第59話 国民食だぜ

 クライド達三人は、普段はミーリアが荷物持ちをしているようだ。小さい身体だけどこれしか出来ないからと、自分から志願してのポーター役だ。ミーリアはカバンから干し肉を取り出し、皆に配ろうとするのを僕は止めた。


 ちゃんと収納に前もって調理しておいた料理を入れておいたのだ。僕はそこから鍋を取り出した。


 日本から持ってきたリュックの底には、なんとドライイーストが入っていたのだ。そう言えば野営の時にメスティンでパンを焼こうと思って入れてた事を忘れてた。


 最初はパンを焼くつもりだったんだけど、王都の市場でとっても良いものを見つけてしまった。市場には色とりどりのすごい種類の香辛料が売られているのだ。だけど香辛料はとっても高価で、庶民にはなかなか手がでないしろものだ。


(ふふふ、だけど僕はお金持ちなのだよ!)


 食に糸目を付けるものか!と、大量に買っちゃった。


 クミン、コリアンダー、シナモン、ナツメグ、ターメリック、カルダモン、、、もどき。そして僕にはポーションやエリクサー等を一瞬で作れるスキルがあるのだ。を作るなんて朝飯前……かもだ。色々と配合など試行錯誤し出来上がったものが……。


 そして、今、この鍋の中にあるのだ。。


 カレーだよ!カレー!!このスパイシーな香ばしい匂い!嬉しさのあまり涙がでた。決して胡椒のせいじゃない。

 そして、カレーにはナンでしょ。お米持ってないから、ドライイーストはナンを焼くことに使ったわけだ。


 じゃーん!これが日本人の国民食 (本当はインドだけど)カレー&ナンだ!

 具材は鶏肉と野菜たっぷりチキンカレーだよ。



 あまり辛くない方がいいかと果汁やはちみつを入れて甘口にはしたんだが、

「皆の口に合ったらいいんだけど…」と言いつつ振舞ったわけだ。

 色が色だ。茶色くて見た目ちょっとアレなのだ。最初は皆、躊躇したみたいだけど、言い知れぬ食欲をそそる匂いに負けたようで、まずクライドが勇気を見せ、恐る恐る口をつけた。そして目を見開いた後、夢中で食べだした。それを見た他の皆も食べ始める。そう、それはもう夢中にだ!

 ネコ先生はたまにヒーヒー言ってるけど、ネコ先生専用を別に作っておいたから大丈夫だからね。

(もちろん地球のネコとは身体の構造が違うのだ←ここ大事)


 カレーのスパイスには抗炎症物質、抗酸化物質が多く含まれていて、とても健康に良いのだ。血管に良く、炎症が軽減される。


 うん!これでゆっくりと身体を休め、明日のボス戦に備えるんだ!


◇◇◇


 寝袋を出して、寝る前に僕はリンゴに食事をあげてた。リンゴの食事は僕が作ったポーションだ。このポーションを摂取する事でリンゴのレベルが少しづつ上がって行ってるようだ。


 そんな所に、眠れなかったのだろうか?ミーリアがやってきた。


「レンさん、ちょっといいですか?」

「どうしたんですか?眠れない?」

「はい、職業の事考えてたら、目が覚めちゃった……」


 ミーリアは、ここのダンジョンで職業を授かれるかもと思うと、嬉しい反面、やっぱり無理だと言われるかも、そんな不安に苛まれているようだ。頭の中がぐるぐるになってて、眠れないのだそうだ。


「大丈夫だよ。安心して。リンゴが太鼓判を押してくれてるから」


――――――


 さっき、ボスを倒して何を望むかを、食事を取っている時に皆と話しあった。もちろん皆の望みは一つだったが、その時にリンゴから伝えられたメリットとデメリットを説明して了解を得ていた。


 ここで初期職業を授かれることは出来る。しかし、リンゴのような眷属から受ける恩恵とは違い、ここで職業を授かれば本来持っている上位職業の資格は消滅してしまう。リンゴがまだまだレベルが低く、職業を与えるまでには成長していないのがとても残念だ。


 その時、ミーリアは涙ながらに僕に向かってはっきりと答えたんだ。

「上位職業なんていらない。早くお兄ちゃんの役に立てるようになりたい!」

 そう言うミーリアはとても健気だ。


 それと、僕の中で一番悩んだ問題。それを言うのを躊躇ったが、これは絶対に知っておいて貰わなければいけない事だと、伝える事にした。


「実は、ミーリアちゃんは聖女のタマゴなんだよ」


 そして、もしかしたら教会はその事をうすうす知っていたかもしれない事を伝えた。何故ならミーリアが<プリースト>である事を教会が分からなかったはずがないからだ。


 教会は今までもこうやって信仰を笠に人々を騙し、誘拐さながらの事を、ある意味合法的にしていたかもしれない。そして聖女の力を持つかも知れない子供を手中にしていたのだろうか?


「それに、初期職業をここで貰うと、上級職が消滅し、聖女へ開花する事はなくなるかもしれない――。」


 聖女になれば、大きな力と最高の名誉と地位が与えられる。だがしかし、それは籠の鳥になる事でもあるのだ。このままだと教会からずっと狙われる可能性もある。だが、その資格が失われたとなると、教会からのちょっかいはなくなるだろうか?


 そんな事をなんとか説明すると、クライドは烈火のごとく怒りだした。


「あいつら、許さん!ちきしょう!!ミーリアは今まで、今までどんな思いをしてきたと思うんだ!」

 教会に今からでも殴りこみに行こうとする勢いのクライドを止めて。


「待て待て、これに確証はないからね。証拠や根拠エビデンスが証明できない以上、今は大人しくしてるのが得策だと思う」


「くー!悔しいよ。なんでこんな目に合わないといけないんだ。俺たちが平民だからか!貧しいやつには何してもいいのかよ!」

 

 許せないとクライドは怒りで顔を真っ赤にしながら、目にはうっすらと悔し涙が光る。


「まぁちょっと待て、僕にいい考えがあるんだ。ホント悔しいのは分かるけど、その怒り、ちょっと押さえておいてくれないか?」


 今までミーリアは、かなりの嫌な目に合わされていたのだろう。厳しい言葉を浴びせられ、石を投げつけられ、仲間外れにされ続けた。僕には痛いほど分かるんだ。

 それでも、兄やアイリからの変わらぬ愛情は彼女を明るく真っすぐに成長させてくれたのだろう。


 絶対に、この報いは受けさせてやる。これでも僕は女神の代理人なんだ。


 僕は精霊樹を復活できれば、この問題は解決できるかもしれないと思って彼を諫めたが、他人事ではあったが、実は僕の中でも怒りが沸々と湧き上がってくる。

(教会の野郎、覚えていろよ。)


――――――


 あんな事を知っても、ミーリアはとても健気だ。そこで僕はリンゴをミーリアに預けると、彼女は嬉しそうにリンゴを抱きしめ撫でる。


「リンゴちゃん、ありがとうね」


 く~んと幸せそうに鳴くリンゴ。もう、めちゃくちゃ、かわいい。リンゴをしばらく撫でた事で安心したのか、ミーリアは自分の寝袋に戻って行った。何故か、ゴゴゴゴーーと後ろからすごい殺気を感じたのは気のせいだと思いたい。


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