第58話 クライドの実力

 そんなこんなで、ダンジョンに突入した五人。僕と先生がどう連携出来るかを見るため、まずはクライド達三人が今までのやり方で、鎗トカゲを狩ってもらった。


 クライドがまず<威嚇>を放って魔物を一時的に動けなくし、少女二人に一撃入れさせた後、剣で首をはねる。お見事である。

 しかし、鎗トカゲは下級の魔物で、レベル5あれば簡単に狩れる魔物なのだ。クライドの戦いを見ていて、彼がそこそこの力を有している事は分かる。

 本当はもう少し難易度の高いダンジョンに行けるレベルなのだろうが、少女達を守りながらではそれは難しく、ずっとここで鎗トカゲを狩って生計を立てているのだろう。


 彼らの動きを見てたネコ先生が、少女二人に声をかけた。


「アイリちゃんの魔法は自己流だにゃ。ちゃんと詠唱したらもっと威力はあがるはずにゃの。良かったらラーナに任せるにゃ」


 そして、ミーリアにも魔法が使えるようになった時の為に、一緒に学ぼうと伝えていた。流石、先生だ。一目でアイリの欠点を見切ったようだ。二人は先生に任せておいても大丈夫だろう。


 僕はローブを脱いで収納に仕舞うと、自分の剣を出し構えた。


 クライドが戦士でオッサンと同じ職だ。そこそこ強いと思うんですが、やっぱりオッサンの戦い方を見てしまうと、何か物足りなさが拭えない。


 オッサンの戦い方と言えば、悔しいほどに洗練されている。作りこまれた肉体と体幹。一見、豪快で粗暴に見えながらも、全身が研ぎ澄まされ一切の隙が無い。

 言うならば、オッサンは乱流の中にある凪のような存在だ。安易に近づいた物全てが切り刻まれる様な恐ろしい迫力がある。それは敵にとって、震えあがるほど恐ろしい存在なのだが、味方からすると、必ず守って貰えるという最大限の安心感となる。


 それが戦士と言う職なのだろう。僕はオッサンから叩き込まれた戦い方をクライドに見てもらいたくて魔物へと向かっていった。


 少女二人をネコ先生に任せ、僕とクライド二人でどんどんと魔物を倒して行く。僕が言うのもおこがましいが、クライドの戦士としての力量は相当なものだ。


 クライドはきっとオッサンに鍛えられると大化けする逸材であり、磨けば光る原石だ。彼の戦いを見ていると、今のままでは勿体ないと思ってしまった。


「なぁ、聞いてもいいか?なんで騎士学校をやめたんだ?」

「ああ、色々あってな。平民が騎士へ取り立てられると言うのは並大抵ではないんだよ。だけど学校からミーリアを教会に渡さないと騎士への推薦を取り消すと言われたんだ」


「ミーリアは俺に残された唯一の身内なんだ。本当に大切な存在だ」

 騎士になるとか、たかがそんな事で妹を見捨てるなんて出来ないよ。と爽やかに笑うクライド。


 クライドとアイリの家は賊に襲われ皆殺しにされたと言う凄惨な過去があった。ただ一緒に遊びに行っていたミーリアとアイリは助かり、そこでクライドが騎士学校をやめて二人を引き取ったのだそうだ。


 この国は種族差別はない素晴らしい国だと思っていたんだけど、どこにでも生まれや境遇での差別は存在すると言うわけか。それに身分の低い者が住まう地域は著しく治安が悪いときた。


 その時ふっと、ギルドを出る時に絡んで来た奴らの顔を何故か思いだしてしまった。毎回クライドに絡んでくる連中。下品に笑う男達。クライドを見下す様な下卑たる顔。

 いや、もう一度思い出せ。奴らの目をだ……。ようやくあの時に感じた違和感が分かったような気がした。


 そうだ。――奴らの目は、絶望してたんだ。


 おらが村の一番の強者が底辺に落ちた事をざまぁみろ的に面白がっているのかと最初は思ったのだ。が、もしかしたら、それは違うのかもしれない。


 僕はこのダンジョンを出たら、オッサンにクライドを紹介しようと思ってる。彼をこのままこのダンジョンに埋もれさすには勿体ないって事もある。それもあるのだが……。

 だが、まずはこのダンジョンを攻略しないと。気合をいれないといけないな。


 ここのダンジョンで要求されている貢物は―――。

 このダンジョンの入口を少し入った所に石碑があり、二柱の神が統治していた時代に使われていた文字で三つ祭壇を探せと書かれていた。

 この世界も焚書ふんしょの様な悲しい出来事があったようで、当時の書物は大量に焼かれ処分された。その為当時の文献はほとんど残っていないらしく、研究も捗っていないとネコ先生は言ってた。その為、その文字を読める人はほとんどいないようだ。


 やはり文化は大切にしないといけないよね。文化の継承は多様な豊かさの系譜と価値観の判断基準だと僕は思ってるけど。失ってから後悔しても遅いよね。後悔先に立たずだ。

 僕はシンクロできるので、ささっと検索したわけだが。


 一つ目が鎗トカゲの皮と魔石各五個。

 二つ目がコボルトの牙と魔石各八個。

 最後がファイアウルフのレアドロップである炎系の威力が上がる炎のリング一つと魔石十個だ。



 これらを集めるのにはかなりの時間を要したわけだが、なんとかダンジョンに入ったその日の内に集めきる事はできた。一番苦労したのは、もちろんレアドロップの炎のリングだ。いったい何匹倒したか数えきれないほど倒してやっとドロップしてくれた。

 半日以上狩ってたかもしれない。時間に猶予はないので、少し焦ったけど、200体目辺りでようやく出た。LUK(運)が57ある事がどう作用したかは分からないけど。

 全て集まったので、これでようやくボスに挑戦できる。だけど、体力も魔力もかなり消耗してしまったので、最後の貢物を供える前に、ボス部屋で野営しての身体を休めてからボスに挑戦しようと言う事になった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る