第3話 姉さん、ちゃんと買い物できるんですか?

 廊下をどうにか引きずって、ユウコを布団に寝かせることに成功した。

「うーん、体温計の数値は――37℃9分。やっばいわね、高熱じゃない。どうしよう」

 看病の本を片手にぬれたタオルをユウコの頭に乗せる。

「ハアハア、ウウ……タオルは、もう少し絞って、ください、びちゃびちゃ……ハア、ハア……」

「うっさいわね、こちとら人生初看病で慣れてないのよ!! なになに、ねぎをお尻に――」

「姉、さん……その本はダメです、捨ててください。そんなものよりも、スポーツドリンクとかゼリーとか、果物とか。買ってきていただけると……ハア、助かります」

「言っとくけど、私リンゴは剥けないわよ?」

「別に、ハア、最初から期待、していません。のどが、乾きました……早く」

「はああああ期待してないですって!? あんた私がリンゴの皮一つ剥けないと思ってるの!? いいわよ! やってやろうじゃないの! うさぎさんにしてやる!!」

「自分でできないって、言ったくせに、何故キレるんです、か? ハア、とにかく、飲み物と食べやすい果物を、お願い……しますハアハアーー」

「待ってなさいスーパーあああ!」

「……ハアハア、す、スーパーは遠いので近くの薬局でも色々揃って――」

 何か聞こえた気がするけど気にしないわ!


―――――――


「勢いで出てきちゃったけど……スーパーどこ? というか、ここはどこ?」

 おかしいわね、スマホの地図アプリに従って歩いてきたはずなのに。

「お嬢ちゃん迷子かい?」

 背後から優しく声がかけられた。

「ああ? 誰がお嬢ちゃんですって……げっ、お巡りさん!」

「どうしたんだい? お使いかな? ここら辺は再開発でいろいろとお店が出たり潰れたりしたからね……どこにいきたいんだい? 教えてあげようか?」

「お巡りさん厄介なのよね……何度補導されかけたことか。ここはやりたくないけど幼女作戦で乗り切るしか――(小声)」

「なにをぶつぶつ言っているんだい?」

 私は一度咳払いして声をつくり、にこっと笑顔を浮かべる。

「……な、なんでもないよ! わたちだいじょーぶ! ひとりでおかいものできゆよ!」

「そうかい、でも君迷子みたいだけど」

 お巡りさんは優しい目をしていた。

子供に向ける目よそれは!! こちとらもう17歳なんだからね!?

煮えたぎる怒りを笑顔でカバー。

「だいじょーぶだよ! おかあしゃんからまよったらつかいなさいって、スマホかりてゆの! ほら!! わたち、はじめてのおつかいだから、ひとりでがんばりたい!」

「そっか、頑張り屋さんだね。もうスマホも使えるんだね。すごいね。でも本当に困ったらお巡りさんに頼ってね」

 頭を撫でられた。

 けっ!!

「うん! わかった! ばいばーい!!」

「はい、ばいばい」

 私は早歩きで曲がり角を曲がった。

「……よし、ここまでくればもう大丈夫ね。というか、あのお巡りさん私の事完全に幼女だと思ってたわね。頭撫でられた。ふっざけんな、これだから外見でしか人を判断できない人間は!!」

 これだからお巡りさんは嫌いなのよ!! 幼女の作戦なんてもうしないんだからね!!

 曲がり角の先は商店街だった。

「いらっしゃいいらっしゃーい! リンゴやすいよ!! 激安だよ!! お! そこのお嬢ちゃん、リンゴ買うかい? お嬢ちゃん可愛いからおまけ沢山つけちゃうよ!! おまけはバナナとキウイとイチゴだよ!!」

 お嬢ちゃんって言うなこのクソじじい! と思ったけど、豪華すぎるおまけに目が眩んだ。

「……わー! おじたんありがとー」

 幼女作戦継続よ!


―――――――


 そしてスーパーにたどり着いた。

 私は一通り売り場を見て、清涼飲料水売り場に足を運ぶ。

「くっ、なんであんなに高い位置にスポーツドリンクおいてるのよこのスーパー!!」

 台座くらい用意しなさいよ!!

 手を伸ばしていると中年のマダムが声を掛けてきた。

「あら、大丈夫? これが欲しいの? はい」

「あ、ありがとうございます……」

 頭を下げるとマダムは私の頭を優しくなでた

「うふふ、困ったときはお互い様よ、お嬢ちゃん。お使い頑張ってね」

「…………」

 また頭を撫でられた。

 屈辱ッ!!


―――――――


 はらわたが煮えくり返る思いで、重い買い物袋を引きずって帰路につく。

 横断歩道の信号待ちをしていると隣のお姉さんが微笑みかけてきた。

「お嬢ちゃん大丈夫? どこまでいくの? 荷物持ってあげましょうか?」

 お嬢ちゃんって言うな!!

「へ、平気です! 一人で帰れます! きゃ!?」

 意地になって言い返し青になった横断歩道を渡ろうとしてこけた。

「大丈夫!? やっぱり持ってあげる。どこまで?」

 お姉さんは軽々と買い物袋を持ってくれる。

 うぐぐぐ!! なんて力持ち……。私は無力なのね……

「す、すみません……ありがとうございます」

 打ちひしがれた私の頭をお姉さんが優しくなでてきた。

「いいのいいの。それにしてもその歳で一人でお買い物? えらいね。すごいよ」

「…………」

 ……もう、外になんて出ない。

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