第74話 争奪戦勃発
オルロープのご隠居の館は、どこのお貴族様か!ってほどの広大な敷地の中に豪華な建物が立っていた。
門番にラティア辺境伯の奥方、テレーシアさんからの使者である事を伝え、自分の冒険者カードを見せると、その門番の一人は脱兎のごとく建物の方向に走り去った。
そしてすぐに、銀級冒険者と言う肩書が功を奏してか、かなり豪華な部屋に案内されたのだった。あまりに豪華すぎる客室だと、なんだか落ち着かない貧乏性です。
するとだ、そこにノックの音がして、メイドさんが飲み物とお菓子をカートに乗せて持って来てくれたのだ。
うぉぉぉぉ!メイドさんだ!黒のドレスにレースのエプロン、髪にもレースのヘッドドレスをつけての本物のメイドさんだ。
秋葉原のメイド喫茶に行きたかったけど、勇気がなかった僕は結局行けなかったヘタレだけど、今ここに、本物のメイドさんがいるのだ。感激だ。そんな僕の心の動揺を知ってか知らずか、無表情な顔で、卒なく給仕をしてくれた後、一礼して、そそくさと部屋から出て行ってしまった。
「おかえりなさいませ、ご主人様」とか何とかは、当たり前だが言ってはくれないが、大丈夫だ!僕の頭の中ではちゃんと、やさしく笑顔で言ってくれているのだ。
そうこう妄想している内に、上品そうな老人が、その両側に二人の男を引き連れて入って来た。その後ろには初老の執事が控えている。
(お、やはり、助さん、格さんのお供付きだ!)
「よく来られました。銀級冒険者殿。本日はテレーシア様についてだそうですが、どのような御用でございますか?」
その物腰の柔かい上品そうな老人は、僕にお茶を勧めると早速要件を聞いてきたのだ。
そこで僕は一連の出来事を伝えると、ご隠居はすぐに執事を近くに呼び、彼に指示を出す。
「かしこまりました」と執事は一礼し部屋から出て行った。
「では、あなたが辺境伯を御救いくださったのですね。テレーシア様は我が友の大事なご令孫。なんとお礼を申したらよいのか」
すると、ご隠居の言葉に続けて、一緒に入って来た二人の男性の内の一人が僕に話しかけてきた。
「義兄を救って頂きありがとうございました」
男はそう言うと、僕に軽く会釈する。その姿はとても優雅だった。
「義兄?」
「自己紹介が遅れました。私はラティア辺境伯夫人であるテレーシアの実弟で、ルキウスといい……」
『バン!!』
その時、ノックなしに部屋のドアが勢いよく開き、女性が突然入って来た。そして、
「旦那様~、どうしましょう!わたくし、足を挫いてしまいましたの」
メイドに支えられての足を引きずりながら入って来たその美しい妙齢の女性は、甘ったるい声でそう言うと、ソファーに座っていたご隠居様の膝に腰掛け、甘えるように抱き着いてきた。
「これこれ、今は来客中だ。公爵もいるんだよ、少しは遠慮しなさい」
そう言いつつ、ご隠居様はその女性を優しく抱き寄せる。
その女性を見て、あれ?と思う。その服装、それは先ほどランディさんに寄り添ってた人だ。彼女が入って来たドアの方を見ると、ランディさんが困った顔でこちらを伺っていた。僕と目が合うと、相当驚いた顔をしている。
「だって、私のこの足を見て頂戴!」
そう言うと、履いていたシルクのストッキングの片方を脱いで、綺麗な長い足を臆面もなく伸ばして見せてくる。
「よしよし、ああ、お前のその綺麗な足が腫れてるではないか!これは大変だ。治療師をここに!」
その光景を呆気にとられ見ていると、それに気付いたご隠居様は僕にその女性を紹介してきた。この若く魅力的な女性は、なんとご隠居様の奥様だというではないか。
うわぁ~、何歳、年が離れてるんだよー!エラルドさんより若そうだけど、彼のおばあちゃんになるんだ。
「こほ、失礼しました。どうも自由奔放なやつでして、気を悪くさせてしまったのなら申し訳ない」
彼女は有名な女優で、劇場を出て馬車に乗ろうとした所をファンに取り囲まれてしまった。困ってた所をランディさんに助けられたのだそうだ。その時に足をひねってしまい、それでランディさんにしがみ付いていたらしい。僕はそこを目撃してしまったわけだ。
(ランディさん、浮気じゃなかったのね。勘違いしてすいません。)
僕は心の中でそう謝ったのだった。
そうこうしている内に、ラティア辺境伯一行が館へと到着したようだ。辺境伯はまだぐったりしていて、すぐに準備されていた部屋に運ばれていった。
そして、姉弟の感動的な再会。生きてて良かったと泣きじゃくる姉を優しく抱きしめる弟。一人っ子の僕は少し羨ましいと思う。
感動の再会、その流れでまったりと事が進むのかと思いきや、姉のテレーシアの目が僕に止まる。だが、その目が怖い!
その後に周りを巻き込んでの大騒動になってしまったのだ。
と言うのも、怪我をした旦那と一緒にエリクサーを被った奥方は、しばらくして自分の身に起きた異変に気付いたのだ。
―――なんかいつもより身体が軽い。あら、お肌にも張りがあるわ。もしかしてわたくし少し若返ってるんじゃないかしら?―――
「ねえ、あれはなんでしたの!」
そう言いながら、僕に詰め寄ってくるのだ。
それを小耳に挟んだ、ご隠居の奥方をも巻き込んでの、僕の争奪戦が始まった。それだけでなく、商売になると判断した目ざとい事この上ないご隠居までもが参戦してきたからもう大変だ。
あれは知り合いのエルフに貰ったもので、最後のひとつだったと必死でごまかしての収束をはかるが、ウソが思いっきり顔に出る僕の話を信じてもらえたかどうか心配な所ではある。あまり人前ではこのスキルは使わないでおこうと固く心にきめたのだった。
◇◇◇
「ところで、あなたもゆっくりしていけるのでしょうか?良かったらこちらにしばらくご滞在なされては?」
思惑はどうあれ、そうは言われたのだが、僕はなるべく早くにオッサンと合流したい。
「いえ、少し急ぎの用がありまして。そこで、お聞きしたいのですが……。」
僕はご隠居にバッファ師匠に連絡を取れないかと聞いてみた。すると丁度この後に連絡を入れようとした所だったとの事だ。
よかった!これで何とか前に進めそうだ。
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