第76話 すれ違い

 オッサンに連絡を取ってもらった後に、かなり気になっていたある事を聞いてみた。


「そう言えば、勇者の皆さんはどうされたのですか?」


「ああ、勇者様方は、昨日、帝都に向かわれました」


「えええ、帝都に行っちゃったんですかぁ~」


 あのS級シーカーさんが帝国の公爵と一緒にいると聞いていたから、もしかしたら会えるのかな?なんて、ドキドキしてたんだけど、どうもすれ違いだったようだ。サインもらえなかったのが残念だ。


 ご隠居はオッサンから僕の事は信用していいと伝えられていたようで、詳しい事まで話してくれた。


「帝都に偵察に行かれた方から連絡がありまして。帝国城の地下で奇妙な場所を発見したので、皆さまに手伝ってほしいと言って来られたようです」


 それで、急遽出かけて行ったようだ。


 公爵は自分が城に居た時、危ないからと地下へは近づけさせてはもらえず、そこの事は詳しくは知らないらしい。自分が役に立たない事を嘆いていた。


「だが、こちらの揉め事とは関係ない彼らに、危険な場所に行かせられない。私も行く!と、そう言ったのだが……。」


 公爵は彼らに速攻『足手まとい』だと拒否られ、そう言われた事にかなり落ち込んでいた。


 それ、S級さん達、いくら何でも、ちょっと酷い><


「通信手段は確保していますので、何か分かれば連絡をくれると言ってました」


 そこで、連絡があったら、こちらにも知らせてほしい旨を伝えておいた。


「もしかしたら、僕でも何かお役に立てるかも知れません。勇者の方々から連絡がきましたら、僕にも教えてもらえないでしょうか?」


 もちろんだと、快く了承してくれた。


「ああ、そうだ、それとですね。彼らに是非伝えておいて欲しい事があるんですが、いいですか?」


「なんでしょうか?」


「はい、『カントリーロードは必要ですか?』そう伝えておいてください」


 そう言うと、僕はオルロープ館を後にした。


 ◇◇◇


 僕は温泉でまったりした次の日、ランディさんと二人でターランドへ向かった。


 オルロープ商会の宿の食事は上品でこの上なく至高だった。このソースは何なのか?と鑑定しまくってしまった。


 今度来る時は、もっとゆっくりと堪能したいと思うのだった。


 ランディさんのスキルは<伝達>と、もう一つは<俊足>だ。最初はそのスキルを使って、一人で各地を走り回っていたのだが、国中に需要が高まったことで、今は、この相棒兼乗り物を使っての移動だそうだ。


 その相棒と言うのは、『グリフィン』だった。グリフィンは鷲の頭と羽、身体は獅子の様な形態をしている。このグリフィンは獰猛なのだが、一旦主と認めた者には至恭至順。見るからにランディさんの事を大好きなようだ。


 このグリフィンは陸も走れるし空も飛べる。この万能なグリフィンの背中に乗っての旅なのだが、速い上、乗り心地は悪くはないんだけど…。


 だって、なんか鳥だかライオンだか分からないような生き物が空を飛んでるんだよ。流石に初めて乗る身としては怖いよね。


 このグリフィンは最大で二人乗りだそうで大勢での旅には向いてない。それに主とはなかなか認めてはもらえないようで、契約を結んでる冒険者も少ないそうだ。


 ランディさんとはターラントで少し話しただけなので、会話も続かない。そう言えば思い出した。ランディさんにもお土産を持ってきてたんだ。


 そこでランディさんに自分の国へ帰っていた事を告げ、お土産を持ってきたのでと彼にそのブツを渡したのだった。


 それを見るやランディさんは大声で叫ぶ。ランディさんってこんなキャラだったっけ?


 そのお土産というのは、アリシアの写真をL判とA4の印紙にプリンターで印刷しラミネートシートで保護した物、それとアリシアの写真を入れたロケットだ。


 その写真を見て感激したランディさんは、

「大事にするよ。本当にありがとう」

 と、少し涙ぐんでた。そんなにアリシアの事が好きなんだね。そんなに喜んでもらえるんなら、持って来て良かったと思った。


「そう言えば、君の世界には魔素や精霊源素とかがないんだよね。こんなに高度な事が出来るのに魔法とかは使えないの?」


「はい、そうですね。こちらの世界と繋がったダンジョンでは魔法とか使える人も出ましたけど、本来は無かったです。なので、科学という分野が発達したんです」


「科学か、色んな世界があるんだな。その科学ってすごいんだね。だったら君の世界は幸せなのかい?」


 そう言われて僕はハッとした。科学は人を幸せにしたのだろうか?豊かさは幸せだと思う。こちらの世界に来てみて、幸せはそれだけじゃないとも思う。だけど、知ってしまった豊かさはもう捨てられないのだ。その豊かさを失いたくなくって進む未来が怖いとも思うのだ。


「そうだ、ランディさん、そのロケットですけど、アリシアの写真を人に見せて、『―――が終わったら結婚するんだ』なーんてこと言わないようにしてくださいね」


「え、なんで?」


「いや、何となく…」


 そう、この後、ランディに恐ろしい出来事が待ち受けている事を彼は知る由もなかった。

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