第四十一話「決戦」前編

 そうして敵先頭とレイナルド率いる領民兵の距離が二町ほどに迫ったとき――


「レイナルド隊へ突撃の陣太鼓を鳴らせ!!」

「はっ!!」


 ドンドンドンドン――!!


 本陣の突撃を指示する陣太鼓を聞いたレイナルドは領民兵全てに響き渡るように叫んだ。


「! 突撃の合図だ!! 全隊!! 槍衾陣形のまま突撃ぃ――!! 敵を串刺しにしてやるのだ!! 雄叫びを上げよ!!」


 領民兵達も陣太鼓とレイナルドの指示に従い、槍襖陣形のまま敵へと突撃した。


「「「うおおおおおお――!!!!」」」

「ぎゃっ!?」「ぐべゃっ!!」「ぎふっ!?」


 グンマ兵の得物はバレ=アスが手に持っていたような刃渡り三尺ほどの大鉈であるのに対し、領民兵の得物は三間半槍。実に敵の得物と三倍以上も間合いに差がある。


 そのため密集陣形で下り坂を一斉に降りてきた領民兵の突撃をくらったグンマ兵達は為す術もなく串刺しにされ、その衝撃で吹き飛び、後ろの者を巻き込みながら下り坂を転がり落ちる者もいた。


「よいか!! 三間半槍は突くのではなく叩き殺すのだ!! 決して陣形を崩すな!! 前の者が倒れれば後ろの者が前に詰めよ!! なにがあろうと敵を突破させるな!!」


「「「はっ!!!!」」」


 領民兵は訓練されたとおり、三間半槍を上下に振ってグンマ兵を近づけさせず叩き殺し、槍を失うか接敵された兵は腰に携えた片手剣を抜き必死に戦った。


 グンマ兵は接敵までの矢と領民兵の突撃による戦列の乱れと、この急坂を全力疾走してきた疲れにより、本来の半分の力も出せず、本来なら遥かに実力の劣る相手である領民兵相手に苦戦し陣形を崩せないでいた。


 そしてライゼンの目論見どおり、三日月陣の先頭を攻撃しようと凸の字型に突撃をしかけてきたグンマ軍に対し、逆にトウミ軍が突撃をかけた結果、三日月が裏返りトウミ軍がグンマ軍の正面を緩やかに包み込むような半包囲の形となった。


「今だ!! デュラン、デザスターに敵側面に突撃を仕掛けさせよ!!」

 すかさずライゼンが命令を下す。

「はっ!!」


「ギャレットとミラにはそのまま丘を駆け下り、敵の背後へと回り待機、整列させよ!!」

「はっ!!」


 ライゼンの号令でデュラン、デザスターが率いる両翼の正規兵である精鋭重装歩兵が、半包囲を抜け出そうと横に広がりかけたグンマ兵へと突撃を仕掛け、見事に敵を押し込み、トウミ軍が敵軍を凹の字型に包囲する形に変化する。


「ぎゃあっ!?」「ぐげっ!」「もんけっ!?」

「おっ、おい! 敵が前から横からも来てるじゃねえか!!」


 三方を包囲され流石のグンマ軍兵士達にも動揺が走る――


「将軍!! 敵に正面及び両側面を包囲されました!! 未だ正面の敵堅く突破もできず、兵には動揺が走り、士気が乱れております!!」


 伝令の言葉を受けてもなお、クマジャンは余裕の表情で鼻を鳴らした。


「ふん、青二才めが、猪口才ちょこざいなことをしおるわ。だが、こんな古臭い戦法で儂を倒せると思うたか? 甘すぎるわ、話にならぬ……全将兵に伝えよ! 正面に敵ある者は正面と戦い、側面に敵ある者は側面を向いて戦えとな!! そして一枚一枚奴等の皮を剥ぐように目の前の敵を一人ずつ殺し包囲を崩すのだ!! 数で勝る我等はそれだけで勝てる!! もし動揺する者あらば、この戦の後一族皆殺しにすると全兵士に伝えよ!!」


「はっ!!」


 そうして伝令達は走ってクマジャンの指令を各将軍達に伝えた。


「流石はクマジャンか……歴戦の猛将というだけのことはある……この包囲の弱点を簡単に見抜いているな――」


 包囲とは、包囲する側の兵が薄く横に広がり、包囲される側の兵が密度を増す。

 つまり、いくら包囲されたとしても、冷静に対処されればその数の優位から簡単に突破されてしまうのだ。


「ぎゃっ!?」「くそっ!!」「将軍!! このままでは戦列が維持できません!!」


 敵の猛攻とクマジャンの号令によりグンマ軍は攻撃の手を強め、槍を掻い潜り接近し、近接戦に慣れていないトウミ軍中央領民兵を次々に斬り殺し、まさに中央の戦況は熾烈しれつを極めていた。


「耐えるのだ!! ここが崩れればトウミの民が皆殺しとされる!! 例え戦列が維持できずとも後退だけはするなっ!! その体が動き続ける限り敵を殺し続けるのだ!!」


 返り血塗れのレイナルドが最前線で敵兵を切り殺しながら兵士達に激励の言葉を飛ばす。


「うむ……ここが正念場か……黒宝隊を投入させよ」

「はっ!!」


 ドンドンドンドン――!!


「全員抜刀――!! 我等が弓だけではないことを全軍に証明させに行きますよ!!」


「「「うおおおおおおおおお!!!!」」」


 アフギ率いる歴戦の精鋭兵である黒宝隊五百が中央へ投入される。


「ぎゃっ!?」「なんだっ!? まだいやがったのっぶっべっ!?」「ぎゃぎゃっ」「きぃっ!?」


「アフギ殿!! 助かったぞ!!」

「レイナルド殿こそご無事でなにより!! ここからは我等黒宝隊にお任せあれ!!」


「味方だあ!!」「自警団の皆が来たぞおおおお!!」「あああああああ!!」


 元々領民達から慕われていた元自警団で構成されている黒宝隊の加勢により、下がりかけていた領民兵達の士気も上がり、中央は勢いを取り戻し、トウミ軍は悪化しかけていた戦況を拮抗状態にまで押し戻すことに成功した。

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