第二十四話「昇進と統治」前編

 ルカやバレ=アス達が王都にて処刑されてから二週間ほど過ぎた頃――


「御城主様、王都より王使おうし様が参られました!!」

「すぐにここへお通しせよ」

「はっ!!」


 王使は名のとおり、国王陛下が使わした国王の名代である。

 私はすぐさま親衛隊や文武官等を引き連れ、王使一行をお出迎えする。

大広間の城主席の前に王使様が立ち、その面前に私を先頭にエルシラやレイナルド等文武官たちが跪く。


「王命である!」

 王使様が王書おうしょを開き、王命を告げる。


「トウミ城城主ライゼン・オウコよ、其方は赴任より一月ひとつきもせぬ内にトウミ城内の腐敗を正し、綱紀を粛正し、長年トウミの民を苦しめてきたグンマの賊を壊滅させ、さらにはその首領とそれに内通していた逆臣一味を捕縛し民を助けた。この功績と、余の喜びは筆舌に尽くし難いものである。そして余が何よりも嬉しきは、其方がトウミに根付いた種族間の差別や遺恨を取り払い、城兵と自警団が手を取り合い、白エルフ黒エルフ共同で賊を討伐し、そして味方の死者を一人も出さなかったたことである。これは聖賢せいけんと称えられるべき大功である。よって、余はライゼン・オウコを正式にトウミ領主、トウミ侯へ封ずる!」


 広間に「おお……」と部下達の声が洩れる。


「そして、ルカ・サルバルトール及び、ムンサ・シグナント、パヌー・ゼラ、バレ=アスの四名は磔刑たっけいに処すも、サルバルトール家は長年の王国への忠節に免じ、領土・財産没収の上、庶民へと降格させ国外追放の刑と処すものとした。そして、没収したサルバルトール家の財は、余が逆臣の跋扈ばっこを許した不明をトウミの民に詫びる為にも、全てトウミ領へ与えるものとする。その使い道は全て領主であるライゼン・オウコへと一任する! 以上である!」


「ライゼン・オウコ、謹んで拝受致します――」

 恭しく両手を挙げて王使様より国王陛下の王書を受け取った。


「ライゼン殿、此度の活躍、国王陛下は心より、お喜びになられていらっしゃいまするぞ」

 今回の王使を任されたトリカラ様が優しい笑みを浮かべられた。


 トリカラ様は昔から私が世話になっている陛下の侍従であり、御年は七十に届こうとしている。

 昔から常に国王陛下の側に仕え、そのお世話をし、誰よりも近くで国王陛下に接し、誰よりもその御心を見聞きしているお方なのだ。


「国王陛下より受けた御厚恩の数々を思えば、まだまだごうもお返しできておりません。だというのに今回のさらなる御配慮、身に余るほどの光栄に恐縮の至りでございます」


「そのようなことはありませんぞライゼン殿。其方と同期で、其方ほどの多大な功績を挙げた者は他にはございませぬ。それと、サルバルトール家が不正な行いによって蓄財した金品は全てトウミへと与えられました。その総額は実に大きな額でございます。国王陛下はこの財をライゼン殿なら、トウミの民を慰撫いぶし、トウミの発展へと使ってくれるものだと断言されておられました」


「ありがたきお言葉……このライゼン、感謝の極みにございます……っ!」

「ライゼン殿、これはライゼン殿のみへ御内密にとのお言葉ですが……」

「はっ!」


 返事をし近づいた私にトリカラ殿は銀星面の頭巾越しに耳打ちする。


「陛下は、ライゼン殿が領主権限を最大限に行使し、トウミがナガノ王国おける、開明派の理想の地となることを望んでおられます」


 同じく小声でお答えする。


「それはつまり……このトウミが、白エルフの特権法を全て廃止した、ほぼ独立国として振舞うような行いを陛下は許容なされる……。ということでございましょうか?」


「ライゼン殿、私は其方と同じく陛下よりご信頼を賜った開明派である身、腹蔵なく述べましょう。陛下はそれを許容するのではなく、望んでおられるのです。この意味、分かりますな?」


 私はトリカラ殿に深く頭を下げた。


「……はっ!! このライゼン・オウコ、陛下よりの御期待、決して裏切らぬことをここへお誓い致します!!」


「そのお言葉、しかと陛下にお伝えしますぞ」

 そうしてトリカラ殿は王都へ戻られた。

 

 ――

 ――――

 ――――――


「おめどうございます主様!! 晴れてトウミ候へとなられましたね!!」

「おめでとうございます御城主様! いえ、御領主様っ!! 我等城兵一同、心よりお祝い申し上げ致します!!」

「「「御領主様へお祝い申し上げ致します!!」」」


 エルシラ達親衛隊とレイナルド率いる武官達、カクサ率いる文官達が祝いの言葉を口にする。


「ありがとう。皆の言葉嬉しく思う。だが、それも全て御聡明なる国王陛下の御判断あってのこと、それを忘れてはならぬぞ」


「「「はっ!!」」」


「早速だが、領主となったときに行いたきことがいくつもあった。早速それを実行に移そうと思う。まずは女中達を全てこの大広間へと招集せよ!!」


「「「はっ!!」」」


 しばらくして全ての女中達が広間へと集められ、ルーティーを先頭に私の前に立ち並んだ。その両隣は文武官が控えている。


「ここへ来る途中、御城主様が御領主様になられたということをお聞きました、我等女中一同、御領主様に心よりお祝い申し上げます」


「「「お祝い申し上げます」」」


 ルーティーが口を開き、その言葉に同意するように女中一同が頭を下げた。


「うむ、ありがとうルーティー、そして女中達よ。そのとおり、私は城主から領主となった。つまり、国王陛下よりこのトウミの委任統治を任されたということだ。今までできなかったことができるようになった。故に、私は領主としてまず第一の命を下そうと思う」


「「「「なんなりと御命じ下さい御領主様――」」」

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