第25話 ダンジョン氾濫

 結局、僕は、その日それ以上足を進める事が出来なかった。大丈夫だとは言ったのだが、足が震えて立っている事も出来なかった。あの時の風景が、感覚が、何もない世界に一人ぽつんと立っている孤独感が、どうしようもなく怖かったのだ。


 皆も、僕の事を思って、その日はダンジョンから村へ帰って、村長が用意してくれた宿泊場所で休ませてくれた。


 僕は、固いベットの上に寝転び、自分のスキルをぼーっと見つめていた。


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 <ステータス>

 名前 : 新田 蓮(あらた れん)

 性別 : 男

 年齢 : 18歳

 レベル : 15


 HP : 97

 MP : 44


 STR : 40

  INT : 32

 DEF : 18

 RES : 33

 DEX : 51

 AGI : 35

 LUK : 51


 □魔法:


 なし


 □スキル:

 <異世界サバイバルセット>Lv4

 ・言語理解 ・簡易鑑定→ ・石投げ→

 ・飲み水整水 ・回復(小) ・浄化

 ・アイテム収納(小) ・着火

 ・周辺MAP制作(範囲小)→ ・気配察知


(ダンジョンコアの原子・XXXX)


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 多分、この最後の(ダンジョンコアの原子・XXXX)って言うのが関わっているんだよな。


『ダンジョンへの侵入を確認しました。共有を選択しますか?』

(Y・N)


 今回、共有を選択しますか?という所で”N”を選んで戻って来れたけど、もしイエスとしてたらどうなってたんだろう?もしかしたら、ダンジョンに取り込まれるとかないよね。まさか、原子だからって、イエスにしたらXXXXが『共有結合』とかじゃないよね。


「ははは、ハハハ、ははははは………。まさかね」


 乾いた笑いしかでてこない。ベッドの上で、ゴロゴロと転がりながら、これからの事を考える。


 窓から二つの月が見える。ここは、地球とは次元の違う世界?それとも違う宇宙?違う星?どうして、こんなに違う世界に来てしまったんだろう?



                ◇◆◆◇◆◆◇



 僕は、喉が渇いたので、水を飲もうとペットボトルを探したんだけど、食堂に忘れて来たようだ。ちょっと取りに行こうと食堂へ足を向けた。食堂前に来ると、ドアから明かりが漏れていて、オッサンとガリオンさんが話しているようだ。


 ガリオンは、バッファに、心配そうに尋ねた。


「あの少年は、大丈夫なんですかね?ダンジョンに入ったとたん、固まってしまって、突然座り込んだかと思ったら、叫び出す。自分では大丈夫とは言ってましたが、足がガクガクしていましたから。ダンジョンでの恐怖心が目覚め、二度とダンジョンへ、入れなくなった冒険者を見てきていますからね」


 困ったもんじゃと、オッサンは言う。


「ああ、そうだな。じっくりと時間をかけて、あいつがダンジョンへ入れるようになるまで待つとか、そんな悠長な時間はねぇし」


「叱咤激励するってたって、はっきり言って、わしらの事情を勝手に押し付けてるんだ。あいつには、あいつの世界があって、この世界の事情なんて知ったこっちゃないわけだ。こんな事であいつを責めるわけにはいかんわな」


「この世界の事で命をかけるなんて、あの少年には関係ない話ですからね。自分の世界に帰りたいという思いで、手を貸してるって所ですかね」


 オッサンは、どうしたもんかと、頭を抱えているようだ。



                ◇◆◆◇◆◆◇



 その話を、盗み聞きして、結局ペットボトルを取りには入れなかった。


「僕は、これからどうしたいんだろ?」


 ぽつりと呟く。地球に日本に、帰りたいとか本気で考えているのかな?それとも、このシビアな世界で現実感が持てない状態で、流されるまま、生きていこうとか思ってるんだろうか?


 考えても、考えても、答えが出てこない。気づかれからか、うつらうつらしていると、何か外が騒がしい。窓から村の様子を見ると、あちらこちらで松明が焚かれ、悲鳴と怒号、人々が逃げ惑う様が見える。


 すると、ドアがノックされるやいなや勢いよく開けられ、アリシアが部屋に飛び込んできた。


「魔物の襲撃よ!あなたも早く準備しなさい。村を守るわよ!」


 僕は慌てて、外へ飛び出すと、オッサンとガリオンさんはすでに出ていて、僕に指示をだす。ダンジョン氾濫が起こったようで、ゴブリンの大群が、村に突入してきたらしい。


 アリシアは、村の教会へ村人を集め、結界を張り守る為に、走り去っていった。オッサンとガリオンさん、そして『青天の翼』のメンバーが、村へ侵入した魔物を掃討している。


 そして僕はと言うと、前で戦ってくれているオッサンの後ろに隠れつつ、入口へと向かい、その場所に撒菱(まきびし)を敷き詰め、これ以上の魔物が村へ入れない状況にし、撒菱(まきびし)を踏んで、右往左往している魔物に向かって、何度も何度も撒菱(まきびし)を投げつけた。


 村へ入ろうとしていたゴブリン達は、大方一掃したようだったが、そのゴブリン達の後方から一際高い咆哮が聞こえたのだ。


 ゾクリと悪寒が走る。


 闇の中から、ぬっと巨大な影が現れ、そして巨大な影は村の松明の光を浴びて、その姿を確認する事が出来た。身長が3メートル近い、巨大な人型の魔物。僕が巻いた撒菱(まきびし)を踏んでもビクともしない。


 その魔物は、片手に巨木を抱え、今まさにそれを村の塀に投げつけようとしていた。あのミノタウロスと同じような強者のオーラを漂わせたその魔物は、再び咆哮を放つ。


 すると、一人の戦士が、門の近くまで行くと大楯を構えた。そしてその戦士の後ろから、氷の礫と矢が飛んで来た。それは『青天の翼』の魔導士とアリシアだった。


 巨大な魔物に命中するも、致命傷にはならなかったが、少しひるんだようだ。僕は、慌てず、収納から野球ボール大のトゲ付き鉄球を取り出し、魔物の顔面に向けて投げつける。鉄球は魔物の顔に命中し、魔物は血しぶきをまき散らしながら、後退した所に、ハルバードが飛んできて。その太い首を切断した。

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