第20話

「セレーネ様のお知り合いって」

 遅い昼食の席、アルーラは溜息をつきながら。ガウラは不機嫌顔。スカビオサに続き、イザークにも負けたから、とアルーラがこっそり教えてくれた。レウィシアは不機嫌ではなく通常。

「変わった知り合いはいませんが」

 小さく首を傾げた。

「十分変わっています」

「父親は強かったと言っていただろう。セレーネもあの海賊が負けたところしか見た覚えがないと。なぜ、捕らえなかったんだ」

「人柄? でしょうか。あと、彼らは海を知り尽くしています」

 海に関しては右に出る者はいない。だから海の王者と呼ばれている。

「海を知り尽くしている、ですか。知り尽くしている、ということはどの海路が危険かも、どう行けば短時間でどの港町につける、というのも。季節により海の状態も違います。味方につければ」

 ダイアンサスの説明にセレーネは頷く。

「実際、彼らに荷運びを依頼する国や個人もいますよ。もちろん匿名ですけど」

「捕らえるより、利用すればいいと」

「利用、というのでしょうか」

 レウィシアの言葉に首を傾げた。

「実力はありますからね」

「ああ」とレウィシアはがくりと肩を落とす。ガウラと共にその実力を身をって知った。

「彼らは回収したもの、盗ったものを貧しい者に配っています。彼らのおかげで生活できている者達がこの大陸のどこかの町にいるんですよ。それに私利私欲のためだけに使っているのなら、カーバンクルはいません」

「カーバンクル?」

「肩に乗せていた精霊ですよ。あれと契約した者が頭です」

 彼らも代替わりしている。有名になったのはイザーク。

「ああ。いたな。真っ白い動物みたいなのが。強いのか」

「カーバンクル自体は強くないですよ。聞いたことありません。カーバンクル」

 レウィシアは「カーバンクル」と呟いている。

「……財宝がそんな名前じゃなかったですか」

 一番早く思い出したのか、アルーラ。

「えっと、カーバンクルのお宝を手に入れたら世界一の大金持ちっておとぎ話、伝説、ありませんでした」

「あったな」

 ガウラはぶっきらぼうに。

「カーバンクルは精霊の名前なんですよ。額の宝玉を手にした者は巨万の富と幸福を得られる、と言われています」

 セレーネは額を指した。

「カーバンクルの元にはお宝が向こうから来る、と言いますか。カーバンクルの言う通りに進んでいたら、沈没した商船、海賊船、退治された賊の隠していた財宝に行き当たるんですよ。ですがカーバンクルは戦う力を持たないので、守護する者、できる者、欲深くない者を契約者として選ぶんです」

「守護者、ですか。そう言われれば納得。カーバンクルはともかく、貧しい者に配っている、というのは、信じられません」

「でしょうね」

 見たわけではない。信じられなくて当然。アルーラの言葉に頷く。

「しかし、どういう父親だったんだ。色々強い、というのはわかったが」

「普通の父親ですよ」

「どう考えても普通じゃないですよ」

 アルーラのつっこみ。

「う~ん、父は将軍になるのは決まっていましたから、自由なうちにあちこち旅をしていた、とは聞きました」

「似た者親子」

 レウィシアはぽつりと。

「そこで色々な人に出会って鍛えていた、とか。将軍になっても暇になればどこかへ。以前も言いましたが、私もついて行ったり、連れて行ってもらったり。シアは父親の真似とかしなかったんですか」

「……した」

「していましたね」

 ダイアンサスは目元をほころばせている。ラーデイも頷き。

「グラナティスがヴィリロに攻め入り、ヴィリロが勝利したのは事実のようですね」

 ダイアンサスは表情を引き締める。

「ああ。半分とはいえグラナティスに勝った。周りの国が黙っているかどうか。そして叔父上はますます警戒を強めるだろう」

 レウィシア側にはセレーネがいる。

「セレーネ様には失礼ですが、まぐれで勝ったと思われても」

 アルーラの言葉にラーデイも頷く。

「そう思ってくれればいいんですけど」

「まぐれかどうか確かめるために、もう一度攻めるか」

「それはいい迷惑です」

 セレーネは小さく息を吐いた。

「何度も言いますが、ヴィリロから攻めることはしません。今でも一杯なのに、これ以上治める地が増えれば目が届かなくなります。不正が横行、なんてことに」

「耳が痛い」

 レウィシアは小さく笑っている。

「もし、ヴィリロ抜きで隣国がこの国を攻めるならヴィリロを通らなくてはなりません。遠回りするなら別ですが。そうなれば、シアにも知らせてくれるでしょう。今回のように魔法で移動、旅人、商人に化けられればなんとも言えませんが。そういうのが増えれば怪しいとは思うかもしれませんね」

「そうだな。今回の件でグラナティスは見掛け倒しだと思われるかもしれないな。しかし、どう護っているのか。是非聞きたいが」

「手の内は明かしませんよ。ですが、おじい様も兵法の本を集めていました。古いものから新しいものまで。私も見せてもらいましたが、何が何やら全く」

「古いもの」

 レウィシアの何かに引っかかったらしい。

「どんなものがあるのか見てみたいな」

「題名だけでよければ聞いてみましょうか。おじい様もそれくらいなら教えてくれるでしょう」

 レウィシアは大きく頷いている。

「そういえば、さっき物騒な話をしていませんでした。喧嘩を煽る、とか」

「ああ、ラタトスクですね」

 アルーラは「そんな名前でしたね」と。

「聞いていた通り、喧嘩の中継をして、相手を煽るんです。大げさに相手に言って。ラタトスクのせいで国同士から個人の争いまで」

「それを見たんですか」

「ええ。ここに来た日に」

「そういえば、いきなり走り出したな」

 追いかけてきたガウラ。

「昼食も、心ここにあらず、といった感じだったな」

 レウィシアも。

「仕方ないでしょう。私は煽られても正体がわかっているから平気ですが、他の方はそうでは。シアとビタール王子を煽られては」

「向こうが無理を言ってきた。他国の、しかも王の妻だとわかっていて」

 レウィシアはむっとしている。

「はいはい。それがラタトスクのせいなら。国と国の関係を悪化させるわけにもいかないでしょう」

「シーミとは離れている。今まで交流もなかった。関係が悪化しても」

 セレーネは呆れた目でレウィシアを見た。

「一度見ただけですし、カーバンクルにも調べてもらいましたから、今は近くにいないかと。通りかかっただけか。誰かを煽りに行っているのか」

 同じ精霊。風の精霊ほど広範囲は無理だが。

「ずっと誰かを煽っているのか」

「いえ、そういうのでは。心配のしすぎはよくないですけど。何かあった後では遅いですから。次に会えば捕まえて封印します」

 セレーネは拳を作る。

「それだから逃げるんじゃないのか」

 レウィシアは笑っている。

「私は精霊の間では知られていないんですけど」

 知っていればナイアスはもっと早くセレーネのことを契約者に伝えている。

「わかっていれば対処できる。一人でなんでも解決しようとするな」

 だが言っても信じたかどうか。レウィシアの傍にはあの令嬢が張り付いていた。

「さて、この後はどうするか。狩り、は興味ないんだったな。魚でも釣りに行くか」

「だから、それほど魚が食べたいのでは」

「少し離れているが、湖があったな」

「陛下、あそこは」

 ダイアンサスは苦い顔。

「何かあるのか」

 ラーデイは知らない様子。

「昔から、その湖では事故というか、行方不明者が多く。行ってはいけない、と言われているのですよ」

 アハ・イシュケのいる湖か。

「行くなと言われたら行きたくなるのが子供」

「まさか、お前、陛下を誘って行ったのか」

 ダイアンサスはガウラを見た。

「何事もなくこうして無事」

「そうだが、今もあそこに行き、帰ってこない者も」

「さらわれた、町から出て行った、とも言われているだろう。ここは城から離れている」

 親子の言い合いに。

「行きたい、とは言わないんだな。いつもなら飛びつくのに」

「……全力で止められますよ」

 もう行った、とは言えない。物騒な場所に行くのはダイアンサスとラーデイも止める。

「綺麗な場所だったが」

 レウィシアが行った時は現れなかったらしい。運がいいというか。

「邸でのんびり、もしくは町を見て回るのも」

「邸で休まれては。ばたばたしていたでしょう」

 ダイアンサスはセレーネの二択のうち一つを提案。

 レウィシアだけでなく、ラーデイ親子も付き合っていた。

「邸でのんびりするか」

 とは答えたものの、レウィシアは遅い昼食後、ガウラ、アルーラと庭へ出て剣を交えていた。

 セレーネは部屋で地図を眺めながら、チェスの駒を置いて遊び。

 フィオナには「何をされているのです」と尋ねられ、戻ってきたレウィシアにも尋ねられた。

「おじい様と父、叔父がこうして遊んでいたんですよ。どこから攻める、と地図にこうして駒を置いて。小さい頃は何が面白いのかさっぱりでした」

 遊び、と言うが、父達は真剣な表情だった。

「市街地の地図でもやっていました」

「俺もシャガル様とチェスやカードで遊んだ覚えはあるが。そういうのは」

「やりませんよ。手の内を明かすものですし。本当にその手を使って攻められたら」

 なるほど、とレウィシアは納得。

「これなら何人でも遊べます」

 レウィシアは「ふむ」と駒の一つを取り、動かす。合わせてセレーネも動かした。

「父なんかは、いざという時に備えて訓練しておくか、と市街戦やりましたからね。訓練で」

「…・・・よく住人が協力してくれたな」

「終われば、ぱぁーと騒ぐぞ、と。あとは、人徳?」

「なぜ首を傾げて言う」

 まず国王である祖父の許可を得て、次に住人。終われば兵も住人も一緒になり飲食。協力に反対した住人ももちろんいた。

「父はよく兵達と話をして実力を知り、いざという時の配置も考えていました。そういえば、ダイアンサス様もよく兵と話をしていましたね」

 アルーラもだがダイアンサスも城の兵とは気安く話していた。

 レウィシアは駒をもう一つ動かす。セレーネも動かした。

「駒一つで何人、とかどのくらい動ける、とか色々決めて遊ぶんですけど」

 時には地図に細かな線を引いて。

 立っていたレウィシアは椅子に。フィオナがお茶を持ってきて、テーブルに置く。

「……シアは、私のどこがいいんです」

 令嬢のようにレウィシアを想っている、と言っていない。レウィシアのために着飾ってもいない。ビタール王子に対しても曖昧な態度をとっていた。それなのに。

「全部」

「……」

 迷いもせず。セレーネはテーブルに突っ伏す。

「どうした、急に」

「だって、初日から、シアをほったらかして、好き勝手に」

 自分の興味のあること、好奇心で動いた。今度はいつ来られるか、二度と来られないかもしれない。セレーネの代わりの女性もいる。そう考えて。自分を優先した。令嬢の傍にいたくなかったのも本心。遠くで見ているにはいいのだが。

 令嬢達の言う通り、王妃失格。

 出かける、と言われた時に話せばよかったのか。あの四人もついてくると。レウィシアはそんなことはない、と笑ったかもしれない。しつこく言えば「そんなに俺と行きたくないのか」と不機嫌になるのは目に見えていた。だから黙っていた。険悪な状態で出発するのは。

 あの四人、いや三人の、噛みついたら離さない、スッポン並みの姿勢。ようやく離れたが。

「ヴィリロでも俺達をほったらかしにして、自分の好きなことをしていただろう。グラナティスの城でも目を盗み、抜け出して」

「うっ」

 言う通り。体力作り、魔法の訓練のため、城の屋根を走っていた。ガウラに見つかり、レウィシアに報告され。その際に人気ひとけのない場所をいくつか見つけたので、そこから抜け出し。

「普通は怒りますよ。愛想尽かしますよ」

 顔を上げて、レウィシアを見た。

「怒ったが」

「本気ではなかったでしょう」

 本気で怒っているか、いないかくらいはわかる。それに怒っていたのはビタール王子に対するセレーネの態度。勝手に動いたことではない。

「大人しくしていないとは思っていたが、見向きもせず歩かれるとは」

 レウィシアは苦笑。

 傍で大人しく、レウィシアの言うことだけを聞く。ストレスと一緒に魔力も溜まり、爆発、するかも。大人しくしていたとしても、適度な息抜きをしていないと。

 セレーネの適度な息抜き。

 ……魔獣退治、精霊と勝負、食べ歩き。……最後が平和的、か? どれも王妃のやることでは。

「俺も、だが、セレーネもストレスが溜まっていたのだろう。自分や俺より子供を優先」

 しなければどうなっていたか。今も子供の姿、かも。カイの面倒を見るのは苦ではなかった。

「貴族達に質問責め、令嬢の嫌味、ビタール王子。俺も少しずつ溜め込んでいた。不安も。いつあの四人を斬ってやろうと。今はすっきりしたが」

 笑顔でさらりと恐ろしいことを。冗談だろう。

 気づかずに色々溜め込んでいたとしても。自分では通常だと思っていても、見限られても、呆れられても仕方のない言動だった。

 今さらだが、王妃としてどう振舞ふるまえばいいのかもわからない。ヴェルテはああ言っていたが、帝王学など真面目に聞いていなかった。祖父、バディドの手伝いができれば、必要な知識があれば。魔法書を忍ばせ、そちらを真剣に読んでいた。

 令嬢のように振舞うのは無理。

「抜け出すのも。理由を話してくれれば」

「大人しく見送ってくれました?」

「一緒に行く。俺も見て回りたい」

「お供がぞろぞろ」

「護衛がどの場所にいるか、わかっている」

 他の者は誤魔化せても、アルーラは気づきそうだ。

「あの令嬢達にしても、セレーネが一言でも言ってくれれば」

「陛下はお前達など眼中にない。あるのは私だけ、とっととお下がり、とでも高飛車に言えと」

 言えば倍になって返ってくる。

「頼れと言いたかったんだが。そう言ってくれても」

「……シアは自分を奪いあう女性を見ていて、楽しいんです? そういう方がいるのは知っていますが」

 セレーネは引き気味にレウィシアを見た。

「違う」

 なんだかんだ言っているが、レウィシアは優しい。本当に冷たければ、あの令嬢達にもっと早く対処していた。できる力をもっている。セレーネに対しても。だが、そうしなかった。優しいのではなく甘い、のかもしれないが。もしくは、ちやほやされて嬉しかった?

 セレーネもその優しさに甘えている。あの令嬢達と一緒。違うのは、レウィシアを身を挺して護れるところか。ただでは倒れないが、倒れた時にあれをやっておけば、食べておけば、という後悔を一つでも減らしたい。だがその後悔を減らすために、護る者の傍を離れるのは。しかし四六時中傍にいるのも。レウィシアも鬱陶しいだろう。セレーネも一人の時間はほしい。

 いきなり両頬をつねられた。

「何を考えている」

「……ね」

「ね?」

「猫がスッポンに食いつかれている場面を想像していました」

「なんだ、それは」

 レウィシアはセレーネの両頬をむにむにと。

「お話し中、失礼します」

 ダイアンサスが部屋に。部屋にはセレーネとレウィシアの二人。邸で大人しくしているので護衛は必要なし、と判断された。

「王妃様にお会いしたい、と言う方が来られております」

「ビタール王子か」

 レウィシアは顔をしかめる。

「いえ、町に住む者です。王妃様に孫を助けていただいたと。ただ、王妃様とは知らないようで、特徴をおっしゃっていたので」

「今度は何をした」

 レウィシアはセレーネを見る。セレーネは視線をそらす。

「話を聞こう」

「悪いことはしていないのに」

 ダイアンサスはレウィシアの返事を聞き、部屋を出て行く。

 孫を助けていただいた。はて? と思い出そうとしていると、ダイアンサスと共に現れた老人、といっても体格はよい。若い時はさぞ屈強だと思われる体つき。角張った顔、短い白髪、鼻の下、顎には白いひげ。

 客ということで、護衛にアルーラ、ガウラも。

 老人の傍には見覚えのある男の子。男の子もセレーネの顔を見て「あ」と声を上げる。老人は「陛下? 」とレウィシアを見ていた。

「この二人が王妃様にお会いしたいと」

「え、姉ちゃん、王さまの護衛じゃなくて、王妃さまなのか」

「ロア!」

 祖父の一喝にびくり、と体を大きく震わせている。

「失礼しました」

 深々と頭を下げられる。

「この方で間違いないんだな」

 ロアは大きく頷いている。老人はセレーネへと向くと、

「孫を助けていただき、ありがとうございました」

 再び、深々と頭を下げる。

「助けた?」

 レウィシアはどういうことだ、とセレーネを見る。それはダイアンサスも。

「湖に行かれたでしょう。この町から少し離れた場所にあります」

 ほぉ、とレウィシアの声が低く。セレーネを見る目も怖いものに。

「あそこは昔から行方不明者が多く出ている場所。行くな行くなと言えば言うほど行きたくなる」

「町から出て行った、とかさらわれた、とか言っている大人もいるじゃん」

「帰ってきた者は一人もおらん」

 老人はロアを睨む。迫力ある睨みを受け、ロアはびくりと震えていた。

「あんなのが出るなんて知らなかったんだよ」

「知っている者は湖の底だ」

「どういうことだ」

 老人はレウィシアに向かい頭を下げる。

「陛下にこうしてお目にかかれるのは光栄に至り。お父上、前国王様にうり二つで」

「父を知っているのか」

「ええ、一度同じように間近でお会いしたことが。まさかご子息にまでお会いできるとは」

 レウィシアの父親もこの地に来ていたのか。ダイアンサス、ラーデイと仲が良いと言っていたから、今のレウィシアのように休暇をとって来ていた?

「それで、先ほどの話だが、湖の底、とは」

「湖はご存知で」

「知っている。子供の頃に一度」

 老人は驚いたのか、大きく目を見開いている。

「よくご無事で」

 そうなるわな、とセレーネは小さく頷いた。

「あの湖には怪物が棲んでおります。人を湖の底へと引きずり込む。いつも現れるわけではありません」

「怪物」

「怪物には見えなかったけど。きれーな馬だった。大人しくて、人懐っこくて」

「見た目に騙されたんだ。この馬鹿が」

「きれいな馬」

 レウィシアは再び繰り返している。

「湖に引きずり込まれたが最期、打ち上がるのは一部だけ」

「一部」

「アハ・イシュケは湖の中に引きずり込んだ人間を喰う、といわれています。実際見たことはないので、なんとも」

 引きずり込もうとする姿は見た。

 レウィシアは驚いたのか目を見開いている。

「そう。誰も帰ってこなかったので怪物の正体はわからず。しかし、この馬鹿孫は」

 ぎろり、とロアを睨み、ロアは小さく。

「運が良かったとしか言えません。あなたが来てくれなければ、孫は、孫達は今頃行方不明者の仲間入りをしていたでしょう」

 どうやらばれたらしい。

「孫を助けていただいたお礼に、こうして伺いました」

「お礼ならクートに」

「クート、ですか」

 ダイアンサスが反応。

「ええ、クートが教えてくれたんですよ。湖に行っていると。クートに教えてもらわなければ、私は行きませんでした。教えてもらったからこそ行ったんです。もし、あそこで行かなかったら、起こった後で気づいていたでしょう。ですから、お礼は私でなく、クートに」

「クート様と遊ぶな、とは言わんが、危険な場所へは連れて行くな。何かあればクート様のご両親に合わせる顔がない。この町にもいられるかどうか。もちろん、お前にも何かあっては」

「おまけみたいな言い方だな」

 ぎろり、と睨まれ、黙るロア。

「クート様には後日、お礼を言いに。孫を助けていただき、本当にありがとうございました」

 深々と頭を下げられた。

「間に合ってよかったです。ですが、あそこへは二度と行ってはいけませんよ」

 セレーネはロアを見た。

「わかっているよ。あんな目に遭うのはもうこりごり」

 ロア達は本当に運が良かったとしか。

「それより、姉ちゃん、王妃さまだったのか。すげー」

 目を輝かせて見られる。セレーネとしてはどう言うべきか。

「王妃に助けられるとは、運が良かったな」

 レウィシアは笑顔で。

「お、王さま、ですか」

 ロアは緊張しながらも興味深そうにレウィシアを見ている。

「勇ましいのはいいが、家族に心配をかけさせるな」

「は、はい」

 ぴしっと背筋を正す。

「用は済みましたので、失礼します。長々といてはご迷惑でしょう」

「え~、もっと話していたい」

「調子に乗るな」

 再び睨まれている。

「夕食の時間が近い。これ以上陛下に迷惑をかけるわけにはいかないだろう。ダイアンサス様の邸だというのはお前の両親も知っている。遅ければ、何か罰せられていると思われる」

 ロアは口を尖らせていたが納得したのか、大人しく邸を出た。


「行きたいと言わないはずだな」

「なんのことです」

 レウィシアとは目を合わせず。部屋にはセレーネ、レウィシア、アルーラ、ガウラ。

「行っていたんだろ。俺達が狩りに行っていた時に」

 目を合わせず答えずにいると、耳を引っ張られた。

「残って正解だったな。クートは母親達といるのは退屈だと言っていた。黙って湖に行っていれば、今頃」

 レウィシアはなんともいえない息を吐いている。

 もし、セレーネが残らず、レウィシアについて行っていれば今頃クートは。クートの家族、叔父のダイアンサス、従兄であるガウラは。それは他の子供の家族も一緒。

「おれ達も子供の頃こっそり行きましたね。で、帰ってくれば叱られて。まさかそんなものがいたとは」

「いつも岸辺にいるのではないと思います。そこらに生えている草も食べる、と聞きますから」

「会ったことは」

「今回が初めてです。私もここに棲んでいるとは知りませんでした」

「退治できないのか」

「あの辺り一帯がどうなってもいいのなら」

「それはふっとばす、という意味か、それともその、アハ・イシュケ? がいなくなれば、という意味か」

「倒せなくはないですけど、その辺り一帯がどうなるか。湖ごとふっとぶかもしれません。封印すれば、う~ん、するにしても弱らせないといけませんから。それに封印できても時間が経ち、封印が解ける。もしくは誰かに解かれれば同じこと。封印するにしても一度私と戦っていますから、警戒して出てこないでしょう。あの湖に潜って、探して封印。倒すにしても骨が折れますね」

「立ち入り禁止にするしか、ないか」

 レウィシアは眉を寄せている。

「それでも行く者は行くでしょうね。そして餌食に」

「嫌なことを言うな」

 レウィシアは顔をしかめ。それはアルーラ、ガウラも。

「馬に要注意、とでも立て看板して知らせておくしかないんじゃないですか」

「簡単に言う」

「精霊、魔獣に人の常識は通じません。逆も。精霊は友好的なものもいますが、そうでないものも」

 精霊に接していればよくわかる。

「精霊と人の悲恋とかよく聞きますよ。シアのご先祖様もそうでしょうけれど。人に利用されて酷い目に遭う、という話も聞きます」

「そうか」

 レウィシアは小さく息を吐く。

「子供を助けた、と聞いたから、説得、もしくは逃げたのかと思えば。戦ったのか」

 あ、と思っても遅く、夕食まで今まで黙っていたことを説教された。


「全く、少し目を離せば」

「しつこいですよ」

 部屋に戻り、寝る準備。先ほどの説教を引きずっている。

「心配させるほうが悪い」

 ソファーに座っているセレーネの両頬をレウィシアは軽くつねる。むっとし、セレーネもレウィシアの両頬をつねった。

 両手が離れる。セレーネも離した。

「もし、だが、もし、俺がこの戦いに負ければ、セレーネはヴィリロに」

 レウィシアは真剣な顔。声は弱々しい。

「戻れませんね」

 はっきり。

「あの女性、オリヴィニ、でしたか。あの人が私を見逃すはずありません。戻ればヴィリロに攻め入る口実を作るだけ」

「そう、だな」

「万が一の時はセドナ様でも頼りましょうか」

 セレーネは意地悪な笑みを。レウィシアは複雑そう。

 グラナティスとセドナの国は離れている。攻めるにも一苦労。離れた地を攻めても。

「負けないよう頑張ってください。もし、そのもし、があっても、きっと私はシア側の誰かにかくわれているでしょう。皆が皆、降伏しないでしょうから」

 再起の時を虎視眈々と狙っている。

「これも、もし、ですけど、子供がいれば狙われ続けるでしょう。再起を図る側は次の王とするでしょうから」

 可能性がないとはいえない。今のところその兆候はないが。それは敵側もわかっている。可能性があるのなら潰しにくるだろう。

「なるほど。負けられないな。すべてを押し付けてしまう」

 レウィシアより先にセレーネが討たれるだろう。あの女性はセレーネを厄介と見ている。

 レウィシアはセレーネの額に額を合わせ、すり寄っている。触れ合うのが好きなのか。こうしている時は落ち着いた、穏やかな顔。

 互いに小さく笑い合う。

「寝ます?」

「ああ。明日は何をしよう。久々だな、明日が来るのが楽しみなのは」

 額を離し、寝室へ。



 店先に並んでいるガラス細工を見ていた。鳥、猫、金魚、花、と様々。

「欲しいのか」

 背後から声。

「さっきからそればかりですね。見ているだけです。今は。一通り見て、欲しいものがあれば帰りに買います」

 足を止める度に。

 本日は町、商店街を歩いていた。

 朝食の席、レウィシアが「今日はどうする」と尋ねてきた。

 遠乗り、魚釣り、邸でのんびり。様々な提案。

「狩り、は興味ないんだったな」

「そんなに行きたいんですか?」

「そうではないが。苦手なのか。それとも別の理由が」

「うちは遊びではなく、本気でした」

「本気?」

れなかったら、その日のメインはなし」

「それは、本気になりますね」

 アルーラのつっこみ。

「あと、無駄に狩りません。食べられるだければ終わりです」

 なるほど、とレウィシアは頷いている。

 貴族の中には狩るだけで狩った獲物を放置する者も。レウィシア達はそんなことしないだろうが、もし、そんなことをしていて、傍で見ていれば、いい顔はしていない。邪魔をしていたかも。

「セレーネと部屋に閉じこもって過ごすのも」

「今すぐ外へ出ます」

 レウィシアはわかりやすく不満顔。息を吐き、

「外を歩くか。城下町を案内すると言って、できなかったからな」

「城下町ほどにぎわってはおりません。それにラーデイの治める地なら国境に近いので変わったものもあるかもしれませんが」

 ダイアンサスは小さく笑っている。

「そうだな。そのうちラーデイの治める地にも行くか。あの領主のような治め方はしていないだろうが」

「当たり前です」

 ラーデイはむっとして言い返していた。

「落ち着いたら以前の、父のように各地を視察しないと、な」

 落ち着く。戦が終わったら、だろうか。戦が終わっても処理だの書類、謁見、会議に追われ、今以上に忙しい日々に。セレーネも手伝わされ、城に缶詰。

 ・・・・・・今の内に自由を満喫しておかないと。りていない考え。

「町を歩く、でいいか?」

「いいですよ。籠もられるよりは。そのままどこかで食事して戻るのも」

「そうだな。ダイアンサスはどうする。夜、外で食べるのなら、どこかで待ち合わせて」

「久しぶりに外で食事にするか」

 ダイアンサスは夫人に。夫人は「そうですね」と頷いていた。

 朝食が終わると、町へ出る準備。ダイアンサス、ラーデイは邸に。町を見て回るだけならそれほど危険はないだろう、ガウラ、アルーラ、フィオナも一緒なので。

 セレーネの顔は知られていないが、髪の色が。レウィシアはレウィシアで。二人とも顔を隠して店を見て回っていた。

「所違えば、ですね。ヴィリロでもわかっていましたが、同じ国内とはいえ」

 大きな違いはないがちょっとした違いが。レウィシアの叔父が治めている地もまた違うのか。

「そうだな。食べ物等は鮮度の問題もある。腐らないものはどこにでも運べるが」

「職人の腕も、ですね。同じように見えて、違います」

 武器や防具の店も見た。入る前、レウィシアはセレーネを気にしていたが、入れば真剣に見て、店主の話を聞いていた。ガウラも。

 アルーラは「お二人には退屈でしょう」と近くで買った甘い飲み物を渡してくれ。

 昼食は高級ではない、こじゃれた店。夕食は高級店になるだろう。ダイアンサスが手配してくれている。

「夕方に合流するんですよね」

「ああ」

 昼食を終えれば、再び町を歩く。

「こういう時に言うのもなんなのですが」

 場違い、雰囲気を壊すかもしれないが、気になるのは確か。

「シーミの兄妹は大人しく国に帰ったんでしょうか。それとも」

 どこかから見ていて、隙を窺っているのか。

 思った通り、レウィシアは顔をしかめている。

「帰っていてほしい、が」

 レウィシアは握っているセレーネの手をさらに強く握る。

「強い王、と言っていましたが、シーミの現王は弱いのでしょうか」

「詳しくは。しかし、王が弱ければ権力のある臣下が実権を握る」

「それは、わかりますが、力だけ強くても」

 力で押さえつけるのも限界がある。権力もいつまでも持ち続けるのは。

「難しい、な」

 この国は今、真っ二つ。レウィシアは力で押さえつけてはいないが、それはセレーネの視点であって、別の視点から見れば。

「真正面からはこないだろう。来るとすれば」

 隙をついて。本音をぶちまけた。以前のようには来ないだろう。来れば図太い神経の持ち主。

「叔父上に力を貸し、時間をかけて奪いにくるかも、な」

「あの女性が見逃してくれるでしょうか。利用するだけして、あとは知らない、の一点張り」

 レウィシアは小さく笑っている。

「誰にも渡すつもりはない」

 耳元で、いい声を作り囁いてくる。もし、さらわれでもしたら、レウィシアのこと、反対を押し切って兵を動かすかもしれない。それだけは避けなければ。

 気持ちを切り替え、町を歩いた。


 小さな噴水のある広場、憩いの場。露店がいくつか並び、あちこちにベンチがあり、芝生では親子、恋人、友人が談笑、飲食、言い合い、一人で休憩している者も。

 セレーネ達も一休み。レウィシア達は何か買ってこようと、セレーネ一人がベンチに座っていた。露店とは離れておらず、姿が見える距離。互いに何かあっても気づく。

 平和だ。としみじみ。様々な声が聞こえてくる。その中には子守唄も。

 なつかしいなぁ、と目を閉じ、セレーネも母が歌ってくれていた子守唄を。当時を思い出しながら口ずさんでいた。

 歌い終わり、目を開けると、なぜか人々がセレーネに注目。

「え? え? え?」

 よだれでも垂らしていたか。

 なに、なに、なに、と少し混乱していると、突然の拍手。お金を投げてくる者も。

 訳がわからない。逃げ出したいが、逃げ出す隙がない。訳がわからず、固まっていた。


「うう、穴があったら入りたい」

 レウィシアが買ってきた飲み物を両手に持ち、俯いていた。ベンチにはレウィシアと二人。フィオナ達は少し離れたベンチに。

「なぜ。上手かった。上手かったから人々も立ち止まり聞いていたのだろう」

 そう、注目されていたのは歌っていたから。人前で歌ったことなどあまりない。精霊の前では何度も。そして精霊の歌も聞いていた。人とは比べものにならない声。人の出せない音まで出す。それに比べ、セレーネの歌など。

「あんな下手な歌」

「どこが。俺も聞いていたが人前で歌っても」

「止めてください!」

 勢いよく顔を上げる。

 幸い顔は隠していたので、容姿はわからない。

「上手かったのに」

「どこがです」

 はぁ~、と大きく息を吐き出す。

「歌詞はわからなかったが」

「でしょうね」

 精霊の言葉。母は母、祖母から歌ってもらっていたとか。歌詞などは残っていないので母は聞いて覚え、よく聞かせてくれた。精霊の言葉を覚えてからは所々間違っていることに気づき、直した。

 祖母は精霊と交流があったのか。セレーネが精霊と話す、遊んでいても祖父は驚きもしなかった。バディド、臣下は驚き、魔獣かと兵を呼ぼうとしていた。

 はっとし、辺りを見回す。

「どうかしたのか」

「精霊が」

「精霊? 精霊が来ているのか」

 レウィシアも辺りを見ている。

「いえ、来ているのでは、と」

 ラタトスクが来ていればつかまえられる。しかし、いるのは人、野鳥。精霊はいない。

 ほっとすべきか落胆すべきか。

「セレーネ?」

「ああ、すいません。ラベンダーによると、この歌は懐かしいそうなので、精霊が寄ってくることがあるんです」

「懐かしい?」

「古い、失われた歌、だとか」

 歌えるものは、いないとばかり。まさか伝わっていたとは、と懐かしそうに目を細めて。

「そうか。もう一度」

「お断りします」

「ここで、とは言っていない。二人の時にでも」

「魔力を込めて眠らせますよ」

「そこまで」

「元々が子守唄なので、簡単です。やろうと思えば、ガラスも割れます」

「やめろ」

 魔法使いは言葉に魔力を込めて魔法とする。そのため、間違える、音をはずせば魔法として成立しない。それでいうと、魔法使いは歌が得意なのか。

 紅茶を一口。

「そのうち聞かせてくれ」

「しつこいですよ」

「セレーネの声なら聞いていて飽きない。悲しまれるのは嫌だ。悲しませたくない。笑い声を、笑顔を見ていたい」

「聞いてわかる通り、それほど良い声ではありませんよ。シアが良い声では。声だけ聞いていたい、という臣下、使用人は多いですよ」

 セレーネは小さく笑った。

「耳元で頼めば聞いてくれるか」

 耳元で良い声を作り、囁いている。

「それでも嫌だと言うのなら、うなされている時に歌ってくれ。セレーネが傍にいてくれるから、悪い夢を見るのも減った」

 以前はよくあった。最近は。

「それくらいなら。あ、嘘とか、うなされているふりしていたら、歌いません」


 日が暮れ始め、ダイアンサス達と待ち合わせている場所へ。

 ダイアンサス夫婦、ラーデイは待っていた。馬車で移動かと思えば徒歩。ダイアンサス夫婦行きつけの店。貴族も使っており、階は違うが一般人も来られる値段のものもあるとか。ダイアンサスは時々、一般人にまじり飲食しているらしい。そこで話、雑談から悩み相談まで。人気なわけだ、と納得。

 通されたのは二階の個室。

 戻れば仕事、明日は、ところころ変わる話題。

「そういえば、広場に歌姫が現れたとか」

 セレーネは口に運ぼうとしていた料理を落とす。

「すいません」

「耳が早いな」

 レウィシアは笑っている。

「陛下達を待っている間、知人に会いまして。話していました。素晴らしい歌声だったとか。噂を聞いて広場に駆けつける者まで」

「・・・・・・」

「陛下達は? あちこち周っていたのでしょう」

「運良く聞けた。途中からだったが。人が集まっているから何事かと」

 止めてくれていれば。

「素晴らしい歌声だった」

 テーブル下のレウィシアの足を踏む。

「王妃様?」

 ついでにレウィシアを睨んでいたからだろう。不思議そうに声をかけられた。

「いえ」と食事に戻る。ここで頭を抱える、変に唸れば怪しまれる。もしくはばれる。

 もう人前で歌いたくない。フィオナ、アルーラは誉めてくれたが。

 令嬢がいた時とは違った、にぎやかな夕食となった。


 邸に戻るのも徒歩。馬車を使うほどの距離ではない。ダイアンサス夫人も慣れた足取り。貴族の中には短い距離でも馬車を使う者も。

 邸に戻れば、それぞれの部屋に。逃げはしないのに、レウィシアはセレーネの手をしっかり握っている。

「今日はいいものが聞けた」

 しつこい、とセレーネは寝台に腰かけるレウィシアを睨んだ。

「知っているのはあの一曲だけです。同じ歌を何度も、は飽きるでしょう」

「飽きない。俺も音楽は詳しくないが何曲か知っている」

「それならシアが歌ってください。というか、歌姫でも楽団でも国王命令で呼べるでしょう」

 セレーネでなくとも。

「それをやると勘違いしたのが来そうだな」

 専属の歌姫か。

「セレーネは。歌の上手い知り合いはいるか。お勧めの楽団がいるのなら、城に招いても」

 セレーネも寝台に腰かける。

「ネージュさん、でしょうか。あとは精霊」

 両方招けない。レウィシアもわかっているのだろう、小さく笑っている。

「シアの歌も聞かせてください。下手でも笑いません」

「そう、だな。考えておこう」

 乗り気でない返事。



「あっという間だったな」

 ダイアンサスの邸には十日間滞在した。

「色々あった十日間でしたね」

 セレーネはしみじみ。来るまでと来てからのレウィシアの機嫌の波。大半はセレーネのせい。後半はご機嫌だったが。気分転換、休息になったのなら、セレーネとしても言うことはない。セレーネも来て良かったと思えている。

 ただ、気になることが二つ。

 シーミの兄妹とラタトスク。両方とも姿を見ていない。もしかしたら一足先に城で。

 考えが嫌な方へ。

「セレーネ?」

「あ、はい」

「ぼう、としているが」

「先ほども言いましたが、色々あって、それを思い出していたので」

「そうだな」

 レウィシアも思い出しているのか、セレーネからどこか遠くを見ている。

「またお越しください」

 ダイアンサス夫婦は門まで見送りに。ガウラに「しっかり陛下をお守りしろ」と。ラーデイは途中まで一緒。途中から別れ、領地へ。

「ああ。落ち着いたら。そうだな、ガウラ、フィオナの結婚式もある」

「まだそこまで決まっていません」

 フィオナの小さな声。ガウラはレウィシアを睨んでいる。

 城に戻れば、今度は何が待ち構えているのか。当分は落ち着かない日が続くだろう。

 セレーネもダイアンサス夫婦に世話になった礼とまた、と挨拶。ダイアンサスに「陛下をお願いします」と頭を下げられた。

「セレーネ」

 レウィシアの差し出してきた手を取り、馬車へと乗り込んだ。

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