第21話 騒がしい一日

 あの日が近づいて来ている。セレーネは小さく息を吐いた。三年前からこの日が近づくと、いや、三年前、知るまではまだ。

 今年はヴィリロでなくグラナティス。来ないだろう、来ないでくれ、と祈っていた。


 町も城内も、男も女もその日に向けてそわそわしている。それは国王であるレウィシアも。遠回しな言い方で欲しいものを聞いてくる。フィオナ、アルーラまで使い。それとも確認か。その日を忘れていないか、という。

 一年に一度のイベント。夫婦、親子、恋人、想っている人、大切な人へ贈り物をする日。告白する者もいるとか。セレーネも知っている。毎年、祖父やバディド、父方の叔父一家、世話になっている人に日頃の感謝を込め、菓子を作り、贈っていた。

 昨年も。思い出し頭痛が。

 フィオナも色々考えているらしい。一般的には菓子や花を贈る。そのため菓子店は盛況。その日にしか作らないという菓子まで。それはそれで興味が。

 レウィシアとは毎日ではないが、お茶をしている。セレーネとしてはそれで十分なのだが、レウィシアは違うらしい。

 休暇で訪れていたダイアンサスの邸から戻れば、執務室の机には紙の束が。それでも建国祭前ほどではない。セレーネも手伝い、片付けていた。

 日課のマンドレイクの水と魔力遣りを終え、庭で心ここにあらずの状態で一人お茶をしていると、

「久しぶり」

 現れた女におもいっきり顔をしかめる。

「なんて顔してんの、美人が台無し」

 ちょん、と左頬をつつかれる。

「まさか、今年もやるんじゃ」

「もち」

 女は満面の笑顔。

「まじか」

「まじよ」

 こめかみを揉む。頭痛がひどく。

「大丈夫! あんたの旦那に許可はとってきたから」

「はぁぁぁ!」

 セレーネは叫び、ヴェルテはウインク。

「今の時間は、謁見中じゃ」

「隙見て、素早く頼んできた。快く承知してくれたわよ」

「どんな脅し方した」

「失礼ね。丁寧に頼んだわよ。二日後のイベントのため、わたし達に厨房貸してくれって。ヴィリロでは毎年貸してくれていたわよって」

 そう言われたら、断れるわけない。

「美人に弱いのかしら」

 ヴェルテ、ネージュは確かに美人だ。美人だが。

「というわけで、明日ネージュ誘ってくるわ。またね」

「え、ちょっと」

 待て、という言葉は届かず、言いたいことを言うと去って行った。

「まじか」



 夕食はレウィシアと。仕事はあるものの、突撃してくる令嬢はいない。側室を薦める貴族、臣下もおらず。そのためか、レウィシアの機嫌は良い。

 妃候補? の令嬢が陛下の怒りを買い、領地を没収された、という噂も。

 怒りを買った、というより不正を暴かれて、なのだが。そのためか、手の平返し、セレーネにすり寄ってくる者も。

「ヴェルテが迷惑かけて、すいません」

 頭を下げる。

「突然来たのは驚いたが、毎年やっていたと」

「三年前からです」

 長年やっていたように聞こえる。

 それ以前からも三人とラベンダーでお茶をしていたが、ネージュが身ごもり、心配性の旦那に止められ。セレーネもレウィシア達が来ていたこともあり。レウィシアがグラナティスに帰り、カイも産まれたので、ネージュの気晴らし、息抜きに、とヴェルテが誘い。カイを連れてヴィリロへ。

「今年は来ないとばかり」

 本日何度目の大きな溜息か。肩を落とす。

「許可しましたか。したんですね」

 ぶつぶつ。はぁ、とさらに息を吐き。

「最大限対処しますが、厨房、爆発させたらすいません。先に謝っておきます」

「爆発? なぜそんなことに」

 驚いているのはレウィシアだけでなく、控えているユーフォルも。

 娘のご機嫌はなんとか治ったらしい。

「ネージュさんは料理の腕が酷いんです」

「酷い?」

「三年前、ネージュさんの料理の腕を知らず、厨房を貸しました。いえ、一緒に作ろうと。そして厨房は爆発」

「……なぜ」

「力加減、でしょうか。無意識に魔力を使ってまぜたり、こねたり。魔力のこもった生地を焼いていると爆発して」

 セレーネは遠い目。あの後、片付けと厨房の一部修理工事。

「昨年は上手く焼き上げたと思えば、焼き上げたクッキーが勝手に走り回り、城中を走って回収しました。捕まえた時に崩れたりして、城中甘い匂いと掃除」

 目は虚ろ、はは、と乾いた笑い。十日ほど匂いがとれなかった。あれも魔力のせいか。

「大丈夫か」

 レウィシアは心配そうに。

「私にとっては大変な一日です」

 大騒ぎした覚えしかない。その前は穏やかだったのに。

「うう、今年こそは何事もなく静かな一日になると思えば。あの女、余計なことを」

 両手に力が入る。

「面白がっている。あの女ぜったい面白がっている」

 ぶつぶつ。

「なるほど、念を押すように言うわけだ」

 セレーネはレウィシアを見た。

「貸すと言った時に、二言はないな、と強く言われた」

「重ね重ねご迷惑をかけて、すいません。わかっていれば阻止したのに」

 再び頭を下げた。

「それで、毎年作ったものを持ち帰っていたのか」

「私とヴェルテの作ったものを持ち帰っていました」

「毎年」

 少し低くなった声で再び同じことを。

「はい。粉々になったものは持ち帰れませんから」

 食べられない。

「シアにも何度か作って出したじゃないですか」

 フィユカスの件以降。暇を見つけ、作ればレウィシアにも出していた。

「四年前、ヴィリロ滞在中にも。あの時はすごかったですね」

 ヴィリロ国内の令嬢がレウィシアに花や菓子を。グラナティスからも送られてきており、バディドと揃って、おお、と驚きの声を上げた。

 思い出しているのかレウィシアは苦々しい顔。

「あ、ヴェルテが持って行っても食べないでくださいよ」

「妬いているのか」

 冗談をにじませ。半分は本気かも。

「いえ、何をまぜているかわからないので。実験台になりたいのなら止めません」

 睡眠薬、痺れ薬、自白剤、他にも。

「まともに作れば美味しいんですけど」

 何度か何も入っていないお菓子を食べたが、美味しかった。店のものより。

「……わかった。十分注意しておく」

 レウィシアは真面目な顔で頷いている。

「俺にも作ってくれると期待して待っている」

 俺に、を強調。言葉だけでなく目も期待に満ちて。

 旅行中は色々勝手をしたので、そのお詫びとして、そしてこれからも迷惑をかけるかもしれないと、手間をかけたものにしようかと考えていたのだが。祖父とバディド、父方の叔父にはダイアンサスの領地で買った置物と茶葉を送った。

 ……今年は静かで平和だと話している、かも。

「た、大したお菓子は作れませんが」

 セレーネの作るものなど知れている。店のものや城の料理人のものが余程。期待されすぎても。



 よし、と気合をいれ、ヴェルテ、ネージュ、フィオナも加わりお菓子作り。何が起きても大丈夫なように厨房には結界を張り、他にも色々。子供二人は厨房近くの部屋でノラが面倒を見てくれている。赤ん坊が大泣きすれば対処できる位置。厨房にはネージュが来ることを聞きつけた見物人の姿も。

 作り始めた途端、大騒ぎに。

「それ、違う! 入れないで!」

「順番、入れる順番違う!」

 セレーネ一人が叫び、ヴェルテはにやにやしながら自分の作業。フィオナもはらはらしながら手を動かし。何か変なものが間違って入っていればセレーネのせい。ガウラに謝らなければ。

 生地を寝かせる工程もあるので、そこで昼休憩。子供の様子も。一時間ほどの作業にぐったり。この後もつだろうか。

 嫌な予感は的中。休憩後、再開してからもやはり大騒ぎした。



「できた、できた~」

 玉座に駆け込んできた女。昨日も謁見中、謁見はしておらず、次の者は、と臣下達と話している時に来た。そして今日も。

 セレーネは朝から疲れた顔。本番は明日。とはいえ王族として何かしなければならないことはない。国をあげての祭りではない。他国ではないことも。ヴィリロでは同じ日に同じイベントがあったので、近隣の国でもあるのだろう。

 書類仕事もそれほどない。謁見もユーフォル達が上手く調整してくれたので、半日は自由に過ごせる。

 一昨年、昨年は忘れていた。気づけば日は過ぎ、各地の貴族からの贈り物に、なんだ、これはと。セレーネが来ていなければ今年も忘れて過ごしていた。

「できたわよ」

「何ができた」

 セレーネからは口にするなと言われている。

「あの子が作ったものよ」

 女の左手にあるのは、布をかぶせた何か。

「じゃーん」

 布を取ると、皿の上には人型をしたものが。茶色の丸い頭にこげ茶色した長方形の胴体。手足も丸い。皿の上でよくわからない動きをしている。

「はい、どうぞ」

 距離はあるがレウィシアへと差し出してくる。

「……本当に、セレーネが作ったものなのか」

 何度か作ったものを食べたが、今、目の前にあるようなものは一度も。

「ヴェルテぇ!」

 セレーネの怒鳴り声。迫力ある力強い声。初めて聞いた。そんな声も出せるのか。

「食べていないですよね」

 レウィシアを見る。その目には鬼気迫るものが。

「ああ、言われていたからな」

 ち、と小さな舌打ち音。

「折角、嫁が作ったのに」

「作ってない!」

 セレーネは女の傍へ。

「何をしている、勝手に動くな、被害者作るな」

「……誰か、倒れたのか」

 物騒な言葉が。

「間に合ったので、今のところは誰も倒れてはいません。倒れるとしたら」

 これから、か。

「それで、それを作ったのは」

 レウィシアは皿の上で動いているものを見た。

「ネージュさんです。厨房は爆発していませんが、材料が」

 よく見るとセレーネの髪や服にはクリームやら粉、何かの欠片が。右頬にはうっすら傷が。

「ああ、これですか」

 見ていたからか、セレーネが右頬に触れている。

「すごかったわね。包丁さばき」

「恐怖ですよ」

 セレーネは肩を落としている。

「ネージュが包丁で切ろうとしたら、その手から包丁が飛んで、この子の顔へ」

「避けました」

「お湯運ぼうとして、つまずき、熱湯ぶちまけられそうになり」

「結界張って防ぎました」

 苦労したようだ。

「うう、片付けが」

「ああ、皿割るわ、まな板真っ二つにするわ、包丁の刃は欠けさせ、鍋に穴あける」

「……」

「卵を割れば殻まで入り、そのまま混ぜる。粉をぶちまけ、真っ白。力加減間違えて仕上げのクリームはあちこちに。焼き上げればこんなものが続々出てくる」

「続々? それ一つだけじゃないのか」

 セレーネは鳥籠とりかごをレウィシアにも見えるように持ち上げる。

 なぜ鳥籠、と不思議に思っていたが、中には皿の上にあるものと同じものがうようよと。

「用意周到ね。なんで厨房に網や鳥籠、ネズミ捕りがあるのかと思っていたら」

「何が起こるかわからないから、用意できるものはしただけ。ここはヴィリロとは違う。広い城の中、こんなものが逃げ出したら」

 捕まえるにも一苦労。

「夜中にこんなものが歩いていたら」

「で、食べる? とびっきりの美女が作ったものよ。味は保障しないし、食べた後どうなるか責任持てないけど」

「やめろ!」

 セレーネは叫び、女は皿を持ち、くるりと一回り。

「そうは言うけど、あんた食べてたでしょ。毎回毎回。感心するわ」

 毎回体を張って味見しているのか。

「食べようとしたら悲鳴上げて自爆しました」

 セレーネはさらに肩を落としている。

「昨年は殴られて、逃げ出したんだっけ。大変だったわねぇ」

「何もしなかったくせに」

 セレーネは女を睨んでいる。その作り主の姿が見えない。

「作り主は一人なのか。大丈夫か。城とはいえ、見物人が」

「来ていました。厨房入り口に結界張って入れないようにしていました」

「悲鳴上げっぱなしだったもんね。主にあんたが。入り口近くに包丁や鍋まで飛んでたし、あれ見れば」

 相当大変だったようだ。

「ノラについてもらっています。大丈夫でしょう」

 ノラならしっかりしており、上手く対応する。

「上手くできたもので、今日は温かいので、味見も兼ねて外でお茶をしようとしていたのですが、こいつが走り出して」

 追いかけてきた。これから少しずつ寒くなる。外で茶会できるのも今のうち。

「命知らずの挑戦者は」

 皿を掲げた。

「やめろ!」

 セレーネが皿の上のものを取ると、悲鳴が。鳥籠に入れる前に爆発。甘い香りが部屋に広がる。

 あれを食べるのは。

「……お邪魔して、すいませんでした。ほら、行くよ」

 セレーネは女の後ろ襟を摑むと、部屋を出て行った。

「不正をした貴族に食べさせても面白そうだな。先に作り主の容姿を伝えて」

「陛下」

 ユーフォルの困ったような声。ここにいる何人かは容姿を知っている。そしてあんなものを見せられては。

「次の謁見があったな」

 甘い香りは謁見が終わるまで、終わっても漂っていた。



「はぁ~、今年も楽しかったわぁ」

 ヴェルテは椅子で大きく伸び、笑顔。セレーネ、ヴェルテ、フィオナの作った菓子でお茶をしていた。カイ、赤ん坊のサーリチェも一緒。カイは食べられるが赤ん坊のサーリチェにはまだ無理。

「来年も楽しみね」

「来年もやるのか!」

「もち」

「だったら、ヴェルテかネージュさんの家で」

「わたしの小さな家、壊す気。ネージュの家は無理。旦那が許可しない。ネージュがいない間に明日の準備しているだろうし」

 用意する姿を想像。

「毎年、ううん、毎日美味しい料理を作ってくれるの。昨年は花の種をもらって、一緒に植えたわ。綺麗に咲いたの」

 ネージュは笑顔。セレーネとヴェルテは揃って「ごちそうさま」と。

「なになに~、来年は別れてヴィリロに戻ってるぅ」

 ヴェルテはにやにや。むかつく言い方。カップに入っているお茶を顔面にぶちまけたい。少しは今日の気晴らしに。

「見る限り、ネージュの旦那もこっちの旦那も執念深そう。こっちは、今だけかもしれないしね~」

「ヴェルテ」

 ネージュが責めるように名を呼ぶ。

「あんたより先に結婚できると思ったんだけどなぁ」

「つまり、独り身で退屈だから、嫌がらせに来た、と」

「失礼ね。結婚していようがいまいが、こうしてたわよ」

 憂さ晴らし。

「来年もやるのなら、増えているかもしれないわね」

 ネージュは笑顔でセレーネを見ている。

 フィオナの他にも、ということか。そのフィオナはこの場にいない。

「セレーネの家族が」

「ち、そこも先を越されるか」

「……」

 頭を抱えた。


「お疲れさま」

 一日が終わり、部屋でぐったりしていると、レウィシアから労いの言葉がかけられる。

「夕食が間に合ってよかったです」

 ヴィリロでは一日作れず、あるもので済ませた覚えが。

 レウィシアはセレーネの頭を優しく撫でる。

「来年は許可しないでください」

 なんとか乗り越えられた。



「なぜ、こんな日に届くのでしょう」

 両手で抱えた箱を持ち、歩いていた。

 目的の部屋までくると、箱を下ろし、扉を叩く。

「はい」

 開く扉、ユーフォルの姿。

「かまいません?」

「どうぞ」

 扉を大きく開け、セレーネが入りやすいように。下ろした箱を持ち、中へ。

「そちらは?」

 ユーフォルは箱を見て「持ちましょう」と手を伸ばしてくる。

 それほどの距離でもないので、断り、抱えたまま。

「私からシアへの贈り物ではありません。ヴィリロから送られてきたものです。こんな日に届くから間違われても仕方ないですけど」

 レウィシアは机で書類整理。セレーネが抱えているものを見て、立ち上がる。

 執務机の傍の床に下ろし、

「おじい様からシアに、です」

「シャガル様から?」

 レウィシアの表情は硬く。レウィシアの叔父がヴィリロを攻めたことを止められず、気づけず、済まなかった、という旨の手紙を送っていた。

「以前、兵法の話をしたでしょう。手紙でどんな本があるのか教えてください、と送れば、これが送られてきました」

 箱を軽く叩く。

「開けても」

「どうぞ。私が先に開けましたが」

 レウィシアはしゃがみ、箱を開け、中身を手に取った。

「持っているものもあるかもしれない、返すのはいつでもいいそうです。おじい様の書き込みもあるみたいで。気にしないでくれ、と手紙にありました」

 中には本がぎっしり。レウィシアはぱらぱらと流し読み。詰められているのはすべて兵法の本。しかも、これは一部。祖父はさらに持っていた。レウィシアは一冊、一冊と手に取っていく。

「いいのか。どれも貴重なもので」

 目は本に釘付け。

「かまわないのでは。これが手紙です。グラナティスが攻めてきたことも書かれています。予想通り、気にするな、の一言」

 セレーネ宛のものには小言が。バディドが話したのだろう。

 添えられていた手紙をレウィシアへ。レウィシアは情けない顔に。

 右手に本、左手に手紙を受け取り、読んでいた。

「仕事が終わってから持ってくればよかったですね」

 本に夢中になり、仕事そっちのけになるかもしれない。セレーネは小さく笑った。


「何かお礼を送ったほうがいいだろうか」

 仕事も片付け、二人、部屋でお茶をしていた。お茶請けはセレーネの作った菓子。昨日苦労して作ったものと、今日作ったもの。中にはヴェルテのも。何も入っていないのは確認済み。

「どうでしょう。私にはなんとも」

 名残惜しそうに本を箱に戻すと、仕事にとりかかり。読みたいためか、仕事のスピードがあがっていた。間違いがなければいいが。今もテーブルの上に何冊か。セレーネを気にせず読んでくれてもいいのだが。レウィシアは首を横に振り。

「礼が手紙だけ、というのも。叔父が攻めた件もある」

 レウィシアは真剣な表情で悩んでいる。

「グラナティスの特産でいいんじゃないですか。大層なものを送っても送り返してきますよ」

「そうか」

「私も一度ヴィリロに戻りたいですね」

 驚いた顔をされた。

「何か気に入らないことでもあるのか、何か言われたか。もしかして俺が」

「違います。落ち着いてください」

 レウィシアは焦ったように早口。おろおろしている。その手に触れた。

「私も色々集めていて、他人に触らせられないものがあるんです。悪用、されはしないと思いますが、他人の手に任せるのは」

 処分するものとそうでないものの仕分けをして。

「こちらに持ってきてもどこに置くか。ヴィリロの、私の部屋もいずれ別の誰かが使うでしょう」

「そ、そうか」

 レウィシアはほっとした表情。

「魔法書か? ここでも集めているようだが」

 欲しい魔法書があれば取り寄せる、とレウィシアは言ってくれたが、欲しい魔法書は残っていない。知っているのは一人だけ。

「そうですね。いわく付きの宝石とか魔法道具ですとか。魔法書も禁呪本まで」

「なぜそんなものを」

 レウィシアはこめかみを揉んでいる。

「興味があったので。使ってはいけない魔法も知っておかないと。ここでは集めていません」

 置き場所が。

「集めるな、と言いたいが」

 無駄だとわかっているらしい。

「そういえば、あちこちから贈り物が届いているようですね。朝から兵が大小の箱や花を抱えて行ったり来たりしていました」

「この日に合わせて、貴族、特に娘のいる家、名前で色々贈られてくる。ほとんどが胡麻ごまり。誰も直接渡しにこない。贈られてきたものも、中に何が混ぜられ、どんな下心があるか」

 一体どんなものが贈られてきていたのか。

「唯一の跡継ぎ、幼い頃から大量にもらっていたでしょう」

「そういうセレーネはどうなんだ」

 全くない、とは言えないが。レウィシア同様、下心、魂胆を疑い。

「大勢にもらうより、一人、愛する人からもらえれば」

 触れていた左手を取り、甲に口付け。よくさらりと。

「そういえば、フィユカス様から花束と手紙が」

「処分しろ」


 夕食はヴィリロの料理。レウィシアからセレーネへの贈り物。驚いたが嬉しくもあり、礼を言っておいしくいただいた。



 翌日会ったフィオナの左薬指には指輪が。ガウラには会えなかったが贈ったのは。仲間の使用人にはからかわれ、同時に祝福されたらしく、フィオナは照れていた。

 アルーラから、賭けに負けた陛下がガウラの相談に乗り、買ったと。買ったのはガウラ。レウィシアは指輪のデザインの相談に乗ったり、店の紹介。

 いつの間に。

 どんな賭けをしていたかは不明。聞いても誰も教えてくれなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る