第二十二話「禍根の一掃」中編

「狙え――!!」

 そのアフギの号令と共にライゼン達を追撃してきた盗賊団の左右を囲むように、自警団が姿を現した。

 その数実に百――


「「「?!」」」

 さしもの盗賊団も足を止め、自分達が罠に嵌められていたことに気付いた。


 実はかねてよりライゼンは部下にパヌーの後をつけさせこのバレ=アス盗賊団隠れ家を知っており、その地形や敵の数を敵に気取られぬよう隠密に、そして綿密に調査させていたのだ。

 バレ=アスが森に配置させていた伏兵二十名も、全てこの自警団達によって密かに殺されていたのだ。


「放てぇ――!!」

 そして百の精鋭弓兵である自警団の十字射撃が瞬く間にライゼン達を追う賊共を射殺していった。


「全隊反転!!」

 ライゼンの言葉に城兵・親衛隊が一斉に反転し、怯えた表情で足を止めている盗賊どもを正面に槍を構え――

「突撃ぃ――!!」

 全力疾走で突っ込んだ。

「ぎゃあっ?!」「ぐわっ!?」「にっ逃げ……ぎゃあっ!!」


 次々と倒れていく賊兵。


「自警団は森に伏せたまま逃げてくる賊共を皆殺しにせよ!! 城兵と親衛隊はこのまま森を抜け先程の広間へ出るだ!!」

「「「はっ!!!」


 後続のほとんどが矢で射殺され、それに竦んでいた者達は重装歩兵突撃により粉砕され、追撃のため森へ入って行った百人近くの賊兵は、敗走しほうほうの体で広場へと戻ってきた。


「頭ぁ!! 森に伏兵がいやした!! ここは逃げ――」

 ましょうぜ、と言おうとした部下の首を大鉈で斬り跳ばした。

「野郎共!! 伏兵がいようがたかが知れてる!! 数で押し殺せぇ!! 従わねえ奴ぁ俺がぶっ殺す!!」

 二度も罠に嵌められたバレ=アスはすっかり頭に血が上り、激怒し、正常な判断力を失っていた。


 ――

 ――――

 ――――――


「全隊、森を背にし盾持ち槍衾陣形へ移行せよっ!!」


 私の号令と共に長方形の陣が展開され、左手で大盾を持ち前面に構え、右手に長槍を構えた鉄壁の陣形、古代史曰くラケダイモンの兵達が得意としたとされる、盾持ち槍衾の陣形が完成する。


「最右翼最左翼は最古参兵が務め、見事敵を討ち、私を守ってみせよ!!」

「「「はっ!!」」」

 返事共に兵達が賊共を突き刺さす。

「げっ?!」「ぎゃっ!!」「げばっ?!」「ぐぎゃっ!!」「げんげっ?!」


 バレ=アスに無理矢理命じられまばらに突撃してきた賊共はその体を長槍に刺し貫かれて次々と死んでいった。

 そもそも長槍と刀では間合いが違いすぎる上にこちらは訓練された正規兵、それが陣形を組みまばらに襲ってくるロクに訓練も受けていない賊相手では勝負にすらならない。


「くそっ!! 仕方ねえ!! 俺も出るぞっ!! 野郎共!! 全員で押し殺すぞ!! 奴等は正面に比重を割いてやがる!! 囲い込めえ!!!!」


 一旦敵が後退した瞬間を見逃さず号令をかける。


「城兵屈め!! 親衛隊!! 弓、構え!!」

 そうして私達の周囲に展開しようとする賊共へ向かって後方の親衛隊に弓を構えさせた。


「放て!!」

「ぎゃっぐ?!」「べへっ!?」「こっ?!」

 私達の側面へ動いた賊共も親衛隊の弓に次々と倒れていく。

「くそっ! 近づけねぇっ! こらっ逃げるなぁ!!」

 バレ=アスが鉈で矢を斬り落としながら檄を飛ばす。


 パパパパ――!!

 そこへ追撃をかけるようにそ森の四方から甲高い喇叭の音が響く。


「なっなんだぁっ?!」

 バレ=アス含む賊共は広間を囲む四方の森林から響く喇叭の音に動揺する。


「囲まれてるっ!?」「おしまいだぁっ!?」「逃げんべっやべーべ!!」


「今だ!! 時は来た!! 敵は総崩れである!! エルシラ、レイナルド!! 其方等はバレ=アスを捕縛せよ!! 親衛隊は私の護衛に二人を残し、残りはルカ・ムンサ・パヌーを捕縛し、城兵はこの賊共撫で斬りとするのだ!!」


 剣をバレ=アス達に向けて声を張り上げ、兵達が応える。


「「「はっ!!!」」


 今回の掃討作戦で私はエルシラを通じ秘密裏にアフギ達とは別の予備隊も含めた自警団を総動員させていた。

 その数実に五百。

 彼等の役目はバレ=アス盗賊団を一人も討ち漏らすことの無いようにすることで、この森林一帯を囲むよう五人一組で隊を組ませていた。


 これだけの数の利がありながら、何故私が供回りたった三十のみで罠が張られた敵の根城へ乗り込み、自警団を伏兵や掃討のみにあてて、直接の近接戦闘に参加させなかったのかと言えば、一つはバレ=アスやルカ達を油断させるため、二つは文字通り敵を一人も討ち漏らさないようにするため、そして最後は、できるだけ自警団の死傷者を出させたくなかったがためであった。


 城兵や親衛隊のような自ら志願し、俸禄をもらう兵とは違い、自警団は城主・領主が愚かなために仕方なく組織された、俸禄もなくトウミのため死なぬために命を懸けねばならなくなってしまった兵士ではない、自身が守るべきトウミの民達だったからだ。


「バレ=アス!! 積年の恨み!! 覚悟おおっ!!」

「ふざけんなクソアマがぁ!!」

 エルシラが投擲した長槍をバレ=アスが大鉈で弾く。

「うおおおおおお!!!!」

 雄叫びを上げつつ腰の片手剣を引き抜いたエルシラはバレ=アスへ斬りかかるも、バレ=アスは得物である大鉈でもって弾き返す。

「ぬっ?!」

「もらったぁっ!!!!」

エルシラがのけ反った瞬間、バレ=アスは笑みを浮かべ、エルシラへ大鉈を大振りに振るった。

 が――

「ふんっ!!」

 ガギッ――!!

「なっ?!」

 エルシラは手に持った大盾でバレ=アスの一撃を防ぎ、その大鉈が盾に食い込み動きを止めた。

「ぬっ、抜けねぇっ?!」

抜作ぬけさくめがっ!!!!」 

 エルシラは大盾に食い込んだ大鉈を必死で抜こうとしているバレ=アスの左腕の肘から先を瞬く間に斬り飛ばした。

「ぎゃあああああ!?」

「馬鹿が――っ!!」

「なっ?!」

 さらにエルシラに気を取られていたバレ=アスへ一気に距離を詰めていたレイナルドが、そのガラ空きになった鳩尾へ大槍の石突を思い切り打ち込み、エルシラがとどめに剣の柄をその前屈みになった首へと叩き込み――

「ごっ!? ガッ?!」

 バレ=アスはそのまま白目を剥いて地面へ倒れた。


「ひいいいい!! 頭がやられたぞお!!」「逃げろ!!」「あああああ」


 バレ=アスがやられた後はもはや戦いにはならなかった。バレ=アスに殴り飛ばされ気を失っていたルカ及びムンサとパヌーは捕縛し、残りの賊共は武器を捨て我先にと山中や森林に逃げ込み、そこに潜ませていた自警団によって皆殺しとされた。

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