第4話 姉さん、開き直らないでください
ユウコの部屋の隅で、私はいじけていた。
「私は世界を拒絶しているのに、世界は私に優しくする……なんて理不尽なの。こんな思いをするならいっそ生まれなきゃよかった……」
「帰ってくるなり、膝から崩れ落ちてなんなんですか? ハア、ハア……スポーツドリンクください」
なんて薄情な妹なの……。
「スポーツドリンクなんかよりも私のプライドの方が大事でしょ!」
「ハア、私が死んだら誰が夕飯を作るんですか?」
私は冷蔵庫にスポーツドリンクを取りに行く。
「ほら、スポーツドリンクよ飲みなさい!!」
「プライドは、ハア、どこに行ったんですか?」
「プライドでご飯は食べれないわ。あんたが死んだら誰がご飯を作るの!!」
言い切るとユウコは目を伏せた。
「私の命よりもご飯の心配ですか。ハア、自分で作るという選択肢はないんですね……」
「この手はゲームと動画編集のためにあるわ。それに、目玉焼きすら焦がす私に料理ができるとあんたは本気で思っているの?」
尋ねるとユウコは呆れた。
「でも、リンゴは剥く気になってるんですよね?」
「当たり前じゃない!! 妹にリンゴも剥けない姉って馬鹿にされたんだから!」
「馬鹿にはしてないのですが……」
「さあ、見てなさい! くっ、つるつるして剥きづらいわねこのリンゴ!!」
私はスポドリを持ってくるついでに取ってきた果物ナイフでリンゴを――なにこれ難しい!
「あ、ああ、危ない、ハアハア! や、やっぱり私がやります! だから果物ナイフ渡してください!!」
「なに言ってんの! 病人でしょあんたは! 安心して寝てなさい!」
ユウコはにこりと手を差し出してきた。
「安心できないからナイフ渡せ」
「……お、おう。ユウコさん?」
笑ってるけど怖いんだけど?
ユウコは無言でしゃりしゃりとリンゴを剥いていく。
うーむ、職人技。
「……はい、うさぎさん、です」
「……すごーい」
リンゴはまごうことなきうさぎさんの形になっていた。
しかもリアルな兎さんの形だった。
「ハア、ハア……姉さんのせいでちょっと熱上がったみたいです。もう眠るので、うさぎさんもって出てってください」
ユウコは布団にもぐった。
「あ、はい……すみませんでした」
私は兎さんリンゴを持ってそそくさとユウコの部屋を出た。
―――――――
ぐ~。
お腹が鳴った。
私はゲーム配信を終了してユウコを起こしに行く。
「ユウコ~、もう夕方だけど熱下がった? ご飯つくれる?」
「ん……姉さん。そうですかもう夕方ですか。ひと眠りしたら調子よくなったみたいです」
「体温計は……お、37℃1分。回復早いわね。さすがユウコ」
「流石って姉さんは普段私をどんな目で見てるんですか?」
「体が丈夫な便利な妹」
「ひどい姉です」
妹をこんなにも愛している姉に向かってなんてことを言うのこいつ?
「そんなことより夕飯作って、洗濯して、お風呂沸かして」
するとユウコは「え?」という顔をした。
え?
「病み上がってもいない妹をこき使って恥ずかしくないんですか?」
ああ、そういう顔だったのね。
うーん……。
「微塵も恥ずかしくないわ!! 私気づいたの、あんたがいないと何もできないって。いつもありがとうねユウコ!」
「…………感謝ができるのは良いことですね」
ユウコは深くため息をついた。
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