第77話 ごめんね…

 ターランドのギルマスであるオルブロは、バッファ達が王都に行っている間、魔の森攻略に参加するメンバーを選抜する為、資料とにらめっこしていた。魔の森の中心にある精霊樹まで到達できるであろう冒険者はそうはいない。


 自分が行く事が出来ればいいのだが、それが出来ない事がもどかしい。


 オルロープ商会との専属契約を結んでいた『黒竜の牙』と『コーラルリング』の二組のパーティー。この度、エラルドさんの配慮によって魔の森攻略に参加してもらえるようになったのは朗報だった。


 それ以外には銀級、鉄級、銅級のパーティーのなかで、真面目に実績を摘んできた数パーティーを選び声をかけたところ、数パーティーに参加してもらえる事となった。以前、レン達と一緒に開拓村を守ってくれた『青天の翼』もその一つだ。


 今回の魔の森攻略は、総勢50人ほどのレイドクエストとなる。


 参加パーティーが決まった事もあり、魔の森の現状調査の依頼も出しておいたのだが、その調査隊も帰ってきたようだ。


 そこで会議室にて参加メンバーを集めての調査報告会を行った。


 以前は、森の開かれた場所には、ゴブリンやオークなどの集落があったのだが、今は森の魔素が薄くなった事もあってか、彼らは魔素が充満する洞窟などに退避しているようだ。数は減ったが、隠れてしまっているのが難儀だ。魔物が生息している場所の何ヵ所かは特定しているとの事だ。


 森の中には相変わらず、濃い魔素だまりがあちこちに存在している。そこを浄化が出来れば、魔の森攻略の難易度が下がるだろうと言う報告だった。


「以前に比べ、外側から森の魔素は徐々には薄まってきています。弱い魔物の数は減ってはいるようですが、奥に行くにつれて、魔素量は濃い状態を維持しています」


「調査、ご苦労様。その調査書を元に今後の計画を立てておく。決行日が決まれば連絡する。それまで身体を休めておいてくれ」


 報告会を終了して、その後誰もいなくなり、ガランとした会議室で一人物思いにふけるオルブロ。

 帝国が動くまでに、何とか精霊樹を復活させたい。万が一、戦争が始まれば、冒険者達も傭兵として、国を守る戦いに参加しないといけないのだ。


 レンが居なくなったと聞いた時は、絶望で目の前が真っ黒になったが、彼がいないのは痛いが、聖女の出現は女神の思し召しかと胸を撫で下ろしたオルブロだった。

 そして王都のギルマス会議後に、レンの生還を知る事になる。



 ◇◇◇



 流石、グリフィンだ。おかげでターランドの街には意外に早く到着した。途中、翼竜や鳥系の魔物の襲撃を、グリフィンはサクッとかわして、何もなかったかのように普通に飛び続ける。


「うおぉーグリフィン最強!」とか一人騒いでいたら、ランディさんに苦笑された。その呆れ顔、どこかの誰かと同じですよ。そんなこんなで帰ってきました、ターラント。


「おお、久しぶりに帰ってきたぞー!」


 この街にそう長くはいなかったんだけど、『何故か帰ってきたー!』って気分になる。なにも知らない異世界から来た異邦人の僕に、優しくしてくれた街だからか、なんか愛着みたいなものが芽生えた感じがするのだ。


 そう言えば、最初に来た時、キョロキョロしての挙動不審だった僕を、流石に心配してかアリシアが手を引いてくれたんだっけ。


 手を引いてもらったって、小さい頃に親に連れてってもらったテーマパーク以来だったな。


 その後、色んな事が起ったから、すごく昔の事のように感じる。


 ターラントに到着するとすぐに冒険者ギルドへ向かった。一刻でも早く行かないとと焦る。やはり、リンゴの事が気がかりだからだ。


 怒ってるかな?ちゃんと食事が取れてるだろうか?元気にしてるだろうか?まさか、僕の事を忘れてないよね?とか色々と考えながら、冒険者ギルドに着くと、すぐにギルマスの執務室に案内された。すでにオッサン達は帰ってきているらしい。


 今日の昼頃には到着する事を伝えておいたので、オッサン一行もギルドで待っていてくれたようだ。


 オッサン一行は、アリシア、ガリオンさん、ネコ先生にクライド、ミーリア、アイリの三人に加え、何故かネコ先生のお兄さんまでいた。


 そして、執務室に一歩入るや否や、何か白い物体が勢いよく飛んできた。それが思いっきり僕の顔に貼り付いて来たので、お陰で前が見えなくなった。


 その貼り付いた物体は、今度は思い切り僕の頭をガジガジしだす。


「ぎゃー!痛い!痛い!やめてー!!ごめん、ごめんだから、お願いやめてーー!!!」


 思いっきりマジ噛みしてくるので、僕は思わず尻もちをついて、後ろに転倒してしまった。その物体、そう『リンゴ』はその後、僕の顔を両の前足でペチペチしだし、最後には、舐めまわしだした。


「ひぇー!くすぐったいって…」


 僕の顔の上で、散々暴れたリンゴを引きはがし持ち上げると。「ク~ン、ク~ン…」と泣いているリンゴ。僕はその真っ白なモフモフの身体を思いっきり抱きしめた。


「ううう、ごめんね。ごめんね…。突然居なくなって…」


 感極まって涙が出そうになった。僕の腕の中で安心したのか、ひとしきり暴れた事での疲れからか、リンゴは腕の中で眠ってしまったようだった。安心して眠る顔がとても愛しく思える


「ごめんね…もう二度と…寂しい思いはさせないから…」


 僕は眠ってしまったリンゴにそう呟いた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る