第32話
* 警視庁捜査一課
被害者は、誘拐された時から国営放送局前に車で帰ってくるまでの事情を捜査員に訊かれている。
一心と十勝川と万十川はマジックミラー越にそれを見ている。
田鹿浦紬以外の女性達は、歩道を歩いているときに、ワンボックスの助手席から道を聞かれ、広げられた地図に顔を近づけた時、何かをシュッと吹き付けられて気を失った。
気がついた時には、知らない家にいた。覆面の女性がいて、誘拐したこと、身代金を請求すること、田鹿浦宝蔵の悪事を暴きたい事を説明された。それで、首を絞められて死ぬ演技をして欲しいと言われたようだった。
大雪山美鈴が力を入れて説明する。
「断れないと思って、やったんだけど、それじゃダメだ!やり直し!って、何か映画の撮影みたいで、しだいに恐怖より上手く演技したい気持ちの方が強くなった。
一番上手だったのは、田鹿浦蒼太さんだね。彼はまるで俳優の様に泣き叫び迫力があって、終わったあと皆んなで拍手したくらい」
「山陽さんは裸にさせられたのは、どうして?」
「その時は、誘拐されたの私だけで凄く怖くて、パニックになっちゃって、覚えてないけど薬で眠らされたりもしたみたいなんです。で、あんまり暴れるから、小指切られちゃって、次は殺すって言われて大人しくなったみたいなんです。痛かったです。気絶したみたいです。傷は消毒とかしょっ中してくれて、それが女性だとわかってから気持ちも随分落ち着いてきたんです。それで後から誘拐されてきた娘にそうならないように色々説明したり、自分も誘拐された、落ち着いて言うことを聞いていたら、乱暴もされないし、大丈夫だからと一生懸命、怖がり過ぎないようにしていたんです」
「なるほど、怖い目にあってしまいましたね。傷はどうです?」
「え〜、時々ドキンドキンって痛みが走りますけど、我慢できるし痛み止めも持ってますから、大丈夫です」
「そう、それは先ず良かった。で、動画撮影の後は?」捜査員が大峰真理愛に話すよう促す。
「その後はその家の中で普通の生活をしてました。食事、お風呂、着替え、洗濯、テレビなどは自由に、ただ洗濯物は部屋干ししかダメで、窓や玄関を勝手に開けると、警報が犯人に知らせて、死ぬことになると言われてたんです。
暑いのはクーラーもありましたからなんとか。食糧も飲み物も十分すぎるくらいあって、代わりばんこに食事を作りました」
「帰ってくるまでずっと?」今度は大分寺葵の方を向いていう。
「ただ、時々、今思えば事件の時かな?誰か一人を一緒に来いと行って車に乗せられ、わたし2回乗った。そしたらあ、スプレーかけられて気を失った。気付いたのは部屋に戻されてからだったわ・・だから、どこで何をしたのかはわからないです」
「逃げることは考えなかったの?」
大雪山美鈴に向かっていう。
「だってえ、残ったやつを殺すから逃げるなよって言われたら、できないわよねえ〜一人は連れていかれてるし」
「都地川源について知っていることを話してください」捜査員はそう言って山陽麗衣をみる。
「眠らされて、椅子に座らされて、縛られて、犯人は起きるのを待ってたみたい。目が覚めたら動画を撮りながら、田鹿浦宝蔵の悪事を吐け!みたいな」
「あれっ、そうだった?16歳のイジメと18歳の見せかけの事故。それらの関わりを喋れ!とか言ってなかったけ?」
「あら、そうだったかしら?だったら、ごめんなさい、そう言うことです。で、何回か紐で首絞めたり緩めたりしてたら、白状したみたいですよ。ねえ、そうだったわよねえ?」
「そうそう」と言ったのは大峰真理愛。
「そしたら、袖口に隠してたナイフで手を縛っていた紐を切って、足の紐が蝶々結びだったのよねえー思わず笑っちゃった。ねえ」
「そうそう」今度は大雪山美鈴。
「だから、一瞬で足の紐も解けて、パッと立ち上がったら、紐がすとんと床に落ちたの。あれどうしてなのかしら?分からない?」
「そうそう」大分寺葵が口を出す。
「紐は切れてなかったから、身体を揺すったら緩んで、それで落ちたんじゃないかなあ?」
「そうそう」今度は山陽麗衣。
「それで、窓から裸足で飛び出して、走って逃げて行ったのよ。犯人が追いかけていった。一人は車よね。私たちも玄関から犯人出たから後をついて出たのよ。遠くに都地川って人が走ってるの見えてた。でも、その方向は崖なのよね。いつだか犯人がそう言って、下手に逃げたら崖から落ちるから逃げないでねって言ってたもん」
「そうよ、それで犯人が止まれ!崖だ!危ない!って叫んだのに、真っ直ぐ走って、落ちちゃった」大峰真理愛が最後を締めた。
捜査員が「あの身代金は犯人から渡されたの?山陽さん」捜査員が指名した。
「はい、テレビで田鹿浦さんの告白を見た次の朝。長い間、すみませんでした。見たと思うけど、田鹿浦が白状したので皆さんを留めておく理由がなくなりました。そう言って多分地下室からバッグを五つ持ってきて、一つずつ持って、国営放送局の玄関前に車を停めて、十勝川という人を訪ねて下さい。それまでにドアを開けると爆弾が爆発するのでくれぐれもドアは開けないでね。あなた方には死んで欲しくないからね、と言われて。それでその通りにしたんです」
「監禁されていた場所はわかりますか?」
「わかります。車で帰ってきたので、住所はわからないけど、下田の崖の上の一軒家。周りに家は見えなかった」そう答えたのは山陽麗衣だ。帰りの運転をしていた。
捜査員が今度は田鹿浦兄妹に視線を向ける。
「紬さん、紬さんはどうやって病院から誘拐?されたんですか?」
少し微笑んで紬は話し始める。「いえ、私は犯人から携帯電話で、今お前の兄のすぐ後ろにいる、言う通りにしないと、今、ここで、兄を殺すって、そして病院の3階の女子トイレの一番奥の個室にあるタンク裏に紙袋があるから、その服に着替えて、着ていた服を紙袋に入れて、眼鏡、ロングウィッグ、付けシミもあるからそれらも付けて、正面玄関まで来い、と言われたんです。その通りにしたら、トイレ前の婦警さんにも顔見られたけどわからなかったみたいで、車に乗ったらスプレーかけられて、気が付いたら部屋だった」
「お兄さんはどうです?」
「僕も、妹を殺されたくなかったら、言う通りにしなと言われた。それで仲見世通りの店に入ってすぐ裏口からでて、馬道通りに止まっていたワンボックスに乗ったらスプレーかけられ、気づいたら住宅の部屋だった。で、妹もいて、それまでに誘拐された女性もいてびっくりしたんです。そして皆が、首絞められる演技をしないと殺されると言うんで、やった。
皆が楽しそうにしてるんで、聞いたら、親父の悪事を暴くための演技だといわれ、一人一人事情を聞いたら、親父に腹が立ってきて、皆んなには、申し訳ないと謝った。
だから、親父が自供したくなるように、必死で首絞められて死ぬ演技をした。でも、犯人からダメだと言われて、三回くらいやり直してOK貰った。映画の撮影所知らないけど、まるで、それを想像させるような雰囲気だった。
確か、妹までがそれじゃあダメだと注文をつけるほど、皆が真剣に俺の演技を見ていた。
親父が白状して良かったと思うよ。周りの人に迷惑をかけ過ぎた。身代金はそれぞれの方にあげたいし、ヒントに挙げられた方にも同様の謝罪をしたいと思ってるんだ。
もう、親父の言うことは聞かない」
捜査員が車について説明した。
「乗ってきたワンボックスに赤ランプの点滅装置がありましたが、爆弾はありませんでした。警告の意味合いで言っただけだったようです」
「やっぱりねえ。そうだと思った」
「どういうことです。大峰さん?」
「犯人は、初めから私たちを殺す気なんかなかったんですよ。全然、なんて言うか、ピリピリ感が無かったて言うか、ねえ」
「私も、そう思った」と大雪山美鈴さん。
他の女性も皆、頷いている。
蒼太が捜査員に「身代金は今日返してもらえるの?」と訊く。
「証拠品だから暫くはダメですねえ」
「そっか、わかった。外部に電話をして良い?」
「どちらへ?」
「会社にかけて、同額を用意させて、皆さんに持って帰って貰う」
「そうですか、どうぞ」部屋の隅の内線電話だが外部にもかけられる仕様になっているようで、数分話して終える。
「あのー、被害者の皆さん、父が本当に迷惑をかけました。御免なさい」
蒼太は床に正座して、両手を床について頭を床に擦り付ける。
「やだー、そんな事しないで、あなたがやったわけじゃないんだから」
そう言って皆で蒼太を立ち上がらせる。
その様子を見ていた紬が、咽び泣きながら、ほんとに皆さん御免なさい。あんな父親が、・・恥ずかしいです。
一心はその様子を見ながら、親に似つかわしくない良い子だと思う。ただ、ひっかりもあった。
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