第四十二話「決戦」後編

「流石だなクマジャンよ。だが、これは防ぎきれるか? ギャレット、ミラを敵後方より突撃させよ!! 突撃喇叭を鳴らせ!!」


「はっ!!」


 パパパパパ――!!


 突撃喇叭が戦場に鳴り響き、密かに下山し、グンマ軍の遥か後方に待機していたギャレット、ミラ率いる千の騎兵が一斉にグンマ軍後方へと突撃をかける。


「ぎゃあっ!?」「ぐわっ!!」「げべっ!!」「やぶばぁなうぃひっ?!」「がはあっ!!」「なんで後ろに敵がいるんだよっ!?」「おいっどうなってんだかっ?!」


 そしてここに開戦前よりライゼンが頭の中で描いていた完全包囲が完成した。

 しかし、詰には、王手には後一手を欠く。


 それは、クマジャンを倒さねばいずれこの薄く広がった我が軍の包囲は、内より喰い破られてしまうということだ。


 グンマ兵は流石に動揺しているが、まだ敗走の兆しは見えない、どころか、立て直す気配させ見せている。


「クマジャンよ……どこにいる? 中央か? 後方か? 前方か?」


 ライゼンは高地にある本陣より冷静に戦場を見渡しながら、クマジャンを探した。


「しっ、将軍っ!! 敵騎兵が後方から突撃をしかけてきました!! 我が軍は大混乱です!!」


「なにっ?! しかも騎兵じゃとっ!! 仕方あるまいっ、儂自らが近習五百を率いて後ろを蹴散らすっ!! 最後方の兵達には先ほどと同じく後ろを向いて戦えと強く言いつけてこい!!」


「はっ!!!」


「行くぞっ!!」

「「「はっ!!」」」


 ここで後方騎兵隊を蹴散らすために動いたクマジャンを、ライゼンは見逃さなかった。


「見えた――!! 敵軍中央後方にクマジャンがいる!! 行くぞエルシラ!! 本陣は任せたぞプレセア!!」


「ご武運を!!」


「親衛隊!! 主様へ続けぇ――!!」


「「「おおおおおおおお!!!!」」」

 そうしてライゼンはトウミ軍最精鋭部隊である親衛隊百騎と共に丘を駆け下り、クマジャン目掛けて突っ込んだ――


 丁度クマジャンも自らが先頭に立ち、ミラ達右翼騎兵隊と交戦している最中であった。


「将軍!! あれをっ!! 敵大将自らが近習を率いてこちらへ向かってまいります!!」


「なにっ!?」


 クマジャンが側近が指差した方向へ目を向けると、全身を覆う純白の絹の長衣に身を包み、銀色の仮面に煌びやかな白銀の胸甲をつけ、片手に白柄の偃月刀を持ち白銀の馬鎧に身を包んだ白馬に跨ったライゼンを先頭に、これまた純白の鎧直垂の上に煌びやかな装飾が施された銀色の胸甲と鎖帷子を着、手には七尺ほどもある白柄の大長巻おおながまきを持ち馬鎧を着けた白馬に跨った黒エルフ達が自分達を目指して突っ込んで来ていた。


 その白銀の部隊は、敵も味方も目を惹かれるほどに美しかった。


「おお……」


 思わずクマジャンも一瞬だけそのライゼン率いる親衛隊に意識をとられた。が、次いで頭を振る。


「目標変更!! 敵大将は目の前におる!! あ奴を殺せばこの戦は勝ちじゃ!! 全員儂に続けぇっ!!」


「「「はっ!!!!」」」


「ミラ!! 援護を頼むぞ!!」

「はっ!!」


 ミラはクマジャンの近習へと突撃をしかけ、その大半を引き止めさせた。


「ライゼン・オウコが親衛隊長、トウミのエルシラ参るっ!!」

「はっ!! 女子共が戦場に出しゃばるなっ!!!!」

 そうしてライゼンの親衛隊とクマジャンの近習がぶつかりあった。


「ふんっ!!!!」

 クマジャンの大戦斧でライゼン親衛隊の一人が馬の首ごと上半身を真っ二つに切り飛ばされ、もう一人の親衛隊員は頭を兜ごと鳩尾の辺りまで勝ち割られる。


「クマジャンッ!!」

「ぬうっ!?」

 ガギィッ――!!

 エルシラの大長巻の一撃を大戦斧で受けるクマジャン。


「やるな女ッ!! この戦が終わったらお前を兵共の慰み者にしてくれるわっ!!」

「ほざけっ!!」


 エルシラとクマジャンが数合、数十合と火花を撒き散らしながら剣戟を重ねる。


 クマジャンに加勢しようとする近習を親衛隊が抑え、そしてエルシラに加勢しようとする親衛隊をクマジャンの近習が防いだ――


 そして――


「むんっ!?」

 一人の親衛隊が捨て身の一撃をクマジャンの横合いから打ち込み、その一撃をクマジャンは左手で長巻の柄を掴んで防ぎ――


「まだじゃっ――!!」

「もらったあっ――!!」

「!? ぬぅぁっ!!」


 クマジャンはエルシラ渾身の一撃を右手に持った大戦斧で防ぐ。


「まだまだぁっ!!」

「いいや、終わりだっ……主様っ!!」


 エルシラが叫び、後方に控えていたライゼンがクマジャンへむかって駆け出す。


「クマジャン・ツキノワ!! ナガノ王国トウミ領主ライゼン・オウコ!! その首貰い受ける!!」

「ぬうっ?!」


 偃月刀を振り被るライゼンにクマジャンはなんとか対応しようとするが、右手で抑えているエルシラは少しでも力を抜けば自分が斬られ、左手の親衛隊員も死に物狂いでクマジャンの左手を封じ込めているため、クマジャンは斬首を待つ罪人の如く、自身に危険が迫っていると分かっていながら動くに動けなかった。


「小童ぁぁああああ!!!!」

「覚悟ぉっ!!」


 そしてライゼンが偃月刀を振り被り、その刀身が陽光を反射させ煌き――


「!!!!」


 ザンッ――!!


 クマジャンの首が飛んだ――

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