第2話 スキルオーブとダンジョン崩落

 今日も出てくる魔物を探して一階層をうろうろとしている。薄暗い通路の壁は、天然光源のような苔が生えた石で出来ていて、周囲をほんのりと明るく照らしているので、眼が慣れると、充分に明るく感じるのだ。


 蓮はここを何度も潜っているので、通路も頭に入っていて、ほぼ迷う事はない、、ないはずなのだが、なんだかいつもとちょっと違っていた。いつもはこの場所に道はなかったはずだったからだ。


「あれ?ここって、いつもは壁だったよな」


 通路の壁をペタペタと触りながら、用心しながら進んで行くと、その最奥に通路よりも少し広めとなっている空間があった。


 そしてその空間の真ん中あたりに、何かの固まりが鎮座している。大きさは、バランスボールほどあり、それは、ぽーっと薄く光る金色の固まりのようだ。


 それを、しばらくじーっと見ていると、少しぷるっと動いた気がした、もう少し近づいて、じーっと見る。今度はぷるぷると動いた。


「あれって、もしかして、スライムだよな。それにしてもデカイな」


 普段、この階層にいるスライムの大きさは、ボーリングのボールほどで、色は透明に近い青か緑、稀にオレンジっぽいのばかりで、こんな金色のなど見た事もない。恐る恐る近づいてみると。


 急に、その固まりがこちらに向かって飛びかかってきた。


「わ!あぶねー」


 慌てて、咄嗟に横に飛びのいた所、たまたま手に持っていた鉈にその物体は勢いよくぶつかり、そしてパシャっ!という音と共にはじけた。いわゆる自滅ってやつだ。


 飛びのいたと言っても、巨大なボールが勢いよく飛んできたのだ。こちらは、そのはずみで大きく飛ばされ壁に叩きつけられた。


どーん!バーン!!


「いてててー!」


 酷く打ち付けた腰をさすりながら、痛みを堪えて立ち上がった所に、コロコロとしたソフトボール大の玉が転がってきた。


「なんだ、これ?」


 拾い上げると、頭の中に声が響いてくる。



『スキルオーブ<XXXサバイバルセット>を使用しますか?』


『 Y or N 』


 慌ててその玉を落としそうになった蓮。お手玉するような体制で、必死で落ちないように掴んだ。


「やべー、やべーよ。やべーって。これってスキルオーブだわ。初めてみたわ」


 どうしよう。どうしよう。蓮は一人悩む。


「これって、売ったら、幾ら位になるんだろう?それより、使った方がいいのかな?いやいやいや、これって、ユニークだよな、聞いた事ないオーブだし。売ったら数億かも。悠々自適な生活できんじゃねー?」


 興奮していて、文字化けしている文字がある事に気づいていない蓮。


そっと近づく誰かがいる事も気づかず、蓮は、ひとりごちるのだった。



                ◇◆◆◇◆◆◇



「おい!それって、スキルオーブだよな。」


 後ろから、いきなり声が響く。慌てて振りむくと、そこには。通路をふさぐように立ちはだかっている連中がいた。


「へへ、いいもん、拾ったようじゃないか?弱っちいお前には、必要ないもんだろ?こっちに、渡せや。痛い目見たくはないだろ?」


 ニヤニヤとした嫌らしい笑みを浮かべた一人の男がこっちに手を伸ばしてくる。その男は、蓮と同じ高校の同級生で名は金森、同じ時期にシーカーになった奴だ。素行が悪く、あちこちで問題を起こす奴だが、親が権力者である事で、見逃されている厄介者だ。蓮は、こいつに何度も痛い目にあわされていたが、いくらJDSAに訴えても、なしのつぶてなのだ。



「こ、これは、僕が手に入れたもんだ。わ、渡せねぇよ。」


 なんとか、この場から逃げれないかと、オーブを抱きしめキョロキョロと周りを確認しながら一歩退く。


「おお、言うようになったじゃないか?お前をここで処分してもいいんだぜ。ダンジョンの中じゃ、何が起るか解らないしな。」


 男の仲間達も、ニヤニヤ笑いながら、逃げ道を塞ぐように、近づいてくる。


 やばいやばい、なんとか切り抜けなけりゃ、殺されて、オーブを奪われてしまう。こいつらは人殺しなんて平気にやりそうな奴らだと言う事は知ってる。蓮はじりじりと後ろへ下がるが、後ろは袋小路でただ壁があるだけだ。


 その時、足元に軽く振動が伝わる。あれっと思ったとたん。ゴゴゴっという音と共に激しい揺れがダンジョンを襲った。


「わーーーー!」


 蓮のいた場所の足場に亀裂が走った刹那、床が倒壊し、蓮はそれに巻き込まれてしまった。


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