第十五話「エルシラ出仕、親衛隊結成」後編
「文武官等よ、其方等の気持ちも分かる。故に多くは言わぬ。ただ、ここは私を信じてはくれぬか? このエルシラは信頼に足る者であり、そのエルシラが信頼に足ると選んだ者は信頼に足る者である。と、このライゼンを信じて欲しい」
「「「はっ!!」」」
私の言葉に文武官達はそう返事を返した。
「なにか言いたいことはあるか? ルカよ?」
名指しされたルカはギョッとして私を見た。
「い、いえ、実に黒エルフ
ルカの嫌味に、また棒叩きになるぞと文武官やムンサにパヌーが恐々とした表情を浮かべる。
「うむ、其方の言も一理ある。だが、その見解は間違っていると言わざるをえない」
「どこが? で、ございましょうか?」
「其方の言うとおり、一見して私は黒エルフを贔屓にしているように見えるかもしれぬが、然に非ず。私は公正と信賞必罰を信条としている」
ルカをまっすぐに見返しながら続ける。
「故に私は黒エルフを見下しもしなければ贔屓もせぬ。それは白エルフでも混血エルフでも人間でも獣人でも同じである」
「では何故親衛隊全員を黒エルフで構成させようとなさるので?」
これならどうだという顔でそう口にするルカにライゼンが応える。
「ならば其方に聞かせてほしい。誰を親衛隊に抜擢するのがよいか?」
「無論、実戦経験豊富で忠誠心の高い、隊長意外は全て誇り高き白エルフで構成された、このトウミ城兵をお使いになられるがよろしいでしょう」
ルカの言葉に文武官は呆れて、ため息をつく者すらいた。
「それは現場を知らぬ其方だからこそ言える言葉であるな。まこと、空論である」
「どっ、どういう意味でございましょうか?」
ルカは頬をひくつかせながら答えた。
「そのままの意味だ。私も城兵達には……いや、この城に勤める皆の忠誠心は疑うまでもなく信を置いている」
私の言葉に城兵始め、文武官が背筋を正し、その期待にお応えしますといった瞳で見返す。
「だが、この城の城兵は定員の最下限である百名しかおらぬ。その百名は三交代で昼夜問わず城を守り、さらには賊に対する警邏を行いなんとか機能している状態である。というに、そこから十人もの精鋭を差し引いたらどうなると思う? 論ずるまでもない。破綻するのだ」
「でっ、ではその分の兵を募兵しては……」
「募兵及び増兵は領主権限でなくば行えぬ。其方は私に越権行為を勧めているのか?」
特例としてジョウショウ大管区長の許可があれば可能であり、現に私は既にその旨を書状に認めて送ったが、結果は「増兵の必要性を認められない」との返書が返ってきたのみであった。
「いっ、いえいえ、決してそのようなつもりは――」
また棒叩きされる自分を想像したのか、ルカは顔を青くさせて顔と手をぶんぶんと振った。
「では、以上を踏まえて其方に聞くが、このトウミで、城兵以外で、実戦経験があり、この地に精通し、城兵に引けをとらぬほどの強さを持ち、さらには忠誠心の厚い者を、しかも十名も、どこで集めればよいか?」
「…………」
二の句が告げないルカは黙ってしまった。
「分かったなエルシラ? 今述べたとおりである。其方は胸を張って任を果たして参れ」
「……っ御意っ!! ではこれにて、初任務を行うため、失礼致します!」
そうしてエルシラは武具箱を抱え頭を下げ、大広間を後にしていった。
――
――――
――――――
そうしてエルシラに選ばれたトウミの黒エルフ十人は、顔付きは凛々しく背は高く、体躯は屈強、実に勇壮な男達で、その挙動や視線雰囲気からもその強さや私やエルシラへの深い尊敬さや忠誠心が窺えた。
「うむ……素晴らしい勇士達である。エルシラよ、初の任務、よくぞ見事に成し遂げてくれた」
「はっ!! ありがたきお言葉!!」
親衛隊装束に着替えたエルシラが頭を下げた。
エルシラ曰く、ここにいる男はエルシラが私の親衛隊を探していると聞くや否や殺到して来た志願者達から厳選してきた者達とのことだった。
それも、エルシラに対し「断られればこの場で自らの首を刎ねる」と息巻くほどの、私へ狂信的なほどに心酔している者達とのことだ。
「それと……、遅れたが、親衛隊装束、似合っているぞ、エルシラ」
「はっ……はっ! ありがとうございますっ!」
エルシラは顔を真っ赤にして頭を下げた。
五尺八寸と背の高いエルシラに、褐色の肌色と白い髪色は白き鎧直垂と銀の胸甲と相性が良く、元からの顔の良さとも相まって、とても見栄えが良い。
「だが、これほどの勇士達を引き抜いてしまって、自警団は大丈夫か?」
「はっ! 万事抜かりない人選でございますっ!」
「ならばよし」
私はエルシラに行ったように手ずから親衛隊に選ばれた十人に一人ずつ名前を呼び、武具箱を与え、十人の黒エルフ達感激しながら受け取った。
そうして全員が親衛隊装束に着替え終えた後、私はエルシラを斜め後ろに立たせ、背後を守らせながら、目の前に横並びに立つ十人の親衛隊員へ口を開いた。
「選ばれし十人の勇士達よ、其方等はこれよりトウミのためではなく、私の為に命を懸けてもらう。綺麗言は言わぬ。私の為に生き、私の為に死に、私の為に殺すのだ。私から下される命令に疑問を抱くな。親衛隊に必要なものは知恵ではなく、愚直さと勇気である。私の為に死ぬ覚悟、殺す覚悟、それらが無い者は不要である!」
十人の親衛隊員は一切の乱れもなく、真っ直ぐに私の瞳を見つめている。
「そして、私は其方等が命を懸けるに価する者であることを、そうあり続けることを、ここに約束しよう」
ゆっくり一人一人の目を見つめ返す。
「其方等は私の為に死に、私の為に殺すのだ!!」
「「「はっ!!」」」
十人の親衛隊は一糸乱れぬ挙動で返事を返し、ここに総勢十一名の親衛隊が誕生したのだった。
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