第129話 ヴィア主任のスイッチ

 次の日の朝のジャンプ力と力の測定でサイドさんの結果が凄かった。前日より1.2倍のジャンプ力と力が測定される。


 これによりやはり直接倒したものが経験値のほとんどを得るのだろうと思われた。

 ヴィア主任はエネルギーの塊のモンスターに攻撃を加えた時に、こちらにエネルギー(経験値)が入ってくるのではないかと仮定する。


 サイドさんは喜んで何度もジャンプしている。

 良い大人なのに……。


 悲しい事にヴィア主任との模擬戦で僕は押されている。

 ヴィア主任は急激な身体能力の増加でバランスが崩れているはずなのに、全然そんな事を感じさせない。

 疑問に思いヴィア主任に聞いてみる。


「ヴィア主任は急激に身体能力が上がっているのに動きのバランスが崩れていないのですが、何かコツでもあるのですか?」


「私は君の年齢以上に冒険者をやってきているんだよ。身体能力が上がっても調整する技術があるんだ。自分の脳が感じる違和感を無くすように動かしてみるんだ。そうするとバッチリ合うところがあるんだな。これは口で言っても難しい」


 結局、経験か……。

 打倒、ミカ・エンジバーグの道は遠い。


 このまま焦土の渦ダンジョンで活動していけば、毎日200万のギルドポイントが手に入る。

 CランクからBランク冒険者になる為に必要なギルドポイントは3,000万ギルドポイントなので、全てのギルドポイントをヴィア主任に付ければ9月の半ばにBランク冒険者になれる計算だ。


 余裕があれば焦土の渦ダンジョンの制覇をしても良いかな。

 ダンジョン活動を毎日行うのは疲れてくる。【9月5日】を休みにした。サイドさんは前日、外の飲み屋に行って泥酔して帰ってきた。

 日頃のストレス解消かな? サイドさんは自分で解毒の魔法をかけていたが二日酔いが完全に回復しなかった。今日はずっと寝ていると言われる。


 僕とミカはヴィア主任にボムズの街を案内する。

 ボムズの街を歩いていると、僕にはいつものように嫌な視線が向けられる。しかし今日はそれ以上に、隣りを歩くヴィア主任が注目を浴びている。

 研究室から出てきたヴィア主任はしっかりとした睡眠と食事と入浴で、ボサボサ頭と卒業している。緑色の髪色と尖った耳、綺麗な容姿のため注目度満点だ。

 ぞろぞろ後ろについてくる人が多くなる。さすがにまずいと思い、ヴィア主任はスカーフをして顔を隠す事にした。


 ボムズに来た時は馬車が冒険者ギルドまでだったし、家も冒険者ギルドから近い。焦土の渦ダンジョンへは馬車で行っていたため、ヴィア主任がボムズの街を長く歩くのは初めてだ。

 お茶が飲めるお店に避難して、息をつく事ができた。


 そう思った自分が馬鹿だった。

 隣りのテーブルには我が弟ガンギ・ファイアールとその婚約者であるシズカ・ファイアードがいた。シズカは帰省してたか!


 弟のガンギはこちらをキツく睨んでいる。シズカは獲物を見つけた顔をしている。


 早速、シズカがこちらのテーブルに移ってくる。4人掛けの席だったため、一つ席が余っていたのが痛恨事だった。

 ガンギは一人テーブルに残されて寂しそうだ。


 シズカが口を開く。


「アキさん、ボムズに来てたんだ。それならば言ってくれたら良いのに。水臭いなぁ、私たちクラスメイトでしょ」


 そう言って黒い微笑みを向ける。僕は軽く流す方針にした。


「急な予定変更でね。先日来たばかりなんだよ。これからも忙しいから君の相手は厳しいかな」


「そんな寂しい事言わないでよ。そうだ、ボムズのダンジョンに連れて行ってよ。今は夏休みだから良いでしょ」


「ダンジョンに連れて行くのは断ったはずだよ、遊びでやってるわけじゃないんだ」


 そこまでの話を聞いてヴィア主任が口を挟む。


「なんだ、君は貴族なのにダンジョン活動に興味があるのか?」


 突然の横からの声に軽く驚きながらシズカは答える。


「とても興味があります。だけどアキさんが連れて行ってくれなくて。学校の魔法実技のダンジョン試験は好成績でしたけど、もう少しランクの高いダンジョンも見てみたいと思っています」


「アキくん、若い前途洋々な女性になんて事をしているんだ。早速明日のダンジョンに連れて行こうじゃないか!」


 あ、ヴィア主任の変なスイッチが入った。


「ありがとうございます。とても綺麗な女性は心も優しいのですね」


「私は王都魔法研究所のヴィアだ。王都魔法学校の生徒は身内みたいなもんだ。気にするな」


「あのヴィア博士ですか! お目にかかれて光栄です!」


 このような経緯で【9月6日】はシズカも焦土の渦ダンジョンに一緒に行くことになった。

 僕とシズカの今までの経緯をしらないヴィア主任が推し進めるのはしょうがないか。シズカは外面そとづらは良いからな。

 僕はずっと睨んでいた弟のガンギの目が頭から離れなかった。

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