第二十一話「禍根の一掃」前編
「御城主殿っ! あれでございますっ!! あれがバレ=アス共らの根城にしている洞穴でございますっ!!」
ムンサの指差す方向に目を向けると、そこには山奥だと言うのに周囲が円状に切り開かれた広場のような空間があり、広場の背には断崖がそびえ立ち、その五丈ほど位置には洞穴があり、そこから左右に伸びた坂道が広場へと繋がっていた。
まさに天然の要害。
あそこに
洞穴の入り口周辺には誰もいない。が、下の広場には腰掛け用であろう切り株や毛皮の敷物、焚き火台の上には汁物の入った大きな鍋が吊るされており、二、三十名ほどの盗賊団達がくつろいで何やら雑談を交わしていた。
「御城主殿っ! いますぞっ!! 奴等は油断しきっております!!」
「……おかしいな、お主はバレ=アスが用心深いと申していたが、なら、何故奴は
鼻息荒いムンサを
「きっとこの前の撃退時に部下を失いすぎたか、そのせいで求心力を失っているのでありましょう!! つまり、奴等は油断しきっている!! 今行かないでいつ行くのですっ?!」
「だが……」
「御城主殿がここまで来て尻込みなさるのなら、このムンサ、忠信を示すためにも、一人で奴等へと斬り込んで御覧にいれましょうぞ!!」
そう言ってムンサは片手剣を抜くや否や広間へ向けて森を抜け突っ込んだ。
「……仕方あるまい、全隊、密集陣形を維持したまま突撃ッ!!」
「「「はっ!!!!」」」
ムンサを先導に我等が突撃すると、広間でくつろいでいた賊共は大層驚いたように反応し一斉にこちらへ背を向け崖に繋がる左右の坂道へと逃げ出した。
「追えっ!! 追うのだ!! 一人とて斬り漏らすなっ!!」
そうして私達が完全に森から出て、広間の真ん中まで進んだ瞬間――
「かかったなライゼン――!!」
その声が洞窟に繋がる五丈も高さのある崖上から聞こえ、次の瞬間、そこから五十近くの弓を装備した盗賊団員と、ルカ、そしてバレ=アスとパヌーが姿を現した。
「!! どういうこだムンサっ!?」
「ははははっ!!」
ムンサや広間にいた賊共は私の言葉には答えず笑いながら走ってその洞穴へ続く坂道へと走って行った。
「くっ……ムンサよ!! あれほど、目をかけてやったに、何故裏切った!?」
「ははっ!! 私は裏切ってなどいない!! 何故なら最初からお前になど降っていないからだ!!!!」
私の言葉にムンサは勝ち誇った顔でそう答え、ルカが続けた。
「はっはっはっ!! 哀れよなぁライゼン!!」
「ルカよ!! 其方、賄賂を受け私服を肥やすどころか、他国の賊と結託し祖国の領地を襲わせ、その分け前を受けとっていたとはな! これは
「黙れ薄汚い病人の人間めがっ!!」
私の言葉にルカは歯をむき出しにして額に血管を浮かべながら叫ぶ。
「黒エルフは人に非ず!! 故に殺そうが奪おうが問題にはならぬわ!! 開明派? 平等? 反吐がでるわっ!! 白エルフ意外は人に非ず!! お前が私を棒叩きにした罪こそが私の罪以上に許されぬわ!! バレ=アスよ!! 奴等を嬲り殺しにするのだ!!」
「お前ぇ、そのぎんぎらぎんなピカピカの仮面野郎……覚えてるぜぇ……今、あの夜の借りを返してやるぜぇ……野郎共狙えっ!!」
ニタニタとするバレ=アスの言葉にそして崖上の賊共が一斉に弓を構えた瞬間――
「全隊!!
私の号令と共に私を中心に親衛隊が、さらにその親衛隊の四方を城兵が囲むように亀甲陣の構えをとった。
前面の兵士はその大盾を脛から顔まで隠れるように構え、伏兵である敵盗賊弓兵がいる前方に盾を掲げ、後方の兵士は盾を頭上に掲げ、微塵の隙間も無いように正面と上方を防御する陣、これが私が秘密裏にレイナルドやエルシラ達に訓練させていた密集陣形の一つであった。
「野郎共!! 一斉に
バレ=アスの号令と共に一斉に矢が放たれる。
だが――
ガガガガガガガガガ!!
奴等が放った数百の矢は全て亀甲陣の大盾で防がれていた。
「死傷者は?」
「ありませんっ!!」
「よし、全隊、ゆっくりと今来た森の中へ後退せよ! 決して慌てるな!! 安心せよ!! グンマの民は近接戦に長けてはいるが、弓の扱いは不得手だ!! 奴等の矢がこちらの大盾を射抜くことはない!!」
バレ=アス盗賊団が放った弓は確かに我等へ命中はしていたが、全てその盾に当たっているのみであって、盾を貫通させる矢は一本もなかった。
――
――――
――――――
「なっ?! おっ、おいバレ=アス殿どういうことだっ!? これだけ弓を放って一人も射殺せておらぬではないかっ!? このままでは逃げられてしまうぞっ!!」
弓を受けながらも全て盾で受けきり、一人の死者もださずゆっくり規律だって森へ向かって後退するライゼン達に焦りを覚えたルカがバレ=アスへ向かって声を荒げる。
「分かっておるのであろうなっ!? ここで彼奴らに逃げられたら全員おしまいであるぞっ!?」
「安心しろやぁ、逃げられねえよう森にも伏兵をおいてんだよ」
「では何故後ろから射掛けさせぬっ!? あの陣は側面と背後が弱点なのだぞっ?!」
「ああっ? 合図送ってんのにかっしーなーぁ?」
首を傾げるバレ=アス。
「おかしいではない!! お主、ことの重大さ……ぶぎゃっ?!」
喚くルカの顔面にルカの容赦ない裏拳が叩きつけられ、鼻骨が砕けたルカは鼻血を噴き出しながらゴロゴロと後ろへ吹き飛び、そこへムンサとパヌーが駆け寄って介抱する。
「ごちゃごちゃうるせえんだよぉ耳長野郎っ!! 俺らは刀は得意だが弓は苦手だっつってんだろっ!! 仕方ねえっ!! 野郎共!! エルフの真似事はやめだ!! 敵はたった三十、こっちは百だぁ!! 崖から降りて全員切り殺せ!!!!」
「「「へいっ!!!!」」」
バレ=アスの言葉に今まで弓を射ていた盗賊兵が弓を投げ捨て手々に刀や鉈、短刀を持って滑り降りるように広場へ下り、亀甲陣を展開しているライゼン達に迫った。
――
――――
――――――
「愚かな……後詰も弓兵も残さず全隊で向かってくるとは……エルシラ! レイナルド! 左右や背後に敵はいるかっ!?」
「おりませんっ!!」
「同じくっ!!」
「よしっ、全隊亀甲陣解除! 森への中へと逃げ込むのだっ!!」
私の号令に城兵と親衛隊は亀甲陣を即座に解き、私を中心に守るように規律だったまま森の中へと走った。
「へっ! そんな重たい装備でどこまで逃げれるかなっ?!」「ぎゃはははは!!」「鬼ごっこか?!」「頭捻じ切って地獄だ、やぁ!!」「俺達は至高のかっこいい!!!!」
我々が敗走していると油断し切っている盗賊達は徐々に我々と距離を詰め、目の前まで迫った瞬間――
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