第60話 望みのダンジョンボス戦

 充分に休憩を取った僕たちは、ボスに挑戦すべく最後の祭壇に貢物を納める事にした。そして指定された物全てを祭壇に納めると、しばらくして軽く振動が起こり、ボス部屋の壁に並んてあった松明の炎が順番に灯ってゆく。


 全てが灯ると、その炎は部屋の中央に集まりだし、一箇所に合わさると、そこに人型の炎のシルエットが浮かび上がった。


 そして、ここのダンジョンボスは―――。


『炎魔獣イフリート』


 全身に真っ赤な炎を纏った三メートルほどの巨大な魔獣。頭には大きく立派な二本の獣の角を生やし、両手の指は鋭い爪を持つ。強力な炎の魔法を自在に操り、鋭い爪で切り裂く炎魔獣イフリートが現れたのだ。

 耳をつんざくような強烈な雄たけびを上げ、激しい炎を巻き上げると、周りを灼熱の地獄に変えてしまった。


 ◇◇◇


 ボス戦に挑む前、皆と打合せはしていたのだ。


 ここのボスのイフリートはかなりの強敵だ。炎を軽減する衣を着ていないと丸焼きにされそうなほどの熱さに耐えられないだろう。また適正レベルは50とあったので、僕とネコ先生での二人で討伐する事にしようと提案してみた。本当はクライドにも参戦してもらいたかったんだけど、言いたかないが、少女二人がかなりの足手まといだ。それだけでなく、リンゴもいる。産まれたばかりのリンゴにはまだまだ戦闘は無理なので、クライドにはこの子たちを守ってもらいたかったのだ。


 するとネコ先生からの提案で、アイリの氷魔法は有効であり、後ろから攻撃出来るから参戦させたいと言う。


 僕とクライドがダンジョンのドロップ品を集めている間。ネコ先生は二人に魔法の基礎を叩き込んでいたようだ。飲み込みが早い生徒たちだとネコ先生は思いっきり誉めていた。誉めて伸ばすタイプなのだろう。そのかいあって厳しい特訓でも二人は楽しそうに魔法での戦い方を学んでいたようだ。


「が、頑張りますから……」と、大きく頭を下げるアイリ。


 クライドも絶対に皆を守るから、参戦させて欲しいと言う。それを了承した僕は収納に入れていたローブをミーリアにリンゴを抱いた状態で着るようにと渡した。そして、オッサンから預かっていた大盾をクライドに渡し、これで皆を絶対に守ってほしいと告げた。


 勝手に使ってすいません。僕は心の中で一応オッサンに謝っておいた。


 それと、もちろんミーリアにも戦闘に参戦した事にするため、これで絶対に一撃を入れておくようにと告げて僕の撒菱まきびしをいくつか渡しておくことも忘れない。


 ◇◇◇


 そして、五人のイフリート戦は開始されたのだった。


 最初にリンゴがかわいいポーズで皆のテンションを上げてくれた。ミーリアがすかさず撒菱まきびしを投げつけるとリンゴを抱えて急いで後ろに下がる。その姿を捕らえたイフリートは二人にロックオンしたようだ。それを察知したクライドが挑発と威嚇を放ち、敵の気を自分に惹きつけ、一瞬足止めをしてくれた。


 そこで、大盾を構えたクライドの後ろに隠れていたアイリが詠唱を始め、


「氷の精霊よ、凍てつく裁きの牙よ、我が力となり敵を撃て、アイスランス!」


 飛躍的に成長したアイリの氷魔法は的確に相手に命中しイフリートにそこそこのダメージを与えたようだ。


 それ以上にネコ先生の水魔法は強力だ。


「優しき水の精霊よ、撒きあがる霧となり大気を冷やせ、ウォーターミスト!」


 邪魔な炎を一瞬にして消し去ってくれる。その上、暑さでバテそうになっている皆の身体を冷やした上、回復させてくれた。


 また、クライドの防御も彼が宣言した通りに完璧だった。四方八方に飛ばす炎の攻撃を大盾でかばってくれたお陰で、僕はどんどん前へと攻めに行くことが可能になった。


「大丈夫だ!俺に任せろ、どんな攻撃が来ても皆を守る!!」


 そして、僕は――――――、

 氷と風、二つの属性を付与した剣は、二つの波長が響き合い共鳴し、より一層増幅させる。その相乗効果により僕が振るう剣技は、激しく吹き荒れる吹雪となり、イフリートの防御の炎壁をたやすく切り裂く。

 無防備になったイフリートに、アリシアのようなパルクール技でその巨大な身体に飛び付き首を撥ねに行くが、それを防ごうとした左手を、氷を付与した剣は難無く切り落とした。切り落とした腕から流れる体液はまるでマグマのようで、思わず飛び下がり、後退して剣を構えようとした所、さきほどミーリアが投げた撒菱まきびしを踏んでしまい。よろけて転んでしまった。


「しまった!やばい、足をひねってしまった」

 怒ったイフリートの炎魔法が今にも飛んできそうだ。慌てて回復しようと焦った所に、ネコ先生のヒールが飛んできて、回復してくれた。ネコ先生は、ヒールを使えるようになってたんだ。急いで立ち上がり剣を構えて防御の体制を整える。


 僕が切った腕の痛みも合わさってか、暴れまわりながら僕に襲い掛かってきたイフリートに、ネコ先生とアイリの連携した氷魔法で全身を凍らせて静止させたが、すぐに炎を纏い溶かしてしまう。


「(あぶなかった!)ありがとう、先生!」


 だけど、一瞬でもいい。そうだ!止めてくれれば何とかなる。急いでネコ先生に近づき、耳打ちをした。先生は頷くとアイリに合図をおくる。


「氷の精霊よ、凍てつく氷の結晶で覆いつくせ!氷結!」


 二人の声が合わさり、同時に放たれる氷の魔法は、アイリはイフリートの右手をネコ先生は足元を同時に凍らせ動けなくする。そこに僕は飛び掛かり、氷と浄化を付与した剣でイフリートの額の魔石を真っ二つにした。


 イフリートの割れた額から黒い靄が立ち上ると、巨大な身体は崩れ落ち消滅した。


「おおおお!よーーし!やったーーー!!!」

 僕は思わず、両手を突き上げ全身でガッツポーズをしてしまった。そんな僕の所に皆が集まって来て、ハイタッチをし合い、自然に抱き合い、全員で喜びを分かち合った。

 こんな光景、僕にとって初めての経験だ。なんか、こういうのもいいよね。


 イフリートが消滅したボス部屋の祭壇にある像が光り出し、それが『望みを言え!』と言っているように点滅しだしたのだ。


 僕たちはお互いの顔を見合って頷き合う。もちろん望みはただ一つ。


「ミーリアに職業を!」

 クライドがミーリアを祭壇前に押し出し、大きな声でそう告げた。


 すると、ミーリアの身体が七色に光りだした。しばらくの後の眩い閃光とともに、その輝きは収まりを見せる。


「どうだった?職業は貰えたのか?」


 そう聞くもミーリアは呆然としていて何も答えない。そしてしばらくすると、彼女の美しい瞳から大粒の涙が溢れ、頬を流れてゆく。


 そして、にっこりと天使のような笑みを浮かべたのち、心配そうに見つめるクライドとアイリに向かってダイブをした。

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