第四十三話「素顔」前編
「クマジャン・ツキノワ、討ち取ったりぃ――!!」
「うそだろっ!?」「おいっ!! マジじゃねえか?!」「やべぇべっ!?」「逃げろ逃げろ!!」「もう無理だぁっ!!」
グンマ軍全体に動揺が走り、兵士達は恐慌状態に陥りかけていた。
「今だ!! ギャレットの騎兵隊を後退させよっ!!」
「はっ!!」
パパパパパパ――!!
後退喇叭が鳴り、ギャレットはかねての指示通り敵を攻撃していた騎兵隊を後退させ、完全包囲の一角に、敢えて穴を作った。そして――
「見ろ!! あそこに穴が開いてる!! あそこから逃げるぞ!!」「あああああああああ!!」「ひいやっはぁっはあ!!」
そこからグンマ兵達は我先にと逃げ出した。もはやそこには軍としての統率は微塵もなく、ただ死にたくないために散り散りに逃げようとする集団があるだけだった。
「ギャレットの部隊は逃げる敵の先端から、ミラ、レイナルド、アフギ、デュラン、デザスター等はそのまま包囲を狭め全員根切りとせよ!!」
「「「おおおおおおおおおおおお!!!!!!!」」」
そうして我先にと敗走するグンマ兵達に想像を絶する追撃戦が行われ、数多くのグンマ兵が討ち取られた。
トウミ軍本陣――
そこにはライゼン含めた、エルシラ・プレセア・レイナルド・アフギ・デュラン・デザスター・ギャレット・ミラといった将軍一同が顔を揃えていた。
「戦果は如何に?」
そこへレイナルドが一歩進んで口を開いた。
「はっ!! 味方は死傷者を含め千名ほど、敵の死者は現在だけで五千近くに上るもので、これよりさらに増えていくものかと!!」
「うむ……
ライゼンは本陣を出て追撃戦に出ている騎兵意外の兵、領民兵や黒宝隊、そして重装歩兵隊が一同に整列する前へと歩み出た。その後ろには後に続き将軍各位が並んでいる。
「我が兵、我が子等よ!! 此度我等はグンマ兵に対して大勝利を収めた、これも全て其方等兵達の勇猛な働きあってである!!」
「「「おおおおおおおおおおお!!!!」」」
地割れのような歓声が上がる――
「勝鬨を上げる!! えい、えい――!!」
「「「おおおおおおおおおお――!!!!」」」」
「えい、えい――!!」
「「「おおおおおおおおおお――!!!!!」」」
「えい、えい――!!」
「「「おおおおおおおおおお――!!!!!」」」
そうして最終的に、被害はトウミ軍死者二百、負傷者八百、グンマ死者六千捕虜二千というトウミ軍の一方的な大勝利に終わった。
「御領主様ぁ――!!」「きゃーーーー!!」「おめでとうございますっ――!!」
凱旋するライゼン達に領民達の歓声が響いた。
その夜トウミ城――
トウミ城の内外では盛大な祝宴が催され、領民や兵士含め、多く者がこの大勝を祝い、酔っていた。
そしてトウミ城でも、祝勝会が開かれ、無礼講とのこともあり、将軍各位やエルシラ含めた親衛隊・城兵達も皆手に手に酒を持ち、勝利に酔い、大いに盛り上がっていた。
「主様ぁっ!! 飲んでおられますかぁっ!?」
ライゼンに声をかけてきたのは火酒を片手に、皆の中でも一番酔いが回っているプレセアだった。
「うむ、勿論だ。勝利の美酒は味わわねば損故な」
ライゼンもルーティーに用意された酒器に麦稈を刺して葡萄酒を飲んでいた。
「そっのとおり!! 流石は主様分かっていらっしゃるっ!! だがしかぁしっ!! 私はこの城の文武官を代表して主様に申したきことこれありぃっ!!」
プレセアは大分酔いが回っているようで、目の焦点も定まっていないような有様だった。
「……なんだ、プレセア、申してみよ」
「主様っ!! 我等は主様のために命を投げ打つことを惜しみませぬっ!! それは此度の戦でも証明できたかと思われますぅっ!!」
「うむ、そのとおりであるな」
そこでプレセアは火酒をグビリと一息に呷った。
「ぷはぁっ! ならばぁっ……!! 何故主様はそのお素顔を晒されませぬっ?! 主様は御自身のお顔を病故の醜き面相とおっしゃっていられますが、例えそうだとして、それで我等の忠誠心が揺らぐとお思いなのですかっ?!」
「プレセア殿の言うとおりっ!! 我等は主様お顔がどのようなであれ、決してこの忠誠が揺らぐことはありませぬぞっ!!」
「あっ、姉上様っ――」
同じく泥酔しプレセアの言葉に同調するように声を上げたエルシラを広間で給仕をしていたルーティーが慌てて止めに入った。
「そうです御領主様、我等は御領主様に惚れ込んでいるのです。それは顔の良し悪しではありませぬ、人柄に惚れたのでございますっ!」
「「「「レイナルド殿の言うとおりでございますっ!!」」」」
レイナルドの言葉にアフギが反応し、カクサやデュラン・デザスター・ギャレット・ミラ等将軍達も同調するように続けた。
「ふむ其方等の言い分は分かるが……ここは月光が入る故な……」
「衛兵!!」
「「「はっ!!」」」
「今すぐこの広間の窓という窓を全て一片の月光も入らぬよう板で打ち付けよ!!」
「はっ!!」
エルシラの言葉にまるで用意していたかのように、衛兵達が梯子と木の板と金槌と釘を持って現れ、この大広間の窓という窓全てに板を打ち付け、瞬く間に一切の月光が入らぬ状態にしたのだった。
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