第70話 厄除けは必要ですか?

「やっぱり、今回もですか~」


 相も変わらず、毎回、毎回、同じなんて飽きちゃうから、もう少し趣向を変えてくれてもいいように思うんだけど。


 そうっすねー、今回は、ボス抜きなんてどうですか?とかないんですかね?転移の度にダンジョンボスと戦わされるの面倒なんで。


 まぁ、今回のボスは単独討伐レベル30の、有るのか無いのか分からない、つぶらな瞳がキュートな太った土竜さんでしたので、そう苦労はしなかったんですが。それに『力の指輪』はとてもありがたかったです。


 ただ、少し違う所もありました。転移ゲートであろう地球に通じていた穴は、どうも使用不能になってた。すでに閉じられちゃってるではないですか。


 あちゃー><;


「このダンジョンからの帰還は無理になりましたか」


 あっちで何かあったのでしょうか?最初の思惑と違い、日本チームのみでの討伐と言う訳にはいかなくなったので。何か予想外の出来事があったかもです。


「神田さんに大甘な大熊さんが、勝手にコアを破壊するとは思えないしね」


 溜息付きつつ愚痴っていた大熊さんだけど、なんだかんだと神田さんの頼みを全面的にきかされちゃってたわけだし。少し、気の毒ではありましたけど。


「大熊さん、強く生きてください(;´人`)

 晴明神社の生き霊退散の厄除けを今度贈りますね。」


 ◇◇◇


 荒れた土地が広がる、その一箇所を呆然と見つめている一団がいた。


 彼らが目指していたそこにあったはずの館が無くなっていたのだ。厳密には無残な焼け落ちた館の残骸が残されてはいた。


 豪華な馬車の前には、美しいドレスを着た女性と、同じく高価な装飾をあしらった貴族風の服を着た男性がいる。そして、騎士風の者達は、焼け跡を色々と調べているようだ。女性はショックで立っていられないのだろう?貴族風の男性に支えられていた。


 その女性はクレマント公爵の実の姉であるテレーシア、そして男性はその夫であるラティア辺境伯だ。


「これは、どうしたと言うのです!ルキウスは、私のかわいいルキウスはどうなったのですか?」


 テレーシアは悲壮感漂う声で夫に問う。その問いにラティア辺境伯は作業中の騎士達に何かを聞いているようだ。


「落ち着け、この場所から誰の遺体も見つかっていないようだ。彼らは皆無事だと信じようではないか」


「やはりこれはハウザーの仕業なのですか?きっとあいつがルキウスを……」


 テレーシアの言葉をラティア辺境伯は遮る。


「やめなさい、根も葉もない事を憶測で言うもんじゃない。」


「分かってますわ。だけど、あなた、そうとしか考えられないわ」


 テレーシアはそう言うと、とうとう泣き崩れてしまった。


 ◇◇◇


 蓮はダンジョンから出ると、すぐに異世界GPSを起動した。


 ここが帝国領ではあるが、すぐ近くにモントヴル王国の街がある事を聞いていたので、そこに向かう事にしたのだ。


 すると、この近くに複数の人の気配がする。その一団に見つからないように隠密スキルで、やり過ごそうかと思ったのだが、その一団の上空に何やら不穏な影を見つけた。


「一難去ってまた一難ですか。僕も厄除け持っといた方がいいかも。クッソー!」


 蓮は自分の巻き込まれ体質に悪態を付きながら、その一団のいる方向に走りだした。


 上空にいるのは翼竜だ、翼竜がその一団を狙っているのだが、彼らは他の事に気を取られいるのか翼竜には気付いていないようだ。


 蓮は必死で走るが、やばい竜のスピードには敵わない。蓮が到着する前にその翼竜はドレスを着た女性に向かい急降下した。その時になってようやく気付いたのか隣の男性が、咄嗟に女性を押しのけた事で、その翼竜の爪が男性を鷲掴みにする。


 男性を掴んだ状態で翼竜は上空に逃げようとするのを見た蓮は、収納から撒菱まきびしを取り出し、翼竜に向かって思いっきり投げつけた。


 相変わらす、精度は優秀みたいだ。その撒菱まきびしは見事に翼竜へと命中した事で、高く飛び上がらないままに地面へと落下した。そこに蓮は飛び込んでの孤高の剣で翼竜の首を撥ねての留めを刺した。


 しかし、捕まれた男性は、翼竜の爪に抉られた肢体に、落下した衝撃で虫の息のようなのだ。その男性に女性は縋りつく。


「あなた!あなた!しっかりして!!ああああ、お願いです、誰かこの人を助けて!!」


 悲痛な声が荒野に響き渡った。

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