第35話

* 岡引探偵事務所


 三人は顔を見合わせて頷く。そして麗衣さんが一心を見つめる瞳には覚悟が窺えた。

「私が全てを話します」そう麗衣さんが切り出した。

「私は二十歳の時、交通事故で入院したんです。大した怪我では無かったんですけど、その時にDNA検査をしました。大した意味があった訳じゃなくって、どんなものかというとっても軽い気持ちでした。

 血液型はB型と出ました。当たり前です。母がB型で父がO型でしたから。でも、資料を見ていた看護師さんが「あらーおかしいですねえ、ご両親の血液型間違ってませんか?」って言われて心臓が止まるかと思ったんです。「あなたはB型でもBB型なのよねえ。お父さんがO型ならBO型になるはずなのよねえ?大したことじゃ無いけど、一度聞いてみたら?それに、血液型って絶対じゃ無いから、BB同士の親からO型だって生まれることあるからね」

心にその言葉が刺さったまま退院して、すぐ、母に聞いたんです。母はモジモジして話そうとしなかったんです。

 父が帰ってきて、真っ先にききました。看護士さんに、おかしいって言われたと言ったんです。

それで、本当の事を教えてもらったんです。「でも、あなたは、お母さんとお父さんの娘よ。ずっと、これからも・・」そう言ってくれました。

私もそれはわかっていました。いたんですが、宝蔵を憎いと思いました。自分の子供を他人に押し付けるなんて酷い。いつか、聞き糺そうと思ってたんです。

 総見幸子さんとは、本当に偶然知り合ったんです。私が小学生の頃、浅草のお寺へ両親と遊びに行って、食べたり飲んだりして、私お転婆で走り回ってたんです。で、転んで膝擦りむいて泣いてたら、総見さんが「大丈夫?どれ、おばさんに見せてごらんなさい」そう言って血を拭き取ってサビオ貼ってくれて、痛いの痛いの飛んでけーって、おまじないしてくれたら、本当に痛いの治って、お母さんのところまで手を繋いで連れて行ってくれたんです。それで、お礼に食事したんです。何食べたか覚えてないです。でも、とっても優しくって親切で、わたし大好きになっちゃって、江東区かどっかに住んでいて、遊びに行ったり、家に来たり、おばさん一人暮らしだったから、寂しかったというのも多分あって、私を自分の子供のように扱ってくれたんです。中学生の時も、高校生になっても。

 そんなおばさんが、ある時会社を辞めることになって、家で事情を聞いたんです。その時に中学生のころから付き合っていた彼氏が同じ男に自殺にまで追い込まれて、最後の手紙を、大事にしていたのを見せてくれて、それに自分以外にも会社を乗っ取られた人が何人かいて、本当にその田鹿浦宝蔵という人間は酷い人だと言うんです。その人が国会議員で総理大臣にまでなるような噂まであって、私、復讐じゃ無いけど、思い知らせてやるって、おばさんに言ったら止めてって、あなたはお嫁さんに行って幸せになって欲しいって、だから結婚式には呼んでねって言うんです。私、泣いちゃいました。どこまでも優しい。

 しばらくして、アメリカへ行くって言いに来て、その時に下田の家の公共料金とか車の税金とか、全部自動振替で引き落としになってるから好きに使ってね、そう言って、私に家と車の鍵を預け、免許証まで置いて、行ってしまったんです。

それが、去年。そこから私復讐の計画を始めたんです。

 誘拐の対象者はすぐに決まりました。おばさんから聞いてましたから。おばさんが加担した人と被害にあった人皆歩いて確認してきたと言ってたので、それを信じて行動しました。

 だから、おばさんは犯行とは関係ないです。

 身代金の奪取方法は自分で考えたんです。岡引さんのとこでバルドローン飛ばしてるのも見て、500万で栃木翔太さんに頼みました。彼は何に使うかとか知りません。仕事で作っただけです。

 あとはお母さんが架空名義を使って、ネットで購入して借りたアパートで受け取りました。痕跡を残さないように部屋中にブルーシート敷いて。

 全ての道具が下田の家に揃って、両親ともう一度話し合いました。両親は私を止めようとしました。けど、決心は変わらなかったし、指を切ることはその時には言ってませんでした。許してくれるとは思えなかったから、やってから報告しようと思ってたんです。


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