第24話 ダンジョンへ入る

 しばらく荷馬車を進めていると、村の門が見えて来た。村はそこそこ丈夫な塀で囲まれていて、門番が守っている。とりあえず村長から状況を聞く事にして、ギルドからの依頼で村に来た事を門番に伝えると、村長の家に案内してくれたのだ。


 村長は、まさか、金級の冒険者が来るとは思っていなかったようで、かなり困惑している。そこまでの費用は出せないと言って、渋っているようだ。


 領主からの派遣だから費用は掛からない、宿の提供と馬の世話をしてもらえればそれでいいと伝えると、ホッとした表情になり、これまでの経緯を話しだした。


 最初は、裏山にゴブリンが単体で出るようになり、村人達で自警団を作り村への侵入を警戒していたのだが、その内に徒党を組んで現れるようになって来て、最初は家畜が襲われ、その内に、作業中の村人まで襲われるようになった。そこで冒険者ギルドに相談したというのが経緯らしい。


 そして、裏山にダンジョンがある事の発見へと至る。


 ギルドから、鉄級冒険者のパーティが派遣され、裏山を調査したところ、隠れたダンジョンが発見されたのだ。


 鉄級冒険者パーティは『青天の翼』という男2人女2人、計4人の幼馴染のパーティで、最近、鉄に昇格したばかりではあるが、かなり優秀なパーティのようだ。彼らに、事情を聞いた後、すぐにダンジョン入口まで案内してもらった。


 『青天の翼』は、タンク、盗賊、魔導士、僧侶のパーティで、盾タンクが守り、盗賊がスピードで翻弄、魔導士で攻撃するパターンで、回復は僧侶がいる事で安定する将来有望なパーティだそうだ。



 裏山にある、草むらに隠れた、本当に分かりにくいい場所に、ダンジョンの入口があった。それを見つけた彼らは、半信半疑で、少し中に入ったようで、そこがダンジョンであると分かると、急いで報告してきたようだ。


 そのダンジョンの形態は、洞窟ダンジョンという事も報告してきた。


 蓮が、日本で通っていた、近くの公園ダンジョンと同じ形の物で、壁には天然光源のような苔が周囲をほんのりと明るく照らしているので、別途の光源はいらないと言う事だった。


 彼らは、三階層まで行ったようだ。一階層は、ゴブリンが数体で出現、階層ボスはホブゴブリンとゴブリンが3体。二階層になるとホブゴブリンがゴブリンを引き連れで徒党を組んで出現するようになり、階層ボスは、ホブゴブリン2体とゴブリンジェネラルだった。三階層はオークが数体で出てきたので、すぐに退散したとの事。階層ボス部屋には行っていないとの事だった。


 そこで、彼らと別れ、4人でダンジョンに潜る事にした。



                ◇◆◆◇◆◆◇



 僕がダンジョンに一歩入ると、そこは無限に広がる世界だった。上を見ても、右を見ても、左を見ても、下を覗いても、静寂が支配する虚静恬淡な世界がそこにあった。


 いや、その中心に自分がいた。


 そして、それは、まるでネットワーク空間であるがごとく、どこかに繋がっている事を五感に訴えかけてくる共有の感覚。『仮想現実 virtual reality』だったのだ。


 頭の中に声が響く。


『ダンジョンへの侵入を確認しました。共有を選択しますか?』

(Y・N)


『えええ!なんだよ。ここどこだよ!ねぇ、みんなどこに行ったんだ!』


 僕は大声で叫ぼうとしたけど、声は出ない。なのに、共鳴だけが響き、その世界に広がっていく。


『怖い、怖い、怖い…』


 僕は、そこから一歩も動く事が出来なくなった。万が一動いたら、このまま、この世界に閉じ込められてしまいそうで怖かった。


『ねぇ、ここはどこー!誰か返事してー!』


 僕は、その世界の中心で、膝を抱えるように、座り込んでしまった。すると、再び、声が聞こえてくる。


『ダンジョンへの侵入を確認しました。共有を選択しますか?』

(Y・N)


 僕は必死で『ノーーーー!』と叫んだ。


 すると、視界は暗転し、そして再び視界が開けると、そこには、ほのかに明るい世界があり、3人が僕を覗き込んでいた。


「レン、大丈夫か?おい、どうした。しっかりしろ!」


「はぁはぁ、大丈夫です。大丈夫だと思います」


 僕は頭を押さえながら、帰れた事にホッとした。戻って来れた。一体あれは何だったんだろう?あの世界は何なんだ?



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