はい!これからよろしくお願いいたします」
紗季は塾長にお辞儀をする。
塾長は嬉しそうに笑っている。
塾長「あ~、こちらこそよろしくお願いいたします。それでは一度講師室に戻りますか」
紗季「はい!」
塾長が手で促し、紗季が友木のブースの方に歩き始める。
塾長もその後に続いて歩き始める。
友木は不満そうな様子で2人を凝視している。
すると、琴葉の声が聞こえてくる。
琴葉「先生、」
友木は一切気づかず、全く姿勢を変えない。
琴葉「先生」
友木は琴葉を見る。
友木「ん?」
琴葉「ここの問題、分からないんですけど、、、」
友木は我に返った様子で琴葉の前に置かれている教材と琴葉を交互に見る。
友木「あ~、ごめんごめん」
友木は教材に顔を近づける。
友木「どれどれ~」
そうしているうちに、塾長と紗季が笑いながら友木のブースを通り過ぎる。
友木は思わず2人を不満そうな眼差しで見る。
横で琴葉の声だけが聞こえてくる。
琴葉「先生、先生!」
〇塾、入口・中・夜
琴葉が入口の方に歩いている。
友木は琴葉の後ろに続いている。
入口近くまで来ると、友木は立ち止まる。
友木「じゃあ今日もお疲れ様」
琴葉は一切友木の方を見ず、スタスタと入口まで歩いて外に出る。
友木「・・・さよな、、、」
友木は満たされない様子で溜息をつく。
友木はしばしそのまま入口の方を見ている。
後ろから竹田が歩いてくる。
竹田「あ、ちょっとすみませ~ん」
友木が後ろを振り向くと、竹田が会釈しながら友木の横を通り過ぎていく。
その後から工藤が歩いてくる。
友木は工藤に気づいた様子で彼女を見るが、工藤は通り過ぎる時にちょっと会釈をするだけで、友木と目線を合わせないまま入口の方に歩いていく。
竹田が入口前で立ち止まり、工藤を振り返る。
竹田「じゃあ今日もお疲れちゃん」
工藤は満面の笑みで真っすぐ竹田を見る。
工藤「ありがとうございました!また来週もよろしくお願いします!」
竹田「あ~、こちらこそ~」
工藤は笑顔で会釈し、入口の方に歩いて外に出て行く。
友木は傷ついた様子で歩き去っていく工藤を見ている。
竹田は素早く踵を返し、会釈しながら竹田の横を通っていく。
竹田「お疲れ様です」
友木は一泊遅れて頷く。
友木「お疲れ様です」
友木はしばしその状態で静止した後、ゆっくりと講師室の方を向き、歩き出す。
〇結樹家、リビング前・中・夜
友木が勢いよくリビングに繋がるドアまで歩き、そのままドアを開ける。
〇結樹家、リビング・中・夜
友木がリビングに入ると、紗季がダイニングテーブルに座ってコンビニで買ったサラダを食べている。
友木は息を荒げながら紗季を睨むように見ている。
友木「なぜ」
数秒間沈黙が流れる。
紗季はいきなり手に持っているフォークをダイニングテーブルに強く叩きつけ、友木を睨む。
紗季「それはこっちのセリフよ!」
友木はダイニングテーブルに数歩近づく。
友木「あ?あれは俺の職場だ!俺は3年前からいるんだよ!」
紗季「あれは私のバイト先よ!どっちが先とか関係ないわ!早く辞めてよ!」
友木「なんで今日入って来たペーペーにそんなこと言われなきゃいけねぇんだよ!バイト先なら他にいくらでもあるだろ!なんでよりによってうちの塾なんだよ!」
紗季「家から近くて時給がいいからよ!それ以外ないじゃない!」
友木「変えろよ!!!とっととバイト変えろよ!!!不愉快で仕方ないんだよこっちは!!!」
紗季「だからこっちのセリフよ!!!セクハラされたとでも言って辞めさせてもらうから!」
友木「お前ふざけんなよ!!!どれだけ歯食いしばって働いてると思ってんだ!」
紗季「知らないわよそんなこと!!!どうせ歯食いしばってるだけでロクに役に立って
ないんでしょ!!!???」
友木は傷ついた様子で紗季を睨みつけながら、肩を上下させる程荒く呼吸している。
紗季も肩を上下させ、荒く呼吸しながら友木を睨みつけている。
しばしこの状態が続く。
友木「・・・うるせぇえなぁ!!!!!!!!!!黙ってサラダ食ってろォ!!!!!!!!」
友木は傷ついた様子で後ろを振り向き、ドアの方に歩き始める。
紗季はただただ友木を見ている。
少しの沈黙がある。
紗季「お兄ちゃん」
友木は立ち止まり、少し期待している様子で紗季を見る。
紗季「・・・黙って食べるかは私の自由だから」
友木は紗季を見たまま固まる。
少しの沈黙の後、紗季はムシャムシャサラダを食べ始める。
紗季「うん、美味しいなぁ~」
友木はその様子をただただ見つめている。
少しの沈黙の後、友木が突然泣き叫び始める。
友木「うううああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」
紗季は何事もなかったかのようにそのまま食べ続けている。
友木は泣き叫び続けながら踵を返し、全速力でリビングを出て行く。
〇道路・外・夜
友木が道路のど真ん中を泣き叫びながらただただ全速力で走っている。
友木「おおおおあああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!
〇公園・外・夜
友木が泣き叫びながら全速力で公園のど真ん中まで来て止まり、夜空を見上げる。
友木「ああああああああ!!!!!!もう嫌だもう嫌もう嫌だぁ!!!!!!!!もうバカもう死ねもういやだぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!もうあいつホンっトに嫌だぁ!!!!!!!!!!!!!!!!」
友木は肩を揺らして激しく呼吸しながらそのまま地面に膝を落とす。
しばしこの状態が続くと、顔を両手で抑えて大声で叫びながら地面に泣き崩れる。
友木「ああああああああああ!!!!!!!!!!!!うあああああああああああんんんんんんんんんん!!!!!!!!!!!
〇塾、講師室・中・昼
友木は丸机に座りながら突っ伏している姿勢をとっており、顔だけ横を向いている。
友木の目は真っ赤に腫れあがっている。
入口の方から須藤の声が聞こえてくる。
須藤「おはようございます」
他の講師数人「おはようございま~す」
須藤の足音が近づき、友木の前で止まる。
須藤「お前大丈夫か?目が真っ赤っかじゃないか」
友木「・・・」
須藤は「大丈夫か本当に」と言わんばかりの表情で友木を見てから壁沿いに置かれているロッカーの方に歩いていく。
友木は死んだような表情で入口の方を凝視している。
少しすると、紗季が満面の笑みで講師室に入って来る。
紗季「おはようございま~す!」
他の講師たち「おはようございま~す!」
紗季はあらゆる方向を見てお辞儀をしながら挨拶している。
すると、後ろから塾長が講師室に入ってくる。
塾長「お~、紗季先生、おはよう~」
紗季は満面の笑みで塾長を見る。
紗季「おはようございます!」
塾長「ホントに素晴らしい笑顔だね~」
紗季「いえ全然そんなことないです、ありがとうございます!」
塾長「うん、じゃあ、紗季先生はそこに座ってもらおっかな」
塾長は近くにある椅子を手で指し示す。
紗季「はい!ありがとうございます!」
塾長「うん」
紗季はその椅子に座る。
塾長が改めて講師室を見渡していると、竹田が入って来る。
竹田「塾長、おはようございます」
塾長「お~竹田、おはよう」
竹田は塾長に丁寧にお辞儀をしてから他の講師たちの方を向いて簡単に会釈する。
竹田「おはようございます」
他の講師たち「おはようございま~す」
塾長「じゃあ、座っちゃって」
竹田「はい」
竹田は塾長に丁寧にお辞儀をし、紗季の隣にある椅子に座る。
塾長「それでは、これから朝礼を始める」
友木は深呼吸をしながら上体を起こす。
塾長「皆さん、おはようございます」
他の講師たち「おはようございます!」
塾長「今日からいよいよ夏季講習が始まる。特に受験生にとっては勝負の夏になります。全講師、いつも以上に気を引き締めて指導にあたるように」
他の講師たち「はい!」
塾長「それでは今日もよろしくお願い致します」
他の講師たち「よろしくお願い致します!」
全講師が一斉に立ち上がり、教材等を手に持ちながら講師室を出て行く。
そんな中で塾長が紗季と竹田に近づく。
塾長「紗季先生、今日からは何か分からないこと、困ったことがあったらこの竹田に聞いてくれ。指導ブースも隣にしてあるから、万が一指導中に何かあった時も竹田に聞くといい。彼はうちのエースだからね」
紗季「はい!わかりました!」
紗季は満面の笑みで竹田を見てお辞儀する。
紗季「結樹紗季です!よろしくお願い致します!」
竹田も紗季を見て会釈する。
竹田「あ、いえ、こちらこそよろしくお願い致します」
塾長「じゃあよろしく頼むよ」
竹田「はい!」
紗季「お疲れ様です!」
塾長は口を閉じたまま口角だけ上げ、講師室を出て行く。
竹田は紗季を見る。
竹田「それでは早速行きましょうか」
紗季「はい、よろしくお願い致します!」
竹田は頷き、講師室を出る。
紗季も竹田に続いて出て行く。
友木は座った状態でウンザリした表情でそれを見ている。
須藤は教材を片手に持った状態で友木の隣に立っている。
須藤は軽く深呼吸をして友木を見る。
須藤「・・・大丈夫か?」
友木はふと鼻で笑う。
友木「もうホンっトに嫌だ」
須藤は困った様子で友木を見ながら深呼吸をし、励ますように友木の肩をギュッと掴む。
友木はずっと入り口を見つめ続けている。
◯塾、指導ブース・中・昼
友木がブース内で作業をしている。
奥の方から大きな笑い声が聞こえる。
友木がそちらの方を見ると、若槻、紗季、竹田がブースの前で立ち話をしている。
若槻はこの上なく楽しそうに笑いながら紗季を見ている。
若槻「可愛い〜!ヤバイ!」
紗季は照れながら嬉しそうに笑っている。
紗季「いやいや、そんかことないよ、瑠美ちゃんこそ可愛い過ぎるよ〜」
若槻「ヤバイ!めっちゃ嬉しい!」
竹田「今日から正式にアルバイトとして来てくれることになったんや、だから俺がいない時とかは紗季先生に担当してもらうこともあるかもしれん」
若槻「大歓迎でぇ〜す!」
竹田「おい、なんかお前俺ん時よりも嬉しそうやな」
若槻「もぉ〜、嫉妬しーなーい!」
竹田「いや嫉妬ちゃうわ!」
若槻がこの上なく楽しそうに笑っている。
紗季も楽しそうに笑っている。
友木は憎しみのこもった目で3人を睨みつけながら大きく深呼吸をする。
◯塾、廊下・中・昼
友木が不服そうな様子で廊下を歩いている。
田中が前から歩いてくる。
田中「あ、先生こんにちは!」
友木は田中を見ずにそのままスタスタ歩き去っていく。
友木「はいこんにちは」
田中は立ち止まり、少々ビックリした様子で友木の方を見る。
◯塾、講師室・中・昼
友木が入ってくると、竹田と紗季が丸机に座って話している。
友木は2人を見るなり立ち止まり、大きく深呼吸をする。
2人も友木を見る。
竹田「・・・大丈夫ですか?」
紗季は唖然とした表情で友木を見ている。
友木はしばし2人を凝視する。
竹田は紗季をチラッと見てから視線を友木に戻す。
竹田「結城先生、どうかされましたか、あの、今フィードバックの最中なんで」
友木は動揺した様子で一旦視線を外してから竹田に視線を戻す。
友木「・・・すみません、、、」
友木は竹田に会釈すると、目線を紗季に移す。
数秒間、友木と紗季はお互いを見合う。
友木は目線を外し、奥の方の丸机に歩いていく。
竹田は目で友木を追った後、紗季を見る。
紗季は少し落ち着かない様子で座っている。
竹田「大丈夫ですか?」
紗季は瞬時に満面の笑みを作る。
紗季「あ、はい、すみません!全然大丈夫です!」
竹田「はい、じゃあフィードバック続けていきますね」
紗季「はい!よろしくお願い致します!」
竹田「お願いします」
友木は奥の方の丸机に座って2人を心底憎らしく思っている様子で睨んでいる。
竹田「それにしても、塾長のおっしゃっていた通り、初めてとは思えない指導力ですね〜」
紗季「あ、いや、いえ、全然そんなことないです、竹田先生の指導が本当に凄すぎて、、、」
竹田「いえいえ、まぁ、私は一応社員ですしね、社員としては最低レベルくらいですよ」
紗季「へぇ〜、考え方もストイックなんですねぇ〜」
竹田「あ〜、いえ、私は別に」
友木は腕を組み、目を閉じて苦悶の表情をしながら大きく唸り始める。
友木「んん、んん、んんん!!」
竹田と紗季が友木の方を振り返る。
友木はそのまま激しく唸り続ける。
竹田は恐ろしいものを見る目で友木を凝視している。
紗季は下劣なものを見る目で友木を凝視している。
友木は立ち上がり、激しく唸りながら背中を思いっきり丸めては思いっきり広げる動きをもの凄いスピードで始める。
友木「んあ!んあ!んあ!んあ!んあ!」
すると須藤が息を切らして講師室に駆け込んでくる。
須藤「おい友木!お前大丈夫か?!」
友木は構わず激しく唸りながら動き続けている。
須藤は「なんてこった」と言わんばかりの表情で友木まで走っていき、両肩を掴む。
須藤「おい、友木!友木ぃぃ!!!」
友木はさらに激しく唸りながら動き始める。
すると講師室に息を切らした塾長が入ってくるなり友木を睨みつける。
塾長「一体何をやってるんだ貴様ぁ!恥を知れい!!!」
友木は激しく頭を震わせながら泣き叫び始める。
友木「うああああああああはああああああああ!!!!!!!!」
須藤は友木を抑えながら塾長を振り返る。
須藤「何てことするんですかぁ!余計取り乱すでしょうがぁ!!!」
塾長「オメェ、上司になんて口の聞き方だぁあ!!」
須藤「うるせぇなぁぁ!!!」
須藤は友木を須藤に向かって解き放つ。
須藤「行けぇぇ!!!」
友木はまるでモンスターのように泣き叫びながら全速力で塾長に突進していく。
すると突然竹田が友木と塾長の間に入り、友木を思いっきり回し蹴りする。
友木は一瞬で床に倒れ込み、叫び声もなくなる。
竹田は少々回し蹴りの余韻に浸ってから、すぐに塾長を振り返る。
竹田「塾長、お怪我はないですか?」
塾長「・・・ああ」
塾長はゴミを見るような目で床に倒れ込んでいる友木を見る。
塾長「・・・一体なんだったんだあれは、、、」
竹田も友木の方を見る。
紗季は目をキラキラさせながら竹田を見ている。
須藤は肩を揺らし、激しく呼吸しながらこの上なく悲しそうな表情で友木を見ている。
塾長「コイツぁ首だな」
塾長は竹田を見る。
塾長「竹田」
竹田は瞬時に塾長を振り返る。
竹田「はい」
塾長「結樹の担当を頼む」
竹田「あ、はい、かしこまりました。あの、2人ですよね?」
塾長「いや1人だ、総一郎君も講師変更になったんだ」
その場全体に沈黙が流れる。
竹田「あ、はい、かしこまりました、責任をもって引き受けさせていただきます」
塾長「ああ。悪いな、担当32人はそれなりにキツいと思うが」
竹田「いえ、己を鍛えるチャンスだと捉えております」
塾長「おお、さすがうちのエースだな」
塾長は紗季と竹田を交互に見る。
塾長「それじゃあ引き続き頼むよ」
竹田・紗季「はい!」
塾長は2人に頷いた後、須藤を睨みつける。
塾長「そういえばテメェもさっきひどい態度だったな。結樹と合わせて貴様も首だ。とっとと出てけ。二度とそのクソみたいな面見せんじゃねーぞ。分かったか!?!?!?」
須藤は依然として激しく呼吸しながらこの上なく悲しそうに友木を見ている。
塾長「おい貴様返事は!?!?!?!?」
須藤はこの上なく悔しそうな表情で塾長を睨みつけ、大声で泣き叫びながら全速力で塾長に突進していく。
須藤「うああああああああああああああああ!!!!!!!!!」
すると瞬時に竹田が反応し、再び回し蹴りで須藤を床に沈める。
友木と須藤は隣同士で床に倒れ込んでいる。
塾長は下劣な物を見る目で2人を見てから竹田と紗季を見る。
塾長「申し訳ないのだが、コイツら摘み出しといてくれないか」
竹田「はい、かしこまりました」
紗季は竹田を見てから塾長を見る。
紗季「あ、はい、かしこまりました!」
塾長「うん」
塾長は講師室を出て行く。
竹田は友木と須藤を見下ろす。
紗季も立ち上がって竹田の隣に行き、同様に2人を見下ろす。
〇塾、入口・外・昼
友木と須藤が地面に投げ捨てられる。
竹田と紗季が並んで2人を見下ろしている。
竹田「よし、じゃあ戻るか」
紗季はキラキラした目で竹田を見る。
紗季「はい!」
竹田は少し口角を上げて紗季に頷き、塾内に戻っていく。
紗季はそれに付いていく。
入口のドアが閉まる。
友木と須藤は地面に倒れ込んだまま、ピクりとも動かない。
◯同・外・夕方
友木と須藤は依然として入口前に倒れ込んでいる。
すると、若槻が歩いてくる。
若槻は怪訝そうな表情で2人を見ながらゆっくりと近づき、友木の前で立ち止まる。
友木は完全に伸びた顔で目を瞑っている。
若槻は助けを求めている様子で入口から塾の中を覗き、誰もいないことを確認すると、苛立った様子で友木を見る。
若槻「・・・せんせい」
友木は全く反応しない。
若槻は溜息をつき、足で友木を譲る。
若槻「せんせい」
若槻が譲るのを止めると、友木が目をパチパチさせながら若槻の方を見る。
若槻「せんせい、どいてください。入れません」
友木は「え?」と言わんばかりの表情で若槻を見てから後ろにある入口を見る。
友木「ああ?」
友木は須藤が横に倒れていることに気づく。
友木はすぐさま両手で須藤の肩を掴み、激しく譲る。
友木「おい!須藤!須藤!大丈夫かぁ!?」
若槻「あの!」
友木は激しく呼吸しながら我に返った様子で若槻を振り返る。
若槻「竹田先生との授業に遅れちゃうので、さっさとどいてもらってもいいですか?」
友木は深く傷ついた表情で若槻を見る。
若槻「だからぁ!早くどけよ!クソ講師!」
友木は涙ぐみながら若槻を見ている。
すると入口のドアが開き、友木と須藤が端に押し出される。
入口に竹田が立っている。
若槻はこの上なく嬉しそうな表情で竹田を見る。
若槻「竹田先生!」
竹田「おお、若槻こんちは、ごめんな、こんなもん置いといて、入りにくかったやろ」
若槻「はい、本当ですよぉ〜、もうしっかりしてください!」
竹田「ああ、すまん、すまん、じゃあ今日は何か好きな雑談でもしてええよ」
若槻「わぁ、やったぁ〜!」
竹田「おう、じゃあはよ入れや」
竹田は若槻に手招きする。
若槻はこの上なく嬉しそうに笑いながら中に入っていく。
若槻「はぁ〜い」
竹田は少し口角を上げて若槻に頷いてから、ゴミ屑を見るような目で友木と須藤を見る。
友木は心底傷ついている目で竹田を睨みつけている。
竹田はそれに全く動じる事なく、心底軽蔑している目つきで真っ直ぐ友木を見る。
竹田「はよいけや」
竹田は勢いよくドアを閉める。
友木はこの上なく殺気立った様子で最高潮に息を荒げている。
すると後ろからギュッと肩を掴まれる。
竹田が素早く後ろを向くと、須藤が竹田を力強い表情で見つめている。
友木は涙を堪えるように口をつぐむ。
須藤は力強い目で友木を見つめ続ける。
しばしこの状態が続く。
すると、須藤が数回小さく頷く。
友木は覚悟を決めた様子で一度大きく深呼吸する。
◯塾、入口・中・夕方
友木が中に入ってくる。
友木は入口前にある大きなデスクに近づく。
デスクの上には書類やペンが置かれている。それらの中に一本カッターが置かれている。
友木がカッターと目線を合わせると、目の前から太い男の声が聞こえてくる。
塾長「貴様ぁ!!!テメェは首だっつっただろぉ!!!」
友木は憎しみのこもった目で塾長を睨みつける。
塾長「おい、出てけよ、早く出てけよ!使えねー人間はいらねんだよ!」
友木は深呼吸をしながら塾長を見つめている。
塾長は憤慨した様子で一気に友木の方に歩いて来る。
友木は瞬時に塾長の襟を掴んで自分の方に引っ張り、思いっきり頭突きする。
塾長「あ!」
塾長は痛そうにしながら少し後ずさる。
塾長の鼻から血が出ている。
友木はそのままデスクの上にあるカッターを掴み、少し出してから思いっきり塾長の頸動脈を切り裂く。
一瞬塾長の動きが止まる。
数秒後、塾長の頸動脈から大量に血が流れ出る。
塾長は過呼吸になりながら頸動脈を抑えるも、すぐに床に崩れ落ちる。
塾長は床に仰向けに倒れた状態で過呼吸になっている。
塾長の頸動脈からは血がどんどん流れ出ている。
友木は憎しみに溢れた目で塾長を見下ろし、塾長の顔面の前にしゃがむ。
塾長は必死な表情で友木を見つめている。
友木は塾長をしばし見てから、カッターで塾長の顔に大きなバッテンを刻む。
塾長はこの上なく苦しそうに叫び、塾長の顔面からはどんどん血が流れ出ていく。
刻み終えると、友木は立ち上がって塾長を見下ろす。
塾長は僅かに血を吐き出しながら僅かに呼吸している。
しばしこの状態が続く。
すると、後ろに紗季が立っている、
紗季が持っている教材を床に落とす。
塾長が力を振り絞って手を僅かに紗季の方に動かす。
友木は呆れた様子で笑い、紗季を振り返る。
紗季は絶望している様子で友木を見ている。
友木はふと笑って塾長を見返し、塾長の手を踏みにじる。
塾長は苦しそうに唸りながら友木を見上げている。
友木はそれを見ながら声を上げて笑い始める。
友木「ひっひっひっひっひ」
友木はそのまま紗季を振り返り、紗季の方に歩いていく。
紗季は恐怖を感じている様子で友木を凝視している。
友木は相変わらず声を上げて笑いながら歩き、そのまま紗季を通り過ぎていく。
紗季は「ん?」と言わんばかりの表情で後ろを振り返るも、塾長に視線を戻す。
紗季は塾長に駆け寄る。
紗季「塾長!大丈夫ですかぁ!塾長!」
◯塾、指導ブース・中・夕方
4,5人の講師がそれぞれ生徒1人に指導している。
奥の方のブースで竹田が若槻に指導している。
若槻のこの上なく楽しそうな笑い声と竹田の低い声によるツッコミが聞こえてくる。
友木は手に持っているカッターの刃を少し伸ばしながら竹田のブースに歩みを進める。
周りの講師が怪訝そうな表情で友木の方を見ている。
友木は相変わらず大きな笑い声を上げながら歩いている。
友木が竹田のブースの前辺りまで来る。
若槻が通路側、竹田が奥に座っている。
若槻はこの上なく楽しそうに笑いながら竹田との会話に夢中になっており、通路に背中を向けている。
竹田は若槻を見て笑いながらも、友木の方に視線を移す。
友木「うあああああああ!!!!!!!」
若槻が驚いた様子で友木を振り返った瞬間、友木は若槻の首を思いっきり切り裂く。
若槻は一瞬何が起こったのか分かっていない様子で竹田を見る。
竹田は驚愕している様子で若槻を見ている。
すると、若槻の首から一気に血が流れ出ると同時に若槻が床に崩れ落ちる。
竹田はこの上なく動揺している様子で若槻きら友木に目線を移す。
友木は憎しみに溢れ返った目で竹田を見ながらカッターを振り上げる。
竹田は手に持っている教材を思いっきり友木に投げつける。
教材が友木に当たり、友木は一瞬竹田から目線を外す。
その隙に竹田が友木に向かって行くと、友木が目線を外しながらも振りかざしたカッターの刃が竹田の目を切り裂く。
竹田「ああああああああ!!!!!」
竹田はこの上なく苦しそうに叫び、目からは血が流れ出ている。
友木の目線が竹田に戻り、カッターで竹田のもう片方の目をブッ刺す。
竹田は再びこの上なく苦しそうに叫ぶ。
友木がカッターを抜くと同時に大量の血が流れ出る。
友木はそのまま竹田の頭を両手で掴み、何度も何度も顔面を膝蹴りする。
しばらくこれが続くと、友木は隣のブースに思いっきり竹田を投げ入れる。
友木は大量の血を流しながら倒れている若槻を見ると、思いっきり叫びながら思いっきり腹を蹴る。
若槻は完全に息絶えており、ピクリとも動かない。
友木はそれを見てふと笑い声をあげる。
そんな中、竹田がこの上なく苦しそうに唸りながら立ち上がろうとしている音が聞こえてくる。
友木はそれを見るなり、素早くカッターをポケットにしまい、竹田を思いっきり蹴り飛ばす。そこからさらに胸ぐらを掴んで何度も何度も顔面を殴り続ける。
しばらくこの状態が続く。
すると、
紗季「お兄ちゃん!」
他の講師と生徒たちが驚愕している様子で友木を見ている中、紗季がそれらの前に1人で立っている。
友木は一切手を止めずに竹田をボッコボコに殴り続ける。
竹田の顔は血まみれになり、もはや顔の原形が崩れ始めている。
紗季は痺れを切らした様子で一気に友木の後ろまで歩く。
紗季「お兄ちゃん!」
友木は一切手を止めない。
すると友木はポケットの中からカッターを取り出し、思いっきり竹田の頭の側面にぶっ刺し、そこから思いっきり手前に引き、目ごと切り裂く。
竹田は大絶叫する。
竹田の片目が床に落ちる。
そこから友木はこれまでの憎しみを爆発させるような叫び声を上げながら竹田の首の下部にカッターをぶっ刺し、そのままカッターを上に上げ、首を半分に切り裂いていく。
須藤が指導ブースの入口まで走って立ち止まる。
須藤は肩を激しく上下させながら友木を見守っている。
紗季は涙を流しながら友木の肩を引っ張る。
紗季「お兄ちゃんやめて!!!」
友木は思いっきり紗季の手を振り払い、大きな叫び声を上げながら一気に竹田の首、さらには顔面を半分に切り裂く。
竹田の首と顔面から大量の血が流れる。
友木は切り裂き終えると、数秒間肩を激しく上下させながら首と顔が切り裂かれた竹田を見つめる。
数秒後、友木は憎しみのこもった叫び声を上げながら竹田の足を払い、床に倒れた竹田の顔面をカッターで何度も何度も刺し続ける。
友木「うあああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」
紗季は友木の後ろの床に倒れており、涙を流しながら友木を見ている。
須藤は「もうさすがにまずい」と言わんばかりの表情で友木を見ている。
すると、講師と生徒たちの間を田中が歩いてくる。
田中「先生、結樹先生」
紗季は必死な表情で田中を見る。
紗季「総一郎君、ダメ!こっちに来たらダメ!」
田中は紗季を見ずに友木の後ろまで来る。
田中「結樹先生、何やってるんですかぁ?」
友木は全く耳を貸さず、竹田を刺し続けている。
すると田中は怒った表情で友木の背中を殴る。
田中「先生!無視するな!」
紗季「総一郎君!」
すると友木はカッターを思いっきり後ろに振り、田中のおでこを切り裂く。
田中は泣き叫びながら床に倒れる。
田中のおでこからは血が流れ出ている。
友木は田中を振り返って立ち上がる。
友木「ギャンギャンうるせぇなぁ!!!オメェも結局紗季の方に行ったじゃねーかよ!!!どいつもこいつも俺を見下しやがってよぉぉ!!!」
友木は他の講師と生徒達を憎しみに満ち溢れた表情で見る。
友木「みんな死ね!!!!!死んじまえええ!!!!!」
友木が他の講師と生徒達に向かって行こうとすると、紗季が友木のお腹にしがみつき、懇願するように友木を見上げる。
紗季「お兄ちゃん、もうやめて、この人達は関係ないでしょ、もう本当にやめて!」
友木はこの上なく傷ついた表情で紗季を見ると、紗季の髪を掴み、思いっきり頭突きする。
紗季は痛そうに唸りながら床に倒れる。
友木はこの上なく傷ついた表情で紗季を見下ろす。
友木は肩を激しく上下させている。
友木「・・・全ての元凶はお前だろ」
紗季は苦しそうな表情で友木を見上げる。
友木「・・・お前が、俺をお兄ちゃんとして見てくれないから」
紗季は困惑した様子で友木を見ている。
須藤は感極まった様子で友木を見ている。
友木「小さい頃のように、お兄ちゃんお兄ちゃん!って、来てくれないからぁ!!!」
紗季は言葉を失っている様子で友木を見ている。
友木は涙を流しながら紗季を見ている。
しばしこの状態が続く。
すると突然友木が泣き叫び出す。
友木「なんとか言ってくれよぉ!!!!!」
紗季は涙ぐみながら友木を見つめている。
友木も涙ぐみながら紗季を見つめている。
須藤は相変わらず感極まった様子で友木と紗季を見つめている。
すると、入口の方から人が数人入って来る音がする。
警察官1「大丈夫ですか!?」
須藤が入口の方を見ると、警察官1が倒れている塾長に駆け寄っている。警察官2と3は入口付近でそれを見ながら無線で何かを話している。
須藤は焦った様子で友木の方を見てから警察官達の方に目線を戻す。
警察官2「ちょっと君、何があったんだ」
須藤が焦った様子で友木と警察官2を交互に見ていると、警察官2が須藤の方に歩いてくる。
警察官2「ちょっと君、何をやってるんだ」
須藤はこの上なく焦った様子で警察官2を見てから友木の方を見る。
須藤「友木はやく!」
友木はチラッと須藤の方を見る。
紗季「お兄ちゃんだって、、、」
友木は素早く紗季に視線を戻す。
紗季は涙を流しながら友木を見上げている。
紗季「お兄ちゃんだって、昔みたいにさきさき〜って来てくれなくなったじゃない!」
友木は大事なものを思い出させられた様子で紗季を見つめている。
紗季は涙を流しながら友木を見上げている。
友木は言葉を失っている。
紗季「紗季だって寂しかったんだよ!」
友木は紗季の言葉に心臓を刺されたかのような様子で歯を食いしばり、涙を流す。
警察官2「手を上に上げなさい!」
警察官2と3が友木に向かって拳銃を向けている。
須藤がその後ろでこの上なく悔しそうな表情をしている。
友木は紗季を見つめながら涙を流し続けている。
紗季も同様に友木を見上げている。
友木は唾を飲み込んで口を開く。
友木「・・・ごめんな、お兄ちゃん、とんでもない勘違いをしてたみたいだ」
友木は自分を嘲るようにふと笑い、紗季の隣に倒れている若槻、そして後ろに倒れている竹田を見て大きく深呼吸する。
紗季「お兄ちゃん」
警察官2「早く両手を上に上げろ!従わなきゃ撃つぞ!」
友木は警察官2の方を見て両手を上げ、カッターを床に捨てる。
紗季「お兄ちゃん!」
友木「お兄ちゃん、ちょっと行ってくるよ」
友木は涙を流しながら紗季を見る。
友木「ごめんな、こんなクズ兄貴で」
紗季をワンワン泣き始める。
紗季「お兄ちゃん!」
友木は顔を崩しながら涙を流し、警察官2と3の方を向く。
警察官2が拳銃を構えたまま友木の方に走っていき、手錠をかける。
友木は涙を流しながら従い、紗季はその隣でワンワン泣いている。
須藤は悲しそうな表情で入り口の方に歩いてくる友木を見ている。
警察官3はその隣で無線に何かを報告している。
警察官2に連れられた友木が須藤の目の前を通り過ぎる。
その際、友木と須藤がお互いを見合う。
友木は涙を流しているものの、どこか充足感を感じている表情をしている。
須藤はただただ悲しそうな表情で友木を見ている。
友木は須藤に静かに頷く。
須藤もそれに応じる。
友木はそのまま警察官2に連れられて入口の方に向かっていく。
入口からは夕日の光が差し込んでおり、まるで友木を包み込むかのように塾内に広がっている。
同じ腹から Take_Mikuru @Take_Mikuru
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