第34話
* 岡引探偵事務所
午後1時丘頭警部が軽快な足音を立てて階段を駆け上がってきた。
既に、三人の客は席についていた。
警部は、えっという顔をして、その客に目を据えたまま着席した。
一心の家族も全員揃っている。
「じゃあ、揃ったから始めるな」そう一心が宣言する。と、数馬の質問。
「一心、被害者を一人ずつ呼ぶのか?」
「数馬、今日は被害者は呼ばない」そう一心は意味ありげに答えた。
「えっ」数馬は言葉を飲んだ。
「山陽さん、俺の言った意味、わかりますよね」
一心はそう言ったが、三人は微動だにしない。山陽麗衣は覚悟していたのか、一番落ち着いているように見える。緊張感が表情に表れている。
「俺は、犯人の立場で考えたんだ。
一つは何で麗衣さんが1人目なのか?
一つは何で指を切られたのか?
一つは何故娘や息子じゃないのか?
犯人は非常に田鹿浦宝蔵を怨んでいる。
復讐したいと思っている。
直接狙わないのは告白させたいから。
それで気付いた。山陽麗衣さんだけ特別の怨みがあった。恋人のお腹に子供がいたのに、一人は殺して、もう一人は部下に押し付けた。18歳の時と壮子さんの時。
だから、麗衣さんは宝蔵に実の娘として認めて欲しかった。少なくとも、田鹿浦宝蔵が自分に対して愛情を持っていることを確認したかった。
だから自分を一人目にした。
これが、麗衣さんが一人目だった理由だ。
しかし、殺すと脅しても知らんぷりだった。だから、麗衣さんは自分の指を切った。それを送りつけた。その時の麗衣さんの心境を思うと、今でも涙が出る。指を切り落とす恐怖心より、愛情を確かめたいという気持ちの方が勝ったんだ。ヒントを暴くことが目的ではなくて、自分を愛してくれていると確認することが目的だった。
麗衣さんが殺害されても、宝蔵はそこでも知らんぷりをした。
それで、二人目以降の誘拐を始めたんだ。
殺害するつもりは全く無かったんだ。動画で十分だった。そして、じわじわ宝蔵を追い詰めた。子供や孫のために告白する人もでた。それでも宝蔵は知らんぷりをした。
それで、宝蔵の殺害予告をしたり、自宅を爆破した。それでも何も言わない宝蔵に麗衣さんは痺れを切らし、息子の蒼太さんを誘拐した。本当は誘拐なんかしたく無かったんだ。だって、麗衣さんはお姉さんでしょう。蒼太さんは血の繋がった弟だよ。誘拐なんかしたくないさ。紬さんは妹だよ。自分の妹を誘拐しようなんて考える姉はいないしょ。誘拐される側は殺される恐怖があるし、女性には何をされるかわからないといった恐怖もある。麗衣さんは辛かったと思う。
でも、二人を誘拐した。殺害の動画に、宝蔵もさすがに、告白する決心をした。
俺の考えたストーリーはそんなとこだ」
三人はじっと聞いていた。反論は無い。
一心は続けた。
「それでは、山陽さん家族が犯人だとした決め手について話します。
先ず。総見幸子さんとの関係だが、彰さんが総見証券の株式を買っている事はわかっています。でも、それ以上の関係は分かりません。
が、相当に親しい関係であることに間違いはないでしょう。
それで、下田の住宅と車を手に入れた。恐らく、免許証も総見さんが出国する際にでも借りたんでしょう。なんせ、壮子さん。あなたに黒子を付けて髪型とか化粧とかを総見さん風にすると、こうなります」
そう言って美紗が作った、モンタージュを見せる。総見幸子さんの写真と並べると、同一人に見える。
大河原沖子という偽名を使ってアパートを借り、ネットで買い物をしたのは、お母さんあなたですね」
壮子が微かに頷いた。
「それで、川にバッグを投げさせた事件で、うちの美紗が高速道路を走るお父さんの車とそれを運転する麗衣さんを発見したんです。壁にマークを付けたなら必ず犯人の車か犯人が高速道路を通っているはずだという信念で数週間かけてマッチングソフトを作って調べた結果です。
関係者に限定していた警察には見つけられるはずはないんです。まさか被害者が犯人だなんて誰が想像するでしょう」
そう言って写真をテーブルに置く。そして続ける。
「さらに、うちの静がボートに身代金を置かせた事件で、バッグに入っていた漬物の重石に漬物の匂いがついていることに気付いたんです。そして静がお母さんからもらった漬物と成分の比較を警察にしてもらったら一致したんです。どうですか?」
そう言って、成分比較表をテーブルに置いた。
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