第79話 それぞれ…

 現在、ミーリアは魔力操作の絶賛訓練中だ。


 この世界の一時代に聖女や聖人が現れる保証はまずない。資質がある子が生まれても確実に開眼する確証もない。その為、教会は聖女(聖人)を確保するために必死なのだ。資質があれど僧侶や神官、プリースト等の職を経た上で、聖属性の魔法を完璧にこなせるという前提で付ける職であり、聖属性魔法職の最上位に当たる。


 しかしだ、彼女はイレギュラーだ。


 その為、本来なら完璧に使えるはずの初級回復魔法ですら戸惑う有様。生まれてからこれまで魔法など使った事なんてない。そんな経験が著しく乏しい者が最初から完璧な魔法を扱えるわけがないのだ。


 初めての氷上に立ち、初めて履いたスケート靴で、すぐにフィギュアスケートで四回転ジャンプが出来るはずがないのと一緒だ。よちよち感が半端ない。


 ただ、絶対音感があるので、楽器を奏でるのに優位って事位はあるかもだが。


 ラーナ兄は、覚えた魔法を行使する事だけが魔法使いではないと考えている。ただ魔法を扱えるだけが、本当の力を発揮した事にはならないと言うことだ。


 そこで彼は自分なりに魔力の流れをコントロールする方法を研究したのだった。


 それは身体の中に流れる魔力を効果的にかき集め、練りに練った上での行使や、それを一点に凝縮して飛ばす力、また、全身をめぐる魔力を一気に放出する力とかの訓練法だ。


 それだけでなく、潜在的な自身の魔力量だけでは賄えない力を行使する為には、いかに素早く効率よく外界から魔素を取り込む事ができ、その魔素を効果的に魔力に変換する方法をも編み出した。所謂、高速充電だ。


 ラーナ兄はそんな魔力のをコントロールと訓練法を確立し、またそれを魔法騎士団に広めた人物だった。


 ミーリアとアイリの二人は、ネコ先生に魔力操作の基礎を教わっているが、応用となると難易度が跳ね上がる。賢者になったネコ先生でさえ、高度の魔力操作に手こずってる有様で、そこで見兼ねた兄が一肌脱ぐことになった。


『では吾輩が魔力操作の応用を直々に伝授してやろうぞ』という事になり、ネコ先生と共に、ミーリア、アイリの指導をしてくれるようになった。ネコ先生曰く、ラーナ兄の魔力操作はかなりのものらしい。


 そのお陰もあってミーリアの聖女としての力だけでなく、アイリの魔法能力も短期間でかなり上達したようだ。


 ◇◇◇


 そんな事情もあってかラーナ兄が今回の攻略メンバーとして参加すると言う事を聞いた僕は、一つ気になっていた事を質問した。


「あの~、王宮魔法騎士団の方は大丈夫なんですか?今、大変な時期だと聞いてたのですが」


「うむ、実は―――。吾輩の転職が決まったのにゃ…。あ、ゴホン。吾輩、今後は指導者として教壇に立つこととにゃ…なったのですよ。今はその準備期間と言う事ですな」


 噛み噛みなラーナ兄はすこし恥ずかしそうにしつつ、教壇に立つからには、ネコ獣人訛りの解消の特訓中との事。だが、ネコ先生はどうか今のままでお願いします。


「かなり前から決まってはいたのだが、中々引き継ぎがスムーズにいかなくてな」


 魔力コントロール法の発案者であるラーナ兄は、以前から王立高等魔法学校から講師として来てほしいとスカウトを受けていた。王宮魔法騎士団での指導の評判が学校側にも伝わっており、後進の育成の為に尽力をお願いしたいとの事だった。だが、騎士団上層部からなかなか手放してはもらえず、伸びに伸びていたようだ。


 騎士団上層部も今後の事を考え、有能な学生が育ち、その彼らが魔法騎士団に入ってもらった方がいいと言う考えになり、今回晴れて王立高等魔法学校の講師となる事が決まったという訳だ。


 そこで、彼女らの実習も兼ねての監視役として今回参加する運びとなったようだ。


 それにしても、その監視役として参加の長靴を履いた騎士ラーナ兄。かっこいいです。



 ◇◆◇



 狩人だったアリシアは、神殿での転職で、その上位職である聖射手ワルキューレになっていた。


 木から木を跳び渡り、駆け回る、その超人級の動きは以前にましてキレキレです。後を追おうとしたけど、すぐに諦めました。いや~速いのなんのって。


 そんなアリシア、勝手知ったる魔の森を一人走り回り、散々、魔物を狩った事で苛立ちも収まったのか、スッキリとした顔で帰ってきました。


 悟りを開いたような、そのスッキリ顔、かなり怖いんですが。


(僕は悪くない!)


 の、はずは、ないよ、ね~。


 ハイ、その悟り顔のアリシアに僕は、土下座する勢いで全力で謝りましたとも。「ランディさんは悪くないです!僕のちょっとした悪ふざけでした。すいません><」

 もちろん心の中で『ランディさんに幸あれ』とご冥福を祈りましたとも。


 僕のそんな姿を見て、吹き出し笑うアリシア。お仕置きで頬っぺたをつねられました。そして今後の毎食後のおやつを要求してきたので、「いいけど、太るよ」って言ったら、またまたつねられました。


 お陰で森もほんの少し平和になったようです。


 そんなこんながありつつも、そして次の日の朝、ついに魔の森の中心にある精霊樹へと辿り着くためのクエストが開始されたのでした。


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