第28話
* 国会議員会館の田鹿浦議員の部屋
警察が来た日から、田鹿浦は考えていた。
奴が言った「証拠を持ってまた来る。」
はったりかとも思うが警察が裏付けも無しに、あーは言わないだろう。
7月28日朝、田鹿浦が議員会館の部屋に着くと封書が来ていると秘書が渡してくれた。
送り主は書いていない。
封を開けると、金山真一から総見幸子への手紙のコピーだった。
「幸子ごめん、俺もうダメだ。
田鹿浦宝蔵と都地川源にさっちゃんを連れて、今夜11時に田鹿浦貿易の3番倉庫まで来いと言われた。
連れて行ったら、さっちゃんが何をされるかは俺でも分かる。いやらしいことに決まってる。
先生に言っても、教育委員会に言っても、警察にも言ったけど、結局、国会議員の田鹿浦の親父の権力と金で、いたずらだとか言って全然話を聞いてくれないんだ。
夜行かなくても、さっちゃんが一人の時に何かされても困る。
だから、もう選択肢はこれしかないんだ。
大人になったら、さっちゃんをお嫁さんにしたかった。
ごめん。さようなら。 」
自殺した日、今夜連れてこいと言われた日に送られたものだと、コメントがついていた。
そして、国営放送局にも送った。と書かれていた。
愕然とした。こんなものがあったなんて。筆跡は・・・と考えたが、授業のノートとかたくさんあるはずだ。
午後3時過ぎに田鹿浦の携帯が鳴った。娘だ。
「紬(つむぎ)!大丈夫なのか?」
「父さん、16歳のいじめと、18歳の見せかけの事故。話さないと私、殺される!」
涙声の娘の声だ。泣きじゃくる娘。
「紬、父さんは・・」
と言った所で切れてしまった。かなり疲れている声のような気もした。どんな目に遭わされているのか?心配で心臓が激しく俺を叩いている。早く話せ!と言っているようだった。
議員生命が終わってしまう恐怖に襲われる。抜け道は無いものか??
* 千代田区の国営放送局
翌29日朝、十勝川キャップのところへ小荷物がついた。送り主は、山田太郎。
全身から血の気が引いていくのを感じて立っていられなかった。ドサっと机の横に倒れてしまった。
「キャップ!」
叫ぶ声が私を起こした。
「警視庁の万十川課長に電話。岡引探偵にも!」
それだけ言って、ソファに横にさせてもらった。心臓が止まりそうだ。
中身を見てもいないのに、嗚咽していた。
30分後、課長も探偵も揃った。
十勝川は支えてもらいながら何とか椅子に座った。
「高瀬!小荷物を開けて!」
テーブルの上で開けさせる。
女性の衣類とゴム輪で括られた髪の毛。それと、男性の衣類とゴム輪で括られた髪の毛。
誰かが「誰のだ!」怒鳴る。
箱の底にメモが入っていた。
十勝川は高瀬に読ませた。
「田鹿浦紬と蒼太のものだ、宝蔵が告白しなければ、生かしておく理由がなくなる。金山真一から総見幸子への、手紙を添える」
と書かれていた。
何部かコピーを取って配る。
「いじめが奴らである事の証拠だ!筆跡照合!」課長が叫ぶと若い刑事がそれを持って走って部屋を出て行った。
そこへ田鹿浦朝子。宝蔵夫人が飛び込んできた。
「助けてください。何でも話します。子供が殺されます!」
夫人をソファに座らせて、冷たいお茶を啜らせる。
「どうしました?」と十勝川が訊く。
「娘から、昨日宝蔵に電話があって、16歳と18歳の悪事を告白しないと殺される言って・・自殺した金山真一くんから総見幸子さん宛の自殺当日の手紙も送られてきたんです。もう、言い訳なんか出来ないのに、まだ、ああだこうだ言うんです。ですから私が代わりに話します。だから子供を救って!」
「その手紙はこちらにも今朝来ました。それと、娘さんと息子さんの衣類と髪の毛が送り付けられました」
夫人にそれらを見せる。
「わーっと泣く夫人。紬!蒼太!」鷲掴みにして抱きしめる。
課長が優しくそれらを夫人の手から受け取る。
「これを鑑定します。本人のものなのか、別ものか」
「間違いない。これは娘の!一緒に買いに行ってるから!」
「宝蔵氏はどう言ってるんですか?」
「俺は、悪事はしてないと・・」
「まだ、そんな事を、子供より自分が、国会議員という立場が大事なんでしょうか?」課長は眉を吊り上げ怒り、拳でテーブルを幾度も叩く。
「そんな人です!私もう信じられません!だから、こうしてここへ来たんです。お願いです。助けてください!」夫人は取り乱し床の上に土下座して頭を床に擦り付ける。十勝川は夫人の両肩を抱いて立ち上がらせ、椅子の座らせた。そして隣に座って一緒に大粒の涙を流した。
「犯人は、ご主人の告白を待っています。これまでにも、事実を話された方がいました。でも、宝蔵氏が話さなければ意味がないといって、娘さんが殺害されているんです。ご主人を説得してください。ここまで来たら、議員の保身は世間が許しません。諦めなさい。そう言ってあげてくださいい。それしかない!」
課長が必死に夫人を説得する。
十勝川もそう思う。気休めに夫人の告白をテレビで流しても子供を救う事にはならない。
一心は、この手紙があったから、万全の証拠を手にしていたから、強気に誘拐なんかをしたんだ。と納得する。
*
7月30日木曜日、昨日に続いて封書が十勝川キャップのところに届いた。
まただ、恐る恐る送り主を見る。
山田太郎だ。心臓が口から飛び出しそうだった。
メディアが二つ入っていた。
警視庁の万十川課長、岡引探偵を呼んで、揃うまでソファで横なった。
30分後全員が揃う。
「高瀬、動画回して!」
十勝川も座り直して画面を睨み付ける。
一つ目は都地川源が椅子に縛られて写されている。
そして、金山真一にしたいじめを話した。彼女の総見、当時の樺山幸子を連れて来い、と言ったのは昨日のメモ内容と一致している。
銀野供子については、田鹿浦宝蔵に事故に見せかけてやれと言われ金を渡されたことを告白している。縛られてはいるが、言う内容は考えながら喋っている。どこかを見ながら喋ってはいない。
話が終わると一拍おいて手が自由になり、足の紐を自分で解いて立ち上がり、ナイフをちらつかせながら窓から逃げた。画面は林を写している。都地川は足が速くどんどんカメラから遠ざかる。そして突然姿を消した。画面が崖の上の林から下を向いて、岩場に激しく打ち付ける波を写して消えた。
「これなら、都地川源は事故死か?」
もう一つは、田鹿浦の息子の蒼太が椅子に縛り付けられているところから始まっていた。裸だ。後ろ手に縛られ、足も椅子に縛り付けられ、身体も椅子に縛り付けられている。
そして首にも紐がぐるぐる巻きになっている。少し食い込んでいるようだ。
椅子がガタガタ音を立て大きく揺れている。
「助けてー!死にたくないー!、親父っ!何でも喋れー!苦しいー!グッグッグッ」
紐はきつく締められたり、緩められたりを繰り返し、今までより随分長い、そして紐がキツくなって、息子の目が真っ赤になり、涙が滴る。口を大きく開いて舌を長くだして、何かを叫んでいるが、言葉になっていない。
その状態が長く続く。涙、鼻水、唾液が垂れて流れる。十勝川は直視できなくなり目を逸らす。
きゃーと女性の悲鳴を聞いて、再度視線を画面に向けた時、首がガクッと後ろに折れた。
紐が解かれ、ドサっと床に落ちた。
そして画面中央に文字を書いた紙が写し出された。「明日は、娘の番だ!」
そう書かれていた。
「十勝川!くれ!」
課長がそれだけ言って立ち上がる。
「課長!議員には?警視庁へ来てもらうのか?」一心が訊く。
「そうだ、これでも口を閉ざしてるなら、俺らどうしようもない、が、犯人は絶対逮捕する!」
課長はそう言って部屋をでた。
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