商才

西園寺 亜裕太

第1話

「ねえ、あんた何してんのよ……」


放課後美術部の活動のために美術室に向かうと、なぜか机の上で、ソフトボールくらいのサイズのピンク色の物体に絵の具で丁寧に色を塗っているクラスメイトの姿があった。


「何って、どう見ても桃作ってるところでしょ?」


「どう見てもって、なんで美術部員でもないあんたが放課後にわざわざ美術室でリアルな桃作ってるのって聞いてんのよ」


「なんでって……。見ての通りスーパーで売れるくらいリアルな桃作ってるだけだよ」


「いや、だからなんでそんなの作っているのよ……?」


彼女は立ち上がり、こっちに歩いてきて、桃を見せてくる。近くで見ると、紛うことなき桃そのものだし、たしかにこのクオリティならスーパーの果物コーナーに置いてあっても違和感はない。


「これを本物の桃として売って、お金持ちになるんだよ!」


彼女が満面の笑みで伝えてくるけど、それは偽装ではないだろうかと思うし、それ以前に……。


「ねえ、本物の桃って言っても、それ材質は? 何使って作ったのよ?」


「これはね、木で作ったんだよ!」


ふふん、と得意顔でこちらに渡してきた桃は確かに木の心地よい肌触りだ。可愛らしいし、部屋に置いておいたらちょうど良いインテリアになるかも。


「へぇ……。確かにすごいわね。でもこれ、上手く売れても食べる時に気付かれちゃうわよ? 食べようとしても断面図は木材そのもだろうし、そもそもこれ包丁で切れるの?」


「それは……」


「こんなもの売ったらクレームものよ。お客さんに怒られて、逆にお金取られちゃうわよ」


「それは嫌だなあ……」


そう言って彼女は寂しそうに俯いた。


「まあ、でもゴミにしちゃうのももったいないからわたしが100円で買い取ってあげるわ。捨てるよりもはそっちの方がいいでしょ?」


「え、いいの!?」


「せっかく一生懸命作ったのに、可哀想だし。お小遣い程度にはなるでしょ」


わたしが微笑みながら100円を渡すと、彼女は目を輝かせて、飛び跳ねた。


「やったー! ありがとう!!」


そう言って去っていく彼女を見ながら、わたしは呟いた。


「これ、桃としては売れないけど、ネット通販とかで芸術品として売りだしたら数千円、いやクオリティ考えたら上手く売ればもっと高値で売れるかも……。とりあえずこれが売れたらまた彼女に100円で作らせるのもいいかもしれないわね」


これから楽にお金儲けができそうで、思わず笑みがこぼれてしまった。

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商才 西園寺 亜裕太 @ayuta-saionji

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