第55話 守りたいもの
キャハハハと下品に笑う四人の男達。僕にとっての黒歴史が頭をよぎる。こいつらだったら、たぶん今の僕だと簡単に倒す事ができるだろうが、よそ者である僕が、ここのギルドでトラブルは起こしちゃダメだろ?なので、ここはグッと堪える。
(僕、大人になりました。)
もしここが日本で、相手が金森だったら……。今の僕はどう行動を取るだろうか? 下手したら殺しかねないし、そうなれば奴の親父に何されるか分からない。
だったら、面従腹背が座右の銘だとか言いつつ、ヘコヘコして災難が過ぎ去るのを待ってただろうか?いやいや、そんな大人にはなりたくないからシーカーになったんだから。
だけど、金森とは何か違う感じを彼らに持った。なんだ?この違和感。そんな思考を巡らせていると。
「悪いが、どいてくれないだろうか?これからダンジョンに出かけるとこなんだ」
クライドは女の子二人を自分の後ろに隠して、その場から逃げようとする。しかし、まわりこまれてしまった。
「へー!?騎士学校の元優等生さんが、まさか初心者ダンジョンに行くとか、そんなわけないよな~。」
「まさかねー。いや待て、そのまさかかも知れんぞ。なにせ、このクライド様は加護ナシのお優しいお兄ちゃんだからなぁ」
「なぁ~お前、さっさと、妹を見限って自分だけで上を目指せよ。俺たちは親切心で言ってやってんだぜ」
「おー、でよ、俺らがその二人面倒みてやんよ。加護ナシでもよー、俺ら優しいから思いっきり可愛がってやんよー」
下卑な笑いを浮かべた男達は、後ろに隠れている少女達を、頭の天辺から足の爪先まで舐めまわすように視線を這わせる。
「俺の家族に手を出すな。こいつらは絶対に俺が守るんだ!指一本でも触れて見ろ、俺が許さん!」
クライドの全身からオーラが立ち上り威嚇を放つ。その迫力は四人の男達を金縛りにしたようだ。そして、奴らがすくみ上っている間に、僕たちに「今だ、急ごう!」と声をかけて、少女二人を守りながら奴らの脇を抜けて行った。
(クーー!かっこいい!やっぱ守りたいもんがある奴は強いよな……)
と思いつつ感心していると、あれは戦士スキルの<威嚇>だと、ネコ先生に教えてもらった。
「なぁ、あいつら誰だったんだ?」
僕は西門に行く道すがら隣を歩くクライドに尋ねてみた。
「以前、学校が同じってだけだよ。俺は自主退学したんで、今は全く関係ないんだが……」
何故か毎回絡んでくる迷惑な奴らだそうだ。そんな会話をしていると、妹のミーリアが泣きそうな顔で話しかけてきた。
「ごめんね、お兄ちゃん」
「なんでお前が謝るんだ」
「だって、私さえいなければ、お兄ちゃんは今頃は騎士様になってて、あんな人たちから絡まれる事もなかったんでしょ」
そう言うと、ミーリアは僕らの方に向き直る。
「レンさん、クララーナさん、こちらから誘ったのに気分を悪くさせてごめんなさい。私は加護ナシだけど、ちゃんとレベル上げてるんで、今から行くダンジョンだったら決して迷惑はかけません。それに、お兄ちゃんは本当にとても強いんですよ。だから……」
そして、申し訳なさそうにペコリと頭を下げる。
「ア、アイリも。あんまり魔力は高くないけど……。あ、あの、一応魔法使いなので……」
すると、アイリも、ミーリアの横に並んで同じようにちょこんと頭を下げた。ピンクのほっぺが可愛い活発そうな、見た目とても愛らしいミーリア。それに、人見知りで大人しそうなアイリは、ローブのフードを目深に被っていたけれど、そのフードからちらりと覗く顔立ちはとても整っているように見える。
二人は、まるで小動物のように愛らしいのだ。そんな二人の様子を見ていたネコ先生が、「大丈夫だにゃ、私もレン君も迷惑なんて思ってにゃいから!」そう言って、二人にハッしと抱き着く。究極の愛らしいが三人になった。
僕も「大丈夫だから気にしないで」と伝える。だがしかし、三人の姿を見る僕の口元がにやけていたようだ。
だって、可愛いは正義なのだ!
そんな僕を見ていたクライドの身体から何かオーラが立ち上っていたようだが、気にしないようにしよう。
「ところで、そのロープ着てるって事は魔法使いなのか?」
とクライドが尋ねてきた。
「いや、僕は剣士かな」
スキルに剣術があるのでそう答えてみたのだが、その身なりで剣士なのか?と不思議な顔をされた。
僕の髪と眼の色、それに東洋風の容姿は、ここでは目立つって言われているので、髪の色と目を隠すべく、なるべくフードを目深に被っていたわけだが。どうも、この姿は魔法使いに多いらしい。
それにしても、普通、この恰好を見て最初に怪しい奴とか思わなかったのか?簡単に声をかけてきたよな?と疑問をぶつけると。
「このアイリも人見知りが激しくってな。この様に、いつもフードを目深に被ってるから。だから、同類かなって思ったんだよ」
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