第3話 異世界転移とミノタウロス

 蓮は、落ちながら、死にたくないという一念で、必死で掴んだ玉を抱きしめていた。薄れゆく意識の中で、頭の中に響く声がする。


『スキルオーブ<異世界サバイバルセット>が使用されました。異世界ヴォーバルニャに転移しました。


<異世界サバイバルセット>Lv1

・言語理解・簡易鑑定・石投げを取得しました。


 身体が作り変えられました。知識を蓄える空間が構築されました。サバイバルに打ち勝つ精神力が強化されました。ステータスの確認ができるようになりました。』


 その声が終わるかいなや、パーンとはじけるように、その玉が光ると消滅した。そして同時に蓮の身体は浮遊感に包まれ、そしてふわっとした優しい光に包まれた状態で床に静かに着地したのだった。



 しばらくか一瞬か、蓮は意識を無くしていたのだろう、気が付くと、石畳の上に仰向けに寝転んでいた。上を見上げると高い天上があり、その天上に渦巻いたような巨大な真っ黒な穴がぽっかりと開いている。


 自分が落ちて来た穴なんだろうか?とうつらうつら考えていると、頭の方向から身の毛もよだつほどの、悍ましい獣の雄たけびが聞こえたのだ。



 慌てて立ち上がり、その方向を見ると、一難去ってまた一難。そこには、巨大な斧を掲げた牛の頭を持ち、筋肉で張り裂けそうな厚い胸板と、二足の牛の足を持つミノタウロスが立っていた。


「えええ!この公園ダンジョンにこんな魔物いなかったはずだよなぁぁぁ!」


 この公園ダンジョンの最下層ボスは、無印のオーガだったはずだ。こんな上位種の魔物がでたなんて聞いたことがなかった蓮は、慌ててその空間の魔物が立つ方向とは逆に向かって駆けだしたのだった。



 蓮が落ちたその空間は、フットサルのコートほどの広さがあり、そこには松明の火で、その空間を幻想的に照らし出している、壁の両側には複数のミノタウロスの像が並んで立っており、あたかも邪神を祀る神殿を思わせた。


 その像の一番奥に、斧を振りかざし、雄たけびをあげる巨大な牛の魔物が、後ろ足を蹴りながら、今まさに飛び掛からんと、助走をつけているのだ。その体長は3メートル位はあるのだろうか、獲物を見つけた飢えた獣ごとく、突進しようとしていた。


 こんな強力な魔物に勝てるわけがないと、あたふたとする蓮。


 蓮が走った方向の壁際には、神殿にある祭壇のようなものがあり、その台の上は、光り輝く水晶のような玉が浮いていた。蓮は、恐怖から訳も分からない状態で、とっさにその玉を掴むと、突進してくる牛めがけて、投げつけたのだった。


 ちなみに本来の蓮は、ピッチャーマウンドからキャッチャーまでの距離18.44メートルをノーバウンドでストライクを投げれるような肩はない。


 10メートル以上はあったはずの距離に関わらず、その玉は、真っすぐに吸い込まれるようにミノタウロスへ命中すると、はじけて粉々になった。そして、眼も明けられないような強い光を発すると、その強力な魔力の放出で、ミノタウロスを焼き尽くしてしまったのだ。


 部屋全体を光の洪水のように欠片が散乱し、その光の渦が消えた後、ミノタウロスがいた場所には、こぶし大ほどある強大な魔石が落ちていた。


 そして、頭の中に声が響く。


『レベルが上がりました。レベルが2~14に上がりました。


HPが10→97に上がりました。

MP:10→44に上がりました。

STR(物理攻撃力)8→37に上がりました。

INT(魔法攻撃力)5→30に上がりました。

DEF(物理防御力)6→16に上がりました。

RES(魔法防御力)5→30に上がりました。

DEX(きようさ)6→46に上がりました。

AGI(すばやさ)4→31に上がりました。

LUK(運)50→51に上がりました。


レベルが5に上がったので<異世界サバイバルセット>がレベル2に上がりました。・回復(小)・飲み水整水を取得しました。


レベルが10に上がったので<異世界サバイバルセット>がレベル3に上がりました。・アイテム収納(小)・着火を取得しました』


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