第四話「舌戦と棒叩き」後編
「さて……ルカよ、陛下より任命された城主の書簡を無視した罪、法によって定められた新城主出迎えを怠った罪、政務を怠り惰眠を貪った罪、副官の教育を怠った罪、伝馬官に罪を被せようとした罪、そしてそれらを誤魔化すために嘘をついた罪――」
ジッとルカの目を見つめる。
「これらにはどのような裁きが妥当であろうか? 伝馬官に罪を着せようとした罪だけでも縛り首は
「じっ、城主様は、寛大なお方だと伺っておりますれば、私が自身の過失を認め、改心すれば、その罪に問うことはないと信じております……っ!」
「なるほど、ならば、其方は罪を認め改心すると?」
「はっ、はいっ、心より!」
必死に首を縦に振るルカ。
「よろしい、ならば其方への罰を言い渡そう。先に言った諸々の罪に、情状酌量を与え……」
一度周囲の文武官達を見渡してからゆっくりルカを見、判決を下す――
「棒叩き二十回の刑に処す!」
「はあっ?!」
私の言葉にルカがありえないと言った様に顔を上げた。
「誰か、この者を棒叩きにせよ!」
だが、大広間はシンと水を打った様に静まり返り、私の言葉に従う者は誰もいなかった。
城内の武官文官、城兵長レイナルドも含め、ルカからの報復を恐れて誰も罰を執行できないのだ。
「はっ……ははっ! 城主殿御覧あれ! 私は城兵達から慕われておりましてな、誰もアナタの命になど従いませぬぞ! これこそ私が罪を犯していないという証!! 貴殿もお認めになったらどうだっ?!」
「残念だが、お前の舌先三寸も家の脅しも私には通じない。誰もお前を
私の言葉に指名された衛兵の二人が急いで棒叩き用の台と六角棒持って来る。
「城主の命令である! ムンサ、パヌーお前達はルカの上着を脱がし片腕ずつを押さえよ!」
「城主殿、横暴が過ぎますぞ!!」
「黒エルフの言葉を信じ、白エルフたる我らの言葉を信じないと知ればどうなると思われますっ!?」
ルカの副官二人が抗議の声を上げ私を止めようと手を伸ばした。が――
「触れるな――」
「「っ――!」」
私の言葉に二人はその手を止めた。
「この光聖衣は陛下より
行き場をなくした腕を
「早くルカの両腕を押さえ、服を脱がせよ。でなければ貴様らも同じく棒叩きの刑に処す! そして、貴様らがルカの腕を押さえるのが十秒遅れる度に、ルカの棒叩きの回数を一回ずつ増やす!」
「「ル……ルカ様……」」
「ひとつ! ふたつ!」
「しっ、仕方あるまいっ、早く腕を押さえよっ」
どうしていいかわからない顔をするムンサとパヌーにルカはこれ以上回数が増えては
「覚悟はいいかルカ・サルバルトール?」
「じっ、自分が何をしようとしているか分かっているのかっ?!」
「残念だったな、ルカ」
「なっ……何がだっ?!」
うつ伏せに両手を押さえつけられルカはもう
「私は王立士官学校を次席で卒業しているが、武術はからっきしでな……なまじ知っている分手加減というものができんのだ。むしろ、そこなレイナルドに任せたほうが、余程手加減してもらえたことだろう」
「はぁっ?!」
ルカは信じれないという表情を浮かべる。
「では……始めようか――」
私は棒叩きようの六角棒を衛兵から受け取り、ルカのむき出しの背中へ向けて
ベチィ――!
肉を打つ鈍い音が大広間に響き渡る。
「ぎゃあっ!?」
「悲鳴が早いぞルカ。なにせ……あと十九回はあるのだから――」
私の言葉にルカは顔を青褪めさせる。
そしてルカは残り十九回の打擲を痛みに泣き喚きつつ、白い肌が裂け血飛沫を舞わせながら受け、最終的に意識を失った。
「ムンサにパヌーと言ったな、運び出して手当てを受けさせてやれ」
二人は私の言葉に返答もせず、青黒く腫らせた背中から血を流し、気を失っているルカに肩を貸して大広間を去って行った――
「誰か、この台と棒を片付けよ」
「「はっ!!」」
そうして棒叩き台と六角棒が下げられ、私はゆっくりと城主の席へと座り直し、文官武官達が戦々恐々と私を見る中、皆をゆっくり見て口を開いた。
「改めて自己紹介をさせてもらおう。私が新城主に任じられた、ライゼン・オウコである。生まれながらの日光病故、仮面のまま皆に接する非礼を許してくれ」
そうして頭を下げると辺りがざわつき出し「頭をお上げください」という声が皆から上がる。
「ありがとう。皆の気遣いに感謝する」
頭を上げて安心させるような声音で話すと、皆の緊張が解け、同時に、魅入るように私を見た。
「私は士官学校を出たばかりの、二十歳の若輩者。皆の手助けなければ立つことはおろか、動くこともままならないであろう。故に、皆には私に足りぬことあらば助け、間違いがあらば正して欲しい」
嘘偽りなく、
「
一人一人の顔を見て反応を確認しながら続ける。
「今も見たであろう。これが私のやり方だ。善行には褒賞を、悪行には罰を、信賞必罰。白エルフ、混血エルフ、黒エルフ、人間、獣人、誰であろうが私は平等に評価する。贔屓はない。以上である」
そうしてトウミ城の文武官達は私の言葉に頭を下げた。その武官や文官達の中でも、私に対して期待の視線や熱い視線を送る者も少なくなかった。
レイナルドもその一人であった。
少なくとも、ルカ・サルバルトールという病根は残っているが、これでこのトウミ城内の緩み、乱れた規律を正し、文官武官の心を一つにすることはできただろう。
「さて、城内の風紀も正したところで、政務を始めるとしよう。文官、先にも言った通り、私がルカ副城主に求めた情報資料を持って参れ。武官は盗賊の襲撃回数や被害状況、賊の規模、強さ、装備、トウミ内の警備状況の資料と、実際に賊と相対したことのある者は、その知りうる限りのことを私へ報告せよ」
「「はっ!!」」
そして夜更け前までには、机に積み上げられた資料全てに目を通し、グンマ盗賊についての城兵の話を聞き終えた。
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