第二十五話「昇進と統治」後編

「うむ、まずは人質の解放を行う。つまり、其方等女中達は、今すぐにでも親元へ帰ることを許そう。トウミにおける有力氏族の娘を、女中・人質としてトウミ城へ出仕させる条令の廃止を宣言する」


「……えっ?」

 私の言葉に虚を突かれたような顔をしたのはルーティー達だけではなく、エルシラやレイナルド達文武官等も驚いた表情を浮かべていた。


「これも好い機会故、皆に改めて言っておこう。領民とは、そもそも民とは、国家にとっての宝。そこには白エルフも黒エルフも人間も獣人もその他種族も関係ない。我が子を人質にとる親などいないように、このトウミ城にも人質は不要である。無論、女中の中で残りたい者は残るといい。しかと俸給は出し、帰郷や休みたき日があれば休暇を与えよう。そして、辞めたくばいつでも辞める許可を出そう」


「御領主様……」

 私の言葉にルーティー達は目に涙を浮かべた。


「皆、今まですまなかった。まだ年端もいかぬ其方等が親元を離れ、罪人の如くこの城で酷使されることがどれほど辛かったか……。私には想像することしかできぬが、それも今日までだ」


 頭を下げると女中達がおやめくださいと口々にする。


「皆、これは試している訳ではない。親元に戻りたき者、女中を辞めたき者があるのなら遠慮なく申し出るがいい。例えそれで女中が足りなくなったとて、募集すればいいだけのこと。謝るべきは私にあり、其方等が気に病むべきことは一つもないのだ」


「「「御領主様――っ!」」」

 女中の中には涙に膝から崩れ落ちる者さえいた。


「こっ、このような重要なことをこの場では即答できない者も多いかと思います……! ですので、しばし考える時間をいただいてもよろしいでございましょうか?」


 ルーティーの言葉に頷く。


「無論だルーティー、そして皆よ。私は何も強制はせぬ。其方達……いや、達というのは適切ではないな。其方一人一人が個人としてしかと考え、その答えを私に聞かせてほしい。私はどのような答えでも受け入れよう」


「あっ、ありがとうございますっ!!」

「「「ありがとうございますご領主様!!」」」


 そうしてエルシラ達は大広間を後にしていき、文武官等が筆頭を先頭に私の前に整列し直した。

 

「次に、陛下より賜ったサルバルトール家の財を、賊共によって被害を受けたトウミの民達への慰謝料へと充てる。夫や働き手である息子を殺された者には遺族手当てを、家畜を盗まれた者には家畜を、農具を壊された者には農具を、財を奪われた者には財を与える。その旨を領民に知らせ、申告させるのだ。しかし、過剰に申告した者や虚偽を申告した者は、棒叩き二十回の厳罰に処す。文官達はその審査・精査をせよ」


「「「はっ!!!!」」」


「次に、これから私がトウミを発展させていくからには一人でも多くの賢人、武官や文官が必要だ。故に求賢令きゅうけんれいを発す」


「御領主様、求賢令とはどのようなもでございましょうか?」

 武官筆頭であるレイナルドが口を開いた。


「うむ、種族関係なく才能ある者ならば全て雇用する。それが求賢令である。ただし、前科があるものは罪状と理由次第とする。其方等は今すぐにその旨を立て札に認めトウミの各地へ、配置せよ」


「はっ!!」


「そして次は租税の問題である。このトウミは税率が高すぎる。そのため、民は重税に困窮こんきゅうし日々の暮らしすらままならないでいる。故に、現在の税率を三分の一へと引き下げると共に、種族関係なく平等な税率を課す、平等税率条令をトウミ条令として発令する」


「「「なっ!?」」」

 私の言葉に皆が言葉を上げる。


「ごっ、御領主殿、それでは税収が下がり、我等の今までの活動がままならなくなる恐れがございますっ!!」

 文官筆頭である白エルフのカクサが私の前へ進み出て頭を下げながらそう進言した。


「うむ。其方の言、もっともである。だが、それは通常の場合のみであろう」

「……どういう意味にございましょうか?」


 訝しむカクサに続ける。


「税収を下げると一時的に収入が下がるが、長期的に見れば現在よりも収入は増える。何故か? それは平等税率法と低税率によって、王国内の重税に苦しむ各区の白エルフ以外の民達がこのトウミへと移住してくるからだ。それに、当面の間は陛下より下賜されたサルバルトール家の財によりこのトウミ区の財政を心配する必要はない」


 それと――。と、私は甘い無想家ではないという意味も込めて続ける。


「私もただ税率を緩めるだけではない。その代わり、減税の前に綿密な検地を行う。隠し田が見つかった場合は、その分の税もしかと納めてもらう。分かったか?」

「「「はっ!!」」」


 頷くカクサ達へと続ける。


「そして法だが、現行の王国法では白エルフが有利すぎる。故に、どの種族も等しく同じく罪に見合った罰を与えられる平等法を条令とする。異論ある者は?」

「「「…………」」」

 流石は差別意識の低いトウミか、誰も異議を上げる声はなかった。


「そして、エルシラ、私が領主となったからには親衛隊を今の十一名から百名へ増員することが可能となった。そのれも出す。其方は黒エルフ白エルフ種族関係なく、親衛隊に相応しきものを求人し選別するのだ」

「はっ!!」


 文武官達に交じっていたアフギと自警団の幹部へ目を向ける。

 

「アフギよ」

「はっ!」

「其方等自警団を正式にトウミの正規兵として雇用したい。どうか?」

「……望外の喜びにございます……っ!」

「うむ、ならば其方等は号を自警団から黒宝こくほう隊へと改めよ。アフギ、其方が隊長だ。もし辞めたき者あらば引き止めるな」

「ははっ!! 後領主様のお言葉、一言一句違えず自警団に知らせまする!!」

 アフギ達は大任に目をうるませながら頭を下げた。


「次に兵士の募集を行う。今の城兵百名ではあまりにも少なすぎる。バレ=アスのような賊ならばまだよいが、グンマが国家として攻めてきたら到底太刀打ちできぬ。少なくとも常備兵は二千以上欲しい。レイナルドよ」

「はっ!!」

「今まで忠勤に励んでくれた其方をトウミ軍将軍へと任命する。城兵百名もその働きにより、校尉、什長へ昇進させる。其方らは新たに募集される新兵数千を率いる立場となるのだ。新兵の人選はレイナルドや城兵達に一任させる」

「「「ありがとうございますご領主様!!」」」

 レイナルドや城兵達は感激に頭を下げた。


「理想を言えば、重装歩兵千、弓兵五百、騎兵は千騎は欲しいが……騎兵は財政的にも難しいであろうな……」

「はっ……それは財政的に難しいでありましょうっ……! 求賢令でこの難題を解決できる逸材が来ることを願うしかありませぬっ……!」

「うむ、そうであるなカクサ。とりあえずは、皆、今言ったことを正式に施行せよ――」

「「「はっ!!!!」」」

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