第13話 きな臭くなってきましたね

 キャラバン隊の馬車は、現在20台あり、王都からターラントへ、そして次々と都市や村をめぐり、そこで市を開き交易を行う。各都市で商会の馬車が増えたり減ったりしながら、王都に帰るという道筋を半年かけて行っているのだ。商隊の馬車は、多い時で最大100台以上になる時もあるのだ。


 このキャラバン隊は、モントヴル王国の王都に拠点を持つ、最大商会であるオルロープ商会が、取り仕切っているのだ。現在は、オルロープ商会の二代目の息子、エラルドが代理として主を努めていて、将来は、彼が三代目を継ぐと言われているやり手なのだ。


 ターラントは、元々は、近くに精霊の森があり、エルフとの親交もあって、彼らとの交易で栄えた都市であった。エルフの特産品である、各種ポーションや錬金術にて作られるエリクサーと呼ばれる万能薬は、高値で取引されるためだ。


 そして、精霊の森があのような状態になった後、多くのエルフ達が、ターラントに移住して来た事で、その地位は強固なものになったとも言える。


 王都からも一番近く、貴重な高価な薬や錬金道具が手頃な価格で手に入るのだ、オルロープ商会としては、絶対に外せない都市でもあった。




 オッサンとアリシアは、久しぶりの再会だったようで、尽きぬ話をずっと交わしている。キャラバン隊に便乗させてもらって二日目になる。今日の昼過ぎにはターラントに到着予定だ。


 最初、二人は他愛もない会話を交わしていたようだが、王都の話をしだした所、オッサンの顔は急に険しくなった。


「隣の国がきな臭いらしい。それで、お前の親父が色々と情報を集めているようだ」


「なんだか、忙しい時に帰ってきてしまったのでしょうか?」


「まぁ、いつでも娘の顔を見れるのは、嬉しいもんだよ」オッサンはそう言いつつ、


「それで、ここの王が、各地から魔導士や武器をかき集めててな、それもあってワシの所にも大量の注文をしてきたんだが。今回の王都行きは、納品もあったが、それについて国王の側近に色々と話を聞きに行ったという事もあってな」


 苦虫をかみつぶしたような顔になっているオッサン。


「面倒な事になってきましたね。一体、隣の国に何があったんです」


「多分、国政の失敗だろうな。軍事独裁国家にはありがちだ。貴族達のいい加減な領地運営に、その上、贅沢三昧だ。そして国民にそのツケを払わせてんだよ。国民は多額の税金や農作物を搾取される。その為に、あちらこちらで暴動が起こっているようだ。それを力でねじ伏せ、自国民を虐殺してるって、もっぱらの噂だぞ」


 二人が、そんな切羽詰まった真剣な話をしている横で、のどかな景色が広がり、気持ちいい風が吹き、また馬車の微妙な振動に、僕は眠気でウツラウツラしていた。


 ふっと、左上に開いていた画面、異世界グローバル・ポジショニング・システム、略して、異世界GPSに複数のオレンジの点滅を感知した。


 あれ?と思い、その部分をピンチアウトすると、なんと拡大でき、映像が映し出された。なんかどっかのGxxgxxMAP見たいだね、優秀だな。


 思わず、空を見上げてしまった。



 向かって右に15人、左に同じく15人、正面に30人の点が見える。正面の30人は馬に乗っているようだ。


 ピンチインすると、元の点表記に戻ったので、距離を測ってみると、ここから5キロ先位か、この馬車だと時速10キロくらいだから、30分位か、結構、近いかも。これは、知らせるべきだよな。そう思い、



 横で、真剣に話をしている、二人に声をかけた。



「あの、なんか前方、ここから馬車で半時ほど行った所に、怪しげな奴らがいるようなんですけど。どうします?」


「え?なんだと!どの辺だ」


「えっと、この先の川に向かう前に、高い岩場の間を通る道ってありますよね?」


「ああ、ログサ渓谷だな」


「そこの向かって左側の崖の上に15人、右側のは同じく15人、そして正面の馬に乗った30人ほどがいますよ」


「なんだって!」


 オッサンは、慌てて馬車を止めると、立ち上がって、後ろに向かって両手を振り、後ろの馬車に止まるように指示をした。


 ちょっと待っててくれ、代理に声をかけてくる。そう言うと馬車を降りて走っていった。


 しばらくして戻ってきたオッサンは、街道から逸れ、少し広くなった空地に馬車を誘導した。馬車達は、それぞれがテントを設置したり、テーブルや椅子を出してきて、お茶の用意をしだしたのだ。


「よし、ワシらも休憩するか」


 オッサンは、僕とアリシアを促し、急遽作られた一番大きなテントに連れて行った。



                ◇◆◆◇◆◆◇



 その時刻。ログサ渓谷には、野盗の集団がいた。この野盗。最近この辺を荒らしまくっている一団で、かなりの賞金がかかっているのだ。


「お頭、そろそろ、奴らが来ると思うんですがね。奴らが王都を立った後をつけ、様子を見て全力で走ってきたんで、この位になるとおもいやす」


「よし、お前ら、作戦通りぬかるなよ。こっちで足止めしている隙をついて、両方の崖上から攻撃だ」


「調べた所、かなりのお宝に、その上、相当の上物もいる見たいで、楽しみでやすな」


 野盗達は下卑たる笑みを浮かべ、目の前に積まれたお宝の山を想像し、悦に入る。そこに、あの悪名高き金級冒険者がいる事も知らず。

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