第57話 望みのダンジョン

 初心者ダンジョンと言われているダンジョンに着いての早速シンクロしてみた。すると、このダンジョンの膨大な情報が流れて来たわけだが…。クライドから聞いていた事とは少し状況が違う感じなので、ちょっと確認する事にした。


「クライドはこのダンジョンにほぼ毎日来てるんだよね」


「ああ、ここはそう広くもなく、魔物も強くない、それにボス部屋と思われる部屋には逃げられない強力なボスも出ないんだ。ボスが出ないその部屋は、安全な野営場になって、初心者の最初のレベル上げに最適な場所なんだ―――」


 ただ、そこそこのレベルまで上がると敵も弱くてレベルも頭打ちになるので、他の奴らはすぐ他のダンジョンに移って行く。それにここのドロップ品に、そんなにうま味はないときた。そこで、そう混んではおらず、魔物の奪い合いとかもない、ある意味で平和な狩場である。


「―――騎士学校や魔法学校に行けない貧しい見習い冒険者には、とりあえず学べる最適ダンジョンなんだよ」


「う~ん、ここが初心者ダンジョンなのは、ある意味正しいな」

「え?君はここ初めてだろ?」

「ああ、初めてだけど…僕には特殊なスキルがあってね」

 不思議そうに僕を見つめる彼らを見やって、僕は意味深にニヤリと笑った。そうカッコつけて笑ったんだよ。


 なんだろ?今までは自分が傷つきたくないから、何かにつけて関心がないって態度に徹してた。人は人、自分は自分。僕は自分だけの世界で生きてて、周りの事は関係ないし、興味がないって思ってたんだ。けど、なんだか今は、誰かの為に何かをしたいと無性に思う。


 それに自分が強くなったという実感からか、自信が漲っているようで、ちょっとカッコつけてみたくなった。それは、今までには考えられない事だとは思うんだけど……。 他人に冗談が言えるようになったんだよ。


「ただし、ここのダンジョンには、、、――」


 僕は『ふっふっふっ』と言う笑い声をあげながら不気味に呟き、両手で日本で言う幽霊のポーズをして上目使いに斜に構える。まぁ、ここでこのポーズが理解されるかは分からないけど。


『きゃーーーーー!』と悲鳴を上げるネコ先生と女の子達。ニガ笑いするクライド。


(おっし、この世界でも通じる)

 そんな事で喜んでいる場合じゃないけど。


「まぁ、ボスですけどね」

 そう言うと、涙目のネコ先生の小さな手でポコポコと殴られたので、驚かせた事をペコペコ謝りながら、ここの大まかな説明をする事にした。


「このダンジョンにはボス部屋にちゃんとボスは出るんですよ。ただ、そのプロセスが特殊なので、気付かなかったというのが真実だと思います」


 僕は三本の指を立てて、このダンジョンには三つの祭壇があって、正しい順序でその祭壇を探し、指定された貢物を備える。すると、ボス部屋にボスが出現する。そしてそのボスを倒す事で、このダンジョンが、だと判断した望む物を、一つ与えられるのだ。それは、何人で行ってもだ。


「なので、ここのダンジョンは『唯一望みのダンジョン』って言う名称なんだよ」


 それはボスが討伐される事によってクリアされ、新たな試練が指定される。ここはそんなダンジョンなんだ。


「ちょっと待てよ。ここが出来てから相当な時間が立ってるんだぞ。一般に解放する前も後も、かなりの冒険者達が調査したり、探索したりしてるんだ。それなのに何故それが今まで分からなかったんだ?!」

「まぁ、ここのダンジョンが不親切だからだろ」

「はぁ、そんだけかい!」

「ダンジョンの調査って言うと、階層や広さ、そこに出現する魔物とその強さ、ドロップアイテムとか、罠の有無とかじゃないのか?後は感覚的での環境とかかな」


 日本のダンジョン調査はまず自衛隊がやってたので、どういう風にしてたかは知らないけど。公表された情報を見るにそんな所だと思う。


「なのでダンジョンの存在の意義とか構造や変化とかの詳細、またそれが起こってから初めて分かる事などはなかなか理解できないよね」


 また祭壇に供える貢物を指定する石碑の文字が苔によって見えづらくされてたり、いくつかの偽装があったりとかなり不親切だ。


「だげど僕はダンジョンの声が聞こえるんだ」

 本当は違うけど。まぁ本当の事はまだ言わない方がいいと思ったからね。


 ここの真の攻略方法が達成されなかった為、長年ボスが放置された。ただ、徘徊する魔物はかなりの数が討伐されている事で、今まで氾濫は起こらなかったが、歪な状況であったことで、大規模な氾濫が近いと、このダンジョンは訴えていたのだ。あまり時間はない。早急に何とかしないと、ここが氾濫したら王都が大変な事になってしまう。


 僕は、孤高のダンジョンの様な過ちはもう二度と起こしたくないと強く思った。


「よーし、このダンジョンを攻略して、望む物をゲットするそ!で、ついでに氾濫を防止するからなー!」


『おー!』と、言いながら拳を突き上げると、他の皆は、キョトンとした顔を僕に向けた。


 うわぁーーー!ちょっ恥ずかしい。

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