第17話

* 岡引探偵事務所


 珍しく丘頭警部が姿を見せた。

「こんにちわー、いるかあ」

「はいよー、こんちわ。警部、何かあった?」

「いや、日立市にいた金山真一のお母さんに日記帳借りてきたのよ」

「ほー何か書いてた?」

「いじめの記録。田鹿浦宝蔵と都地川源のふたりから数々のいじめられた記録よ。それを当時の教諭に見せたら、認めたわ。それで、お母さんが3年、4年前に同じこと聞きに来た中年女性がいたっていうのよ。写真見たらわかるっていうんだけど、まだ、全然容疑者浮かんでないから、なんとか早く見つけたくってさあ、情報ないの?」警部は救いを求めてきたようだった。

「いやー、バッグとかウィンチとかそういうのどこで買ったか警察掴んでないみたいなんだけど、美紗がネットじゃないかって、今しきりにハッキングしてるんだけどさ、警察でメーカーわかってるんだから、その線で追跡できんのかなあ?」

警部は、あれっという表情をする。

「調べてたんじゃないかなあ」

「えー、したらこっちに情報来てないってことか?」

「ちょっと待って」そう言って警部は捜査本部に電話する。

10分ほど待たされた警部が頷きメモを取っている。

「あー、何か掴んだみたいだよ」

「美紗!おーい、ネットわかったとよー」

「なにい、警部分かったって?」ふくれっ面で美紗が奥の部屋のドアを開けて出てくる。

「合計で10個のバッグを購入したのが、大川原沖子(おおかわら・おきこ)住所が府中だ。一心行くか?」

「警察は行ったんじゃないのか?」

「いや、まだ行ってない。わかったばっかり」

「よし、美紗も行くか?」

「俺は、それより、ほか調べるよ」

「お、そうか、警部パトか?」

「そうよ、じゃ、行こう」

 

* 府中の大川原沖子のアパート


 約1時間で府中の該当住所に着く。二階建てのアパートの一階の一番奥の部屋。

チャイムを鳴らすが応答がない。鍵がかかっている。電気メーターがドア横についてるが回っていない。

「えっ、一心電気メータ止まってるわ」

「ちょっと、警部、契約調べさせてよ」

そこに美紗から電話が入る。

「どうした?」

「そのアパートの一階一番奥の部屋5号室で間違いないかい?」

「んーと、そうだ、5ってドアの上に書いてある」

「じゃあ、その部屋電気も、水道も、ガスも契約無いわ。今役所とかハッキングして調べた」

「そうか、サンキュー」

「警部、うちの美紗が調べたら契約無いとよ。ガスも水道もだと」

「そう、でも賃貸契約だけは生きてるのね。近所に聞き取りするわ」

「俺、不動産屋行ってくるな」

「分かるの?」

「へへへ、何てったってハッカーがうちには二人もいるからな。警察に言うと逮捕されるけどな」

「あらー、よかったわねえ、私、警察でなくって、はは」

「後でな」

一心は美紗に電話を入れる。

「おい、あのアパートの契約不動産屋・・」

まで言うと「高橋不動産って親父の歩いている場所からだと、後ろ向いてまっすぐ200メートル右角だ」

「おう、サンキュウー、持つべきはハッカー娘だな」

「違うだろ、美人娘だろ!っへん」

「ふふふ、じゃあな」


 20分後、アパートに戻る。警部は二階で話をしている。

話を終えたところで声をかける。

「どうだ?」

「うん、顔見た人いるから、今、似顔絵かけるやつ呼んだ」

「おー、それは凄い。一歩前進だな」

「中年の女性らしい、他でも中年女性見たってひといたから、確認できる。」

 

 1時間して絵描が二人きた。丘頭警部が見た人の部屋を教えている。

 さらに1時間待った。絵描刑事が部屋から出てきた。警部が絵を見ている。

降りてきて一心に見せてくれる。中年で丸めの顔、顎の右下に大きな黒子だ。

「不動産屋でも似顔絵作成に協力してもいいと言ってるぞ」

「いや、取り敢えず良い。一心、私これ持って日立市まで行くから、写真撮って、浅草で下ろしてあげるから」

「行っても良いぞ!一人じゃまずいんじゃないのか?」

「そうか、助かるわ。首都高上がって、2時間かな」

「美紗に絵の写真送ったら、寝てるから、着いたら起こしてくれ」

「ふふ、良いわよ。おやすみ」


* 日立市の老人ホーム


 どれだけ寝たのかわからないが、警部に起こされた。

「おはよ、一心もう着くわよ」

「あー2時間も寝てた?」

「え〜ぐーすかいびきかいてね」

「なんて言う家?」

「金山さわさん、自殺した真一さんのお母さんよ」

「ほーお母さんもその似顔絵の人見たって?」

「そう、自殺の理由を確かめにきたみたいよ」

「犯人が事前に確認しに回ったってことか?」

「そう言う事。はい、ここ」

「随分立派なホームだな」

「お母さん見たらもっとびっくりよ」

 10分後に面会室でお母さんを待っている。

そこは窓外に海まで見通せる見晴らしのいい場所にある。

「お待たせしました」そう言って姿を見せたのは60代くらいのお母さんだ。

思わず一心が訊く。

「あの、金山さわさんですか?」

「はい、そうですよ。あなた、前には来なかった刑事さんね」

「あっ、そうですね。挨拶が遅くなりました。俺、岡引一心、探偵です」そう言って名刺を渡す。

「あら、探偵さんだなんて、丘頭さんでしたっけ、警部さんが探偵さんとご一緒なんてどういう事なんですの?」

「こちらの探偵さんは、警察の支援を良くしてくれる探偵さんで、今回の事件も一緒に捜査してるんです。ですから、刑事と思って頂いても結構ですよ」

「そう、で、写真でも見つけたんですか?」

「はい、似顔絵なんですが、3、4年前に来た女性に似ているか確認して下さい」

そう言って、テーブルに似顔絵を置く。

お母さんが手にとって、メガネを掛けてじっと見ている。

数拍の間があって「そうね、この人だわ。この黒子、間違いないわ。よく見つけたわねえ」

「ありがとうございます。これで、容疑者を追えます」

「頑張って、ね。田鹿浦の方もね」

わずかに微笑んで頭を下げる。

たっぷりお礼を言って辞去した。

警部は即、本部に報告を入れた。

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