第20話
* 警視庁 捜査本部
万十川課長は各班の捜査状況を報告させていた。
ヒント3担当の田中警部が報告する。
「大山金属の息子、大山幸道のアリバイですが、勤務先の荒川の自動車修理工場の付近のカメラで、犯行のあった4月13日土曜日では12時3分買い物で、4月20日土曜日は朝7時に同じく買い物で写っていました。本人の証言通りでした。ただ、5月11日土曜日は確認できませんでした」
「てことは、アリバイがあるとは言えないって事だな?」
「はい、日によって。そうなります」
「太田黒です。総見幸子はアメリカへ出国していました。2022年12月12日ですから、解任されてから半年後です。以降、帰国していません。それと、坂上警部からも報告あると思いますが、ヒント1の金山真一と総見幸子は恋人同士でした。周囲がそう証言しています。また、幸子に親姉妹子供いずれもありません。今、誘拐に使われたバッグをネット購入した大川原沖子との関係を捜査しています」
「容疑者と考えて良いな?」万十川が言うと
「はい、自分もそう思ってます」と太田黒警部が同意した。
「戸女井警部。息子の、蒼太の足取りは?」
「はい、不明のままです。妹の足取りも掴めません」
「何故、田鹿浦の子供だけ脅迫状来ないのかなあ?誰か意見ないか」
「・・・」誰も発言しなかった。
「後は報告ないか?」万十川が促す。
「坂上です。金山真一の自殺の関係、丘頭警部の協力もあって、母親から本人の日記を入手しました。田鹿浦と都地川に虐められていると記載があり、この件の悪事は確定ですね。その日記を担当した教諭に見せたところ、いじめがあった事、自分が田鹿浦の父親の権力と金に負けたことを認めました。それを文書で入手しました」
「そうか、それは田鹿浦にぶつけて告白に持っていけそうだな」万十川はニヤリとした。
「はい、そう思います。それと、総見幸子が恋人だった事も複数のクラスメートが認めてます。」
「総見幸子への容疑が高まったな」
「苫牧です。銀野供子と田鹿浦宝蔵との関係を示す、十和田湖への旅行の証拠と母子手帳に記載された田鹿浦宝蔵の名前のほか、母親の証言や血液型からも、供子のお腹の子の父親が宝蔵である事は間違いありません。後は、殺害を指示したかと言う点を現在捜査しています。そのため都地川源の行方を追っています」
「桜井です。土台建設の裏に黒い噂があり、それが同社の資金繰りを悪化、そこへ田鹿浦が短期融資の話を持っていって、期日での自動更新契約にしておいて、期限に更新しないといって追い詰め、乗っ取ったとの複数証言が出ました。大山金属も同じ手口で乗っ取りした模様です」
「田中そうなのか?」
「はい、土台建設と同じ手口です。こちらも複数証言があります。ただ、状況証拠だけです」
「土台建設も状況証拠だけです」
「わかった。それでも、田鹿浦を追い詰める事はできるな?」
「はい」2人の警部は力強く頷いた。
「なるほど、ヒントについては随分わかってきた、田鹿浦にぶつけてみよう」万十川は田鹿浦宝蔵と対決しようと決意した。
「よし、捜査に戻ってくれ!」
そう言ってから万十川は総見幸子を手配できるか考えた。が、アメリカ在住では犯行は無理だ。では、大川原沖子はどうか?借りていたアパートに生活痕が無い。似顔絵は総見幸子に似ている。が、同一人で無いことは確かだ。この矛盾を解決できない限り、手配は無理か・・・。
* 岡引探偵事務所
一心はヒント3の大山の息子幸道を尾行していた。尾行3日目の夕方、仕事を終えた後、自動車修理工場から自宅へ向かったのではなく、浅草へ向かった。何かあると思い数馬を呼んだ。6月21日金曜日午後5時半だ。
数馬と合流する。雷門で友人と待ち合わせしていたようだ。そのまま門を通って仲見世通りの飲み屋さんに入った。一心も続いた。様子を見ながらビールを飲んでいると、8時には帰るようだ。数馬に友人を尾行させる。
幸道はふらふらしながらも何処にも寄らず、自宅に着いた。室内の電気がついて、テレビの音が外まで聞こえている。ドア横の水道メーターが回り始める。なかなか止まらない。風呂を入れるんだと思った。ゴーとガスの燃える音も聞こえてきた。
もう、出かけないな、と判断して事務所に戻った。
数馬はもう帰っていた。
「誰だった?」
「表札に栃木翔太って書いてた。明日会いに行ってくるわ」
「住まいは浅草か?」
「お〜」
「じゃ、頼むぞ」
翌日、珍しく9時前から数馬が飯食って、出掛ける準備をしている。静が何事かと思ったのか声をかける。
「どないしはった?数馬?出かけはるのんか?女子はんか?」にやにやして訊く。
「うっせー、仕事だ。じゃ一心行ってくるぞ」
「おー頼むぞ」
「あら、あんはん知ってはるの?」
「おー昨日尾行した大山の息子の友達に聞き取りだ。残念がら、お・と・こ」一心は親指を立てて言う。
「ふふふ、なんや、そやろとおもーた。女子はんやったら、自慢しやすもんな。ふふふ」静はしきりに微笑んで立ち上がった。
「誰か、事件のことでわかったことないのか?」
「一心、総見幸子が金山真一の恋人だったって聞いたか?」美紗が男ことばで言う。
「警部から聞いた」
「似顔絵見たか?」
「おー見た」
「じゃあ、それと総見と大川原沖子と似ているのは?」
「知ってるけど、変な話だ。アメリカに住む人と実態のない人が同じ顔してる?・・・そうだ。美紗その大川原沖子って何処に住民登録あるんだ?」一心が思いついて訊く。
美紗が流し目で一心を見る。
「ん〜、探すか?」
「おーちょっと引っかかってきた」一心は静の姿を追いかけ見しているが、奥の部屋に消えて少し寂しい。
「ちょい待ち」そう言い残して美紗は自分の部屋に引っ込んだ。
昼近くなって数馬が帰ってきた。
「おーどうよ?」
「栃木翔太は元大山金属の従業員だった。中学の時、親が離婚して家に居られなくなり、ぐれてた時に同級生の大山雪道が自分の親に頼んでアパート借りてくれて、そして学校終わってからでいいから家に来いって言ってくれたんだそうだ。それで夜だけ大山金属で月金で働いたようなんだ、それで土日は遊びたいだろって休みにしてくれたらしい。栃木はそれじゃあ悪いと思って、土曜日は一人で仕事することにしていたと言ってた。人並みの給与もくれて、本当にあの父さんには世話になった、一杯感謝していると言ってる。田鹿浦のことは知らないって。で、辞めざるを得なくて、困ってたら父さんの友達だった今の社長がうちに来いって言ってくれて、それからずっと働かせてもらってるんだ。皆に感謝している、そんなふうに言ってたぜ」
「アリバイは聞いたか?」
「一応な、・・」メモを取り出して
「平日は休みなしで8時から7時まで。4月13日土曜日は12時頃ラーメン屋へ、4月20日土曜日は朝7時半買い物、5月11日土曜日はラーメン屋。それは会社の近くのコンビニのカメラに写ってたわ。殺人をしているようなトゲトゲしたような感じは全くなかったで」
「そうだなあ、あの感じだもんな。関係あるとしても、バルドローン作るくらいかな」
「それはあるな、今、IT企業勤務だし、元金属加工だし、息子は自動車修理工だからやれるかもな」
話の途中で丘頭警部からメールが届いた。
それには、警視庁の田中警部が大山道三の妻大山操(おおやま・みさお)に会って、聞いた話では、製品の不具合とか過大請求だとかそういう黒い噂流れて売上が落ちて、田鹿浦の資金提供の話に載ってしまって、会社を取られたようだ。妻も相当の怨みを持っている。と書かれていた。
それがヒント3の悪事か。と田鹿浦の所業を憎々しく思う一心だった。
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