第三十八話「侵攻」後編

「報告!! 敵の大将が判明致しました!!」

「誰か?」

「はっ!! 旗印は鮭を咥えた双頭の熊、クマジャン=ツキノワでございますっ!!」

「ご苦労、下がるのだ」

「はっ!!」


 下がって行く兵を見ながら独りごつ。


「クマジャンか……」

「ご存知なのですか主様?」

 エルシラにプレセア達も聞いたことがないという顔をしていた。


「うむ。確かグンマ部族国総首領の右腕であったはず。つまり、敵は本気でこのトウミだけではなく、ナガノ王国を侵略するつもりだ――」


 クマジャン=ツキノワとは、数年前まで各氏族同士で対立していたグンマ国内を武力によって統一国家と為した英傑、現グンマ部族国の総首領である、ビワ=ジャミセンの右腕としてグンマ統一戦でも数多くの功績をあげたと言われる名実共に名高い男だった。


「噂によると、七尺もある長身に体重は五十貫もあり、筋骨隆々とした体付きに重さ三十斤もある大戦斧を軽々と扱う猛将だと聞いている」


 私の言葉にエルシラ達が息を呑んだ。


「プレセア、レイナルド、文武官を全てここへ集めよ」

「「はっ!!」」


 そして文武官が全て集まった中で――


「決戦だ、ユノマルに陣を敷き、奴等を迎え討つ!!」

 皆を前にしてそう断言した。


「「「はっ!!!!」」」

 文武官等は一片の躊躇いもなく、全員私をしっかりと見つめてそう返事をした。


「皆の返答嬉しく思う。だが、役職如何に関わらず、聞きたきことあれば今申すがよい」


 武官代表であるレイナルドが口を開いた。

「篭城は何故おやめになられたので?」


「援軍が来ぬからだ。後詰めのない篭城は負け戦、さらにいえば、領堺が封鎖されているため民が逃げられぬ。そして、この狭きトウミ城に民を全て収容することはできぬ。例え民を見捨て、現在集まった五千の兵で篭城したとしても、肝心な兵糧が一月分程しかない。目の前で蹂躙される民を見ながら飢え死ぬは下策も下策。それに、民が私を見捨てぬように、私も民を見捨てぬ、そして、民が私を見捨てようとも私は民を見捨てぬ。故に会戦だ」


 次に文官代表であるカクサが口を開いた。

「ユノマルへ布陣される理由は?」


「高きを以て低きを攻めるに勢い竹を裂くが如し。と兵法にあるように、相手よりも高地に陣取るは兵法の基本である。敵は低地から高地にある我等を攻めるまでに、矢に倒れ、そして辿り着く頃には疲れ切っているであろう。無論、その突撃力も平地とは比べ物にならぬほど弱くなる。矢に倒れ疲れ果てた相手に対し、我等は万全の状態を以て迎え撃てるのだ。。加えて、ユノマルは起伏のない開けた高地である故、騎兵も十分に活かすことができる。我等は五千、相手は一万三千、数で倍以上も敵に劣る我等は、地の利と策によってこれを補わねばならぬ、故にその最適地がユノマル高地である」


「御領主様を信じて、あえて、お聞きいたします。勝算は如何に?」


「必ず、我等が勝つ。あえて言おう。これは皆を鼓舞するための嘘でも空威張りでもない。二度言うぞ、我等が勝つ。必勝である!! 其方等は私を信じるか、敵を信じるか、答えてみよ!!」


「「「御領主様を信じます!!!!」」」


「よろしい!! ならばユノマルへ陣を敷き、グンマ軍と決戦を行う!!」


「「「おおおおお!!!!」」」


「陣形は領民兵三千を中央、敵に向かって三日月型に配置し、その後方に黒宝隊五百、中央両翼に重装歩兵を各五百、さらにその両翼に騎兵各五百を配置する!!」


「「「はっ!!!!」」」


「レイナルド!」

「はっ! ここにっ!!」


「そなたは長槍を持たせた領民兵三千を率いて槍衾陣形で三日月状に布陣し、その指揮を執れ!! そして私の合図と共に敵へと一斉に突撃をかけるのだ!! よいか、この戦の成否は領民兵の奮闘にかかっておる!! 決して崩れさせるな!!」

「はっ!!」


「アフギ!!」

「はっ!!」


「其方は黒宝隊五百を率いて、領民兵の背後で突撃してくるグンマ兵に矢を射掛けよ!! そして領民兵が敵へ突撃した際は後詰めとしてその背後を守り、私の指示が下り次第弓を捨て白兵戦へと移行し領民兵を援護せよ!! 戦の成否は領民兵と其方等の奮闘にかかっておる!! よいか、決して奴等に中央を突破させるな!!」

「はっ!!」


「デュラン! デザスター!」

「「はっ!!」」」


「デュランは右翼重装歩兵五百を、デザスターは左翼重装歩兵五百を指揮せよ!!」

「「はっ!!!!」」


「ギャレット! ミラ!」

「「はっ!!」」


「ギャレットは右翼騎兵五百を、ミラは右翼騎兵五百を指揮せよ!!」

「「はっ!!!!」」


「エルシラっ!!」

「はっ!!」


「其方率いる親衛隊百騎は私と共に期を見て敵大将へと突撃する!! よいな!!」

「はっ!!」


「プレセア!!」

「はっ!!」


「其方は参謀として私の側へ! そして私が勝利の一手のために親衛隊を率いて本陣を抜けた際、本陣の指揮を執るのだ!!」

「はっ!!」


「カクサ!!」

「はっ!!」


「領民達とこの城を守るのだ! 最悪のときは、領境を封鎖しているジョウショウ軍を突破して領民達を一人でも多く逃がせ!!」 

「はっ!!」


 ――

 ――――

 ――――――


 敵の総大将はグンマ部族国の長であるビワ=ジャミセンの右腕といわれる猛将、クマジャン=ツキノワ率いる、グンマ統一戦を経た実戦経験豊富な精鋭一万三千の大軍――


 対するはライゼン・オウコ率いる、正規兵二千五百(内重装歩兵千、騎兵千、精鋭弓兵五百)に、素人に毛が生えた程度の、実戦経験の無い領民兵三千にライゼンの親衛隊百を足した五千六百――


 トウミの存亡をかけた決戦の火蓋が気って落とされようとしていた――

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