第71話 持ち塩も必要です
焼け跡を調べていた騎士達は夫人の悲鳴を聞き、何が起こったかの状況を咄嗟に判断出来ずに呆然と固まっていた。
襲われた男性は、翼竜の爪に刳られた傷口からの血は止まらず、その為にどんどん顔色が酷くなって行く。落下したことで内臓も大きく損傷しているようだ。骨も折れているだろう。
このままでは命の火が消えるのも時間の問題だった。
僕は急いでエリクサーを精製し、混乱して離れようとしないご夫人ごとぶっかけた。すると、エリクサーに包まれた身体が発光し、傷口が消えてゆくではないか。そして、今までの虫の息が嘘のように、呼吸も安定しだしたようだ。
よかった、安堵しほっとしていると、そこでようやく我に返った騎士たちがドカドカとやって来て、一斉に僕に飛び掛かってきた。
「うわぁー!ちょっ、ちょ~!何するの!?」
首を切られた翼竜はまだ消えずにそこに横たわっているじゃないか。それなのに何故か僕を拘束しようとする一団。
「犯人はあいつだ、あいつ!」
翼竜を指さして、そう釈明しようが、乱暴に押さえつけられる僕。助けたはずが何故かこれだよ。やっぱり、厄除け、悪霊退散の『お守り』と一緒に、『持ち塩』も手に入れておこうと強く心に誓うのだった。
◇◇◇
騎士達一同が整列し、全員が頭を垂れている。それを背景に、その中で執事風の男が土下座する勢いで謝って来た。
「わたくしどもの紹介が遅くなりました。我々はアドルシュテイン帝国のラティア領を統治しておられます辺境伯様の家臣でございます。私は執事の職を仰せ付けられておりますセバスと申します」
その執事は深々とお辞儀をする。
「この度は大変申し訳ございませんでした。我が主の命の恩人に、勘違いとは言え、こんな無礼を働きました事、弁解の余地もございません」
如何なる処罰も受ける覚悟だという。自分の命で償えるなら、とまで言われると、(いやいや、それはちょっと重たいです)こちらもそこまでしてもらいたく無いわけで。
「お気になさらずに、間違いは誰にもある事ですし…それより…」
僕はこの状況から逃げたくて、話題を変えようとその『我が主さん』に目を向ける。
まだラティア辺境伯は目を覚ましていない。かなりの衝撃だっただろうから、しばらくはショックで意識が戻らないのも仕方がないのだが、呼吸も安定しているし、詳細鑑定で『そこそこ健康だが貧血』と出ている。
命には別状ないが相当量の血を流しているため静養は必要だろう事を伝えた。
「まだ意識が戻らないようですが、どこか落ち付いて看護出来る所に移動しては?この近くでそういう所がありますか?」
「辺境伯領まではかなり遠いです。ここから一番近い街は、モントヴル王国のフォンテブルクですが、私共は帝国の人間でございますので…今の状況を考えると入国は難しいかと」
どうしたものかと思案する執事。それを聞いていたご夫人が声をかけてきた。
「セバス、フォンテブルクのはずれに、オルロープ商会のご隠居様の別邸があると聞いていますが」
「あ、それがございましたね。では誰かに使いに行ってもらい、ご隠居様にご膳立をお願いするとしましょう」
僕はオルロープ商会と聞いてエラルドさんを思い出した。
「あの~オルロープ商会って、エラルドさんのとこですか?」
「そうでございますが、もしかしてエラルド殿をご存じなのですか?」
「はい、僕はモントヴル王国ターランド所属の冒険者なのですが、何度か旅をご一緒した事があります。良かったら僕が使いを引き受けますが」
オルロープ商会とは渡りに船だ。ご隠居様って方に頼んでオッサンに連絡を取ってもらおうと考えた僕は、お使いの役を買って出る事にした。
「おお、それはそれは、厚かましくもお願いしてよいのでしょうか?」
冒険者だと冒険者カードがあれば出入国は割と簡単なようだ。
「はい、僕の方もそちらに用事がありましたので」
オルロープ商会の創業者とは、ラティア辺境伯夫人の祖父と親友だったとの事。ラティア辺境伯夫人であるテレーシア様の名を出し、事情を伝えれば骨を折ってくれるはずとのことだ。
そこで僕はオルロープ商会別邸の正確な位置を聞き、彼らにはゆっくりと来て貰う事を伝え、身体強化をして勢いよく走り出した。
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