第2話 机と読書と勉強と
屋根に弾かれるような雨音は、いつも読書の理解を早めてくれる。
ここでは濡れることもなく、他の誰にも邪魔されずに好きな雰囲気で、好きな音に包まれ、好きな机の上で、ただ静かに好きに囲まれることができる、僕だけの空間だ。
ある日は本に浸り続け、ある日は勉強に励み、ある日はその両方を。ここにはずっと通い続けている。
そんな僕に居場所を与えてくれた竹おじさんとは小さい頃に事故で救われた時に始めて出会った。
七歳くらいだったと思う。
公園で遊んでいたら、僕と同い年くらいの女の子がボールを追いかけて道路に飛び出していくのが見えた。反対車線からはトラックが来ていて、路駐してある車に阻まれて女の子が見えていなかった。僕は思わず走り出して、トラックがぶつかる直前のところで女の子を包むように抱いてその場に丸まった。
トラックは避けようと並木にぶつかって、ガラス片が飛び散った。
その瞬間は助かったと思ったが直後に背中から胸に掛けて激痛が走った。僕はその場に倒れ込んだが、その時近くにいて病院に運んでくれたのが竹おじさんと言うわけだ。
正直女の子とは病院で会ったきり、どうなったのかもわからないし、あの時取った行動に後悔もしていない。ただこうして読書という素晴らしい趣味と巡り会えたのも、他人にも関わらず竹おじさんが毎日病院に本を持ってきてくれたおかげなのだ。
パタンっと開いていた本を閉じると、次に教科書とノートを広げる。別に勉強は趣味というわけではない。ただ知識をつけておくと本をスムーズに読める。ただそれだけの理由だ。
「おいアオちゃん、なんか飲むか?」
こうして竹おじさんはたまに様子を見にきては、僕が何もしていなかったり、キリが良いと見ては声をかけてくれる。
「うーん、今日は何茶があるの?」
「まだガキなんだからお茶以外要求したらどうだ」
「他に選択肢があったなら驚きだけど」
「ねえな。ガハハ。商品汚すといけねえから奥で飲めよ」
始めようと広げたノートをそのままに、奥の部屋へと向かう。
リビングには複雑に動く時計の置物や陶器の飾りなど、竹おじさんの趣味がわかる。
「ほい、熱いのと冷たいの、右左どっちだ。好きな方当ててみ」
少し気持ちの悪い笑みを浮かべた竹おじさんは腰の後ろに手を回して、二つの湯呑みを隠している。
「猫舌なんだけど」
まあまあ、と言うおじさんの後方、右側から湯気が見えた。
「じゃあ左。僕から見てね」
「あ、ずりぃ時間稼ぎやがったな」その通り。
茶に口をつけ、ふうっと一息ついていると、馴染みのガラガラ、という音が耳に入る。
「すみません、やってますか」
まさか。竹おじさんも驚いた表情だった。
「客...だと...?」
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