第54話 王都ギルド

 蓮はダンジョンに行く前に、なにか依頼を受けようと朝からギルドに来ていた。冒険者ランクは銅級なので鉄級位までの依頼は受けられる。そこで鉄級までで受けられる魔物の討伐依頼でも有ったらと思って来てみたのだ。


 蓮は実際自分から依頼を受ける事を今までしたことがない。今まではオッサンがギルマスからの依頼を受けてのものだったからだ。


 そこで、初めてのおつかいよろしく、ドキドキしながらギルドにやってきたのだが……。王都のギルドは、ターラントのギルドよりももっと人で溢れかえっていて、 少しでもいい依頼を受けようとギルドは朝から冒険者でごった返していた。その熱気と言ったら凄まじく、必死で掲示板の前まで行こうと試みるが、蓮のような軟弱もの風の見た目お子ちゃまでは、厳つい冒険者から舐められているようで、『坊主、邪魔だ!』と、どんどんと押されて行って、とうとう掲示板前から弾かれてしまった。


「うわぁ~!こりゃ落ち着いて探そうなんて無理だよな」


「おい、何やってるんだ?お前のような初心者だと今掲示板前に行っても無駄だぞ。少し待ってな」


 声をかけてきた見知らぬ少年に蓮は腕を捕まれて、壁際まで引っ張って行かれてしまった。そこには後二人の少女が壁に持たれていたのだ。


「もう、兄ちゃんは御節介なんだから」


 そのうちの一人、少年によく似た金色の髪をした少女が、ぷりぷりしながらその少年に文句を言ってくる。


「仕方ねえだろ?見てらんなかったからな」


 僕を壁際まで引っ張ってきた少年はそう言うと僕に話しかけてきた。


「お前、ここのギルドは初めてだろう?見てたら分かるよ。どう見てもド素人丸出しだからな」


「え?やっぱ分かります?」どうも、バレバレみたいでした。


「ああ、一応ここのギルドではお約束事みたいなもんは有ってな。上級者が依頼を受けた後に、俺らみたいな下っ端が残った依頼を選べるんだよ。ほら周りを見て見ろよ。若手の奴らが壁際で待ってるだろ」


 そう言われて周りを見ると、まだ若い者達が壁の近くで待機しているように見える。


「いやー、王都のダンジョンは初めてと言うより、依頼を受けるのも初めてなんですよね~」


 僕は少年に向かって頭をかいた。


「そうか、お前見習いか?で、お前一人なのか?」


「いえ、魔法使いのネコ獣人さんと組んで、西門から少し行った所のダンジョンに行こうって事になって、それで何か丁度いい依頼ないかと思って来てみたんですが…」


「ほぉ、俺らと同じ所に行くんだ。だったら、一緒に行かないか?あそこはよく行くから結構詳しいぜ。俺ら三人まだ見習いなんだけど、そろそろ銅級に上がるとこまではきてんだぜ」


 少年は誇らしそうに胸をはった。それを聞いてた少年に文句を言ってた少女が、


「もう兄ちゃん、勝手に決めないでよ。それにその方にも失礼よ」


 少女は僕の方を見て、兄が強引ですいませんと謝ってくる。気さくな感じで気の良さそうな兄妹みたいだし、ダンジョン詳しいってなら一緒に行ってもいいかもな。悪いやつには見えないし、御節介焼きみたいだしね。


「こちらはありがたいんですが。僕とは初対面ですが大丈夫ですか?」


「ああ、見るからにお人よしそうだしね。さっきの状況見てたら悪い奴には決して見えんわな」


 そう言うと『ハハハ』っと言う感じで笑っている。ううう、そこもバレバレでした。一緒に行くかの結論は連れが来てからの返事でいいかな?と言うと、三人は快く応じてくれた。


「そうだ自己紹介がまだだったな、俺はクライドって名で一応戦士だ。そしてこいつが俺の妹でミーリア、その横が妹の幼馴染でアイリだ。よろしくな」


「僕はレンと言います。そしてこいつがリンゴです」


 そう言って、懐に入れていたリンゴを皆に紹介する。実は、掲示板前にいる上級者と言われる連中に、押し合いでも負ける気はしなかったのだが、懐のリンゴを守るために、あまり無理をしなかったわけなのだが。それがどうも周りからひ弱だと思われてしまったようだ。


「きゃーーー!か、かわいい」


 女の子二人はリンゴを見て、眼がランランと輝いている。


「この子、リンゴちゃんと言うの、ねぇ、ちょっと触ってみていいかな?」

 恐る恐る聞いてくる二人。リンゴに確認すると『大丈夫』という感じだったので、リンゴを二人に抱かせてあげたら感激された。リンゴが抱かれて大丈夫だと言う事は、やっぱり悪い奴ではなさそうなのだろう。


 そうこうしていると、二人がリンゴに夢中になっている所に、ネコ先生がやってきた。ネコ先生は最初の思惑とは違った事で、どうしようか、、、と言う表情ではあったけど、先生だった事の使命感が蘇ったのか、この子達を育てて上げたいと思ったのだろう、快く了承してくれた。


 ネコ先生に事情を説明して了承を得てから、依頼をクライドと僕で見に行く事になった。上級者が選んだ後なので、あまり良い依頼が残ってはいない。クライドが言うには、良い依頼が残っていなくても、今から行くダンジョンに出てくるトカゲの魔物の常設依頼があるそうで、そのトカゲがドロップする肉と皮を買ってくれるお店がかなりあるのだとか。とりあえず彼らはいつもこの依頼を受けてダンジョンに入るそうで、そのお陰で何とか生計をたてているそうだ。


 受付で常設の討伐依頼を受け、談笑しながらギルドを出ようとした所、質の悪そうな男共に通せんぼされてしまったのだ。


「よー、クライドじゃないか。また初心者ダンジョンでのトカゲ狩りか。折角の戦士職がもったいないよなー。マジ泣けてくるよー」


 キャハハハと下品に笑う男達。その笑いを見て、僕はめちゃめちゃむかついてきた。下卑たる笑いを見て、あの金森たちを思い出してしまったからだ。


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