第72話 会議は踊る

 ここは王都の冒険者ギルドの会議室。その部屋の中には国中の冒険者ギルドや商業ギルド、薬師ギルドなどのギルドマスター達が一堂に会していた。


 また、参加出来ない遠距離のギルドマスターは、通信のオーブでの参加である。所謂、リモート会議だ。


 その会議を、この度グランドマスターに任命された、王都の冒険者ギルドマスターが仕切っていた。しかし、各ギルドの思惑や利権が錯綜し、なかなか話は進まない。


 まぁ、それは仕方がない。こんな状況が滅多にあるわけじゃないのだ。


 王城の宰相からの近況の連絡があった。最近、帝国が大人しいようだ。すぐにでも攻めてきそうな勢いだったのだが、それが諜報員からの報告では、戦争に反対している勢力が皇帝側の早急な行動を何とか押さえているとの事だ。


 だが、その状況が長く続くとの確証はない。準備だけはしておいてくれとの事だった。そこで各ギルドマスター間の連携をとっておこうと招集したわけだ。


 そんなギルマス会議に何故かバッファの姿がある。


「ところでだ、なんでワシがここに居なければならんのじゃ?ワシは、たまに息抜きで冒険者をしている只の鍛冶職人なんじゃがな。

 ところで、抜けてもいいかな?」


 そう言ってはみても、誰もその言葉に賛同してくれる人はいない。


「無理じゃな」


 がっしりとした体格の厳ついドワーフである鍛冶ギルドのマスターが、間髪を入れず応える。


「たく、国の問題に、一冒険者を巻き込むな!」


「諦めろ、すでにお前は中心人物だ」


 そう言うのは、ターラントのギルマスであるオルブロだ。そんな彼をキッと睨みつけるバッファ。


「お前が巻き込んだんじゃろが!」


 そんなやり取りをしているのを、まったく気にせずにグランドマスターは話を続ける。


「うちの仕事は、これが傭兵として参加できる冒険者のリストだ。これを基に鍛冶ギルドは武器防具を出来るだけ用意しておいてくれ、薬師ギルドは薬やポーション類も大量にいるだろう、それと、商業ギルドだが、物資にかなりの金がかかる、内密に資金を提供してくれる商会を見つけておいてくれ、他各ギルドマスター諸君も、己が出来うる準備を怠らないよう頼む、以上だ」


 グランドマスターはそこまで言うと一息つく。そして、


「では、この辺で本日の会議は終了するとしよう。この後は宴会を用意している、参加出来る者は楽しんでくれ」


 なかなか進まない議論を長くしても無駄だと判断したグランドマスターは、とりあえずはギルマスたちに周知徹底させたと言う事で本日の会議は終了させた。

 この場にいる者たちは、受付係に案内され部屋からぞろぞろと出て行ったが、だが、その場にオルブロとバッファは残っていた。


 それは、もう一つ頭の痛い問題が残っていたからだ。


 ◇◇◇


 この会議が始まる前、ワシの下にラーナ先生がすごい勢いで飛び込んできた。そして、見つけるや否や叫ぶ。


『レン君が、消えたのにゃ!』


 それを聞いてその意味がすぐには解らなかったが、なんとかラーナ先生を落ち着かせ、詳しく事情を聞いた。それを理解したとたんワシは卒倒しそうになった。


 しかし、話はそこまでに留まらない。その後にもっと衝撃を受けることとなった。


 なんと、新しい聖女様がこの地に誕生したというのだ。


 聖女様が誕生した事は喜ばしいのだが、いかん、この事が周りにバレると、帝国だけでなくラウド聖教国とも一悶着あるかもしれん。いや確実にある!


 勘弁してくれ!この事はくれぐれも内密にしなければならない。

 あああ、これが『頭痛が痛い』と言う現象か。


『レンの野郎、なんちゅー置き土産を残して、どこに雲がくれしたんじゃー!』


 元居た世界に帰ってしまったのだろうか?あいつの出現は、聖女様を顕現させるための布石だったのかもしれない。それだったとしたら感謝しないといけない案件なのだろうが……。


 しかしだ、やはりあいつがこの世界からいなくなったと言う事は、それはそれで寂しいと思うのだった。



 ◇◇◇



 アリシアの婚約者であるランディは、今日も各街をめぐり走り回っていた。彼のスキル<俊足>と<伝達>は、この世界で稀有なユニークスキルである。


 この世界では通信インフラの整備はなされていない。それは超科学(超能力)であろう魔法や魔道具が進化した事で、自然、形式、社会、人文等の地球のような各種科学の探求や発展へと向かわなかった事が原因だろう事が考えられる。


 だからと言って、通信事態それが無いわけじゃない。


 一定の公共の場所、王城や各種ギルドには<通信のオーブ>が設置されているのだ。


 稀に遺跡やダンジョンから見つかる<付与のオーブ>というものがある。通信のオーブとは、そこにスキル<伝達>を付与したものだ。しかしだ、その<付与のオーブ>は付与したものが永久的に使えるというものでなく、定期的にそこに<スキル>や<魔法>を付与し直してやらねばならない。


 その為<通信のオーブ>に、スキル<伝達>の所持者であるランディが、定期的に各所を回っての補充に走り回っていると言うわけだ。


 オルロープ商会の創業者、究極の財産がある。金で手に入らないものはない。なので、もちろん<通信のオーブ>も取得済みであった。そのオーブの利用には多くの魔力も必要になってくるので、そのオーブを利用する為に専属の魔法使いを雇ってもいたりするのだ。


「オルローブのご隠居さんの所が終わったら、急いでターラントに帰ろう。そろそろ、アリシアも王都から帰ってくる頃だからな」


「精霊樹を復活させたら、アリシアと結婚するんだ!」


 そう思うとニヤニヤが止まらない。一段と走る足に力がこもると言うものだ。だが、彼はそこでフラグを立てた事にまったく気付いてはいなかった。


 

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