第22話 エルダばぁちゃんの薬屋
アリシアから神話の話を聞いたり、今から行く薬屋の店主のエルダさんの話を聞いたりしながら、ぶらぶら歩いていると、街の賑わいが少し途絶える所までやって来た。
エルダばぁちゃんの薬屋は、商店街から外れた所に、ひっそりと建っていた。魔女系のファンタジーにあるような、二階建ての魔法使いの住処のような佇まいだ。
看板には、ポーションのイラストの下に『エルダばぁちゃんのくすりや』って書いてあるようだ。
賢者か回復系の魔導士が仲間になるまで、しばらくは回復ポーションで代用しないといけないから、師匠に薬系はそこそこ買っておいてくれと言われているようだ。
そう言いながら、懐かしそうに、周りを見ながら、薬屋のドアを開けた。そうすると、カランコロンというドアベルの音がした。お店の中は、天井から複数の薬草がぶら下げられていて、色んな薬草の匂いが充満している。
「エルダばぁちゃん、いる?」
アリシアは、奥に向かって、声をかけた。すると、1人のエルフのご老人が、奥から出てきたのだ。
「おお、まさかと思ったが、もしかしてアリシアかい?本当に久しぶりだね」
「エルダばぁちゃん、お久しぶりです。昨日、この街に帰ってきました」
「そうかい、お前の母親が亡くなって、この街を出て行って以来になるかね。大きくなったね」
そう言いながら、エルダさんは、懐かしそうに眼を細めた。久しぶりの再会のようで、二人とも、とても嬉しそうだ。そして、エルダさんに、僕を紹介してくれた。
これからバッファ師匠に鍛えられる可哀そうな男だから、優しくしてやってほしいみたいなことを告げられると、ほんと可哀そうにね、と言った顔で僕を見ている。
「バッファ師匠に連れられて、ダンジョンに行く事になったのですが、回復ポーションや魔力回復と状態異常回復ポーションも分けてもらえますか?」
すると、エルダさんは、困ったような顔になった。
「売ってあげたいのは山々なんだけど、今、ちょっと大変な状況なんだよ。実はね、ポーションを作るための聖水が上手く手に入らなくなったんだよ」
以前は、森の地下水を使っていたらしいが、それは使えなくなった。この街の井戸の水には、色んな不純物が混じっている為もちろん使えない。そこで、ラウド聖教の教会から、調達していたとのこと。
教会は、水を清める『妖精の結晶』という貴重なアイテムを所有している。それと合わせ”聖職者の祈り”にて、聖水を作っていて、その聖水は、アンデット系の魔物に有効なことから、冒険者も利用していたりするのだ。
今までは、お布施という形で、教会から譲り受けていたのだそうだが、
「前の神父様は、徳も高く、崇高で立派なお方だったのだが、そのお方がお亡くなりになり、新しい神父様が赴任されたんだよ」
すると、今までとは、考えられないような、高額なお布施を要求されたらしい。
最近、王都で、ポーション類の価格が高騰している事もあってか、教会は、足元をみてきたようだ。あまりの高額の為、今はポーションを作っていないのだそうだ。
「店の在庫は、昨日に、オルロープ商会が全部買い取って行ってしまってね。ごめんよ。」
あ、きっとそれって、エラルドさんだね。僕は小声でアリシアに尋ねた。
「あのー、ポーションって誰でも作れるって事はないですよね?作り方を教えて貰えるとかないですよね」
「ないわね。」
アリシアは、呆れた顔で速攻答える。エルフのポーション作りは、親から子への相伝で、それは書物とかには記録されていない。その為、高度な調合技術はその家の秘密とされ隠ぺいされるそうだ。
そこで僕は、カバンから500mlのペットボトルを出して、エルダさんに尋ねた。
「ちょっと、取引したいなぁって思うんですが、この水を鑑定して貰っていいですか?」
そう言うと、エルダさんにペットボトルを渡した。エルダさんは、そのペットボトルを不思議そうに見ながら、中の水を鑑定し、驚きの表情をしている。
「あの、その水で良ければ、いくらでも提供できるんですが、それと引き換えに、僕にポーションの調合を教えてもらえませんか?」
エルダさんは、うーんと唸りながら、かなり困った顔になった。
「やっぱり、ダメですよね」
ダメ元で聞いてみたんだけどね。やっぱりダメだよね。
「いいよ」、とエルダさん。
「へ?」
いいんかーーい!
「ポーション作りの薬草の配合を教えてもいいよ。私には、この術を譲る子もいないしね。この技術を受け継いでくれる奴が、1人でも多い方がこれからの為だと考えてる。だがね…。教えたからって、お前さんに、それが出来るかは、己次第だからね」
「エルダばぁちゃん、レンに教えて、本当にいいの」
「ああ、実はね、最近、孤児院の子達にも、教えてるんだよ。その中で才能がある子は、自分で立派に生きて行けるからね」
「それより、この水は、何なんだい?これほどポーションに最適な水はないってくらいの水質じゃないか。これほどの水だと、相当効果の高いポーションが作れそうだ。」
井戸の水を使って、大量の健康飲料水を作り、エルダさんに提供した。しばらくは、時間が取れたら、ここに通うという約束をした。これからポーションを作るので、作業を見学して行けという事で、アリシアと二人で見学させてもらった。
こちらに売るポーションは、今日中に作っておくからと、明日また来てほしいと言われたので、今日はこのまま帰る事にしたのだ。
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