第14話

* 十和田湖


「美紗!銀野供子はんの写真と、当時ん田鹿浦議員はんの写真送ってんか」

 いきなりの静からの電話に美紗は戸惑う。確か、今日はひさご町内会の仲良しおばさん四人グループで十和田にいるはず。仕事は抜きだと言ってたはずなのに?

 母親の静(しずか)は京都生まれ、東京で大学生活をエンジョイしそのまま東京の浅草に住み着いた。そこで父親の岡引一心と出会い、一緒に探偵事務所を開くことにして以降二十数余年、いつも和服を着ているくせに、美容のはずがプロから勧誘されるほどのボクサーになりやがった、で、京都弁ときてる。娘の自分でさえよくわからん人間だ。絶対、京都弁の女はボクサーやっちゃいけないと言うのが美紗の信念になってしまった。

「どうした、事件調べてんの?」

「いやぁ、十和田の湖畔でな、写真屋はんがサービスで撮ってくれはるんやて。それがカップルぎょうさんいはってな、ほんで、気になってしもうてん、18歳の女子はんと議員はんと、ここ来たんやないかな?ってな」

「そんで、37年前のこと調べるの?」

「そうや、頼むで」

「へいへい、すぐ送っとく」美紗も静が言い出したら聞かないことは百も承知だ。

「ほな、さいなら」

「あいよ」


それから、3時間。また電話だ。

「あったか?」

「へえへえ、おましたでえー、そやさかい、すぐ送るで。まあ、仲のよろしー写真。あとな、宿帳も探そおもーてんねん。あったら、また送るさかい。待っててな。ほな」

勝手に喋って切りやがった。

携帯に写真がきた。取り敢えず見ると。確かに、絡み合って、恋人以外の解釈はできないポーズだ。1985年8月4日だった。3部印刷した。


 そして夕方の5時、静からの電話だ。

「あのなあ、ようやっと、おましたで!それもな、十和田湖井筒屋旅館って二階建ての古〜いたてもんでな、だんはんに頼んだら、物置に入りはって、埃だらけにならはって、1時間も探したやろか。有った有ったてえろー喜びなはって、宿帳も埃だらけでな、ゴホゴホ言わはって、ははは可笑しい。ほんで順に捲りなはって、1985年8月4日の日にな、二人泊まりおったわ。写真送るさかい。ほな、な」

興奮気味に喋りまくる静。

「かあー」また勝手に切りやがった。俺一言も喋っちゃおらはんで。「あっ、いけねえ。頭の中が半分京都弁になっちゃった」と、誰もいない事務所で独り言、ほくそ笑む美紗。

早速送られた宿帳を三部印刷する。

 そして、印刷物をテーブルに置いたまま、一心にその旨メールを入れておく。


* 千代田区の国営放送局


 十勝川キャップは取材に飛び回っていたクルーの報告を受けていた。

「で、複数のクラスメイトの話で、金山真一くんへのイジメは田鹿浦議員がリーダーで手下の都地川源と連んでやったようです。問題になりかけたんですが、当時、国会議員だった父親の田鹿浦道山が手を回して揉み消したと言うことです。しかし、そういう証拠は見つかりませんでした」

「そうか、父親の力ね。正に、悪事ね!」十勝川がそう言うと「遺書とか日記とか出てくると良いんですが、残念です」ともう諦めている。

「こら!まだ諦めるな!」叱りつける。

「香川!お前はどうだったんだ?」

「はい、僕も、クラスメイト当たったんですが、立川梨沙(たちかわ・りさ)という娘がイジメは田鹿浦と都地川だと言ってます」

「ん〜そっか、あと証拠が欲しいなあ。まあ、しょうがない。ところで香川!立川って娘って言った?おばさんだろうが、当時は娘だろ!・・他は?」

香川は、また出た!鬼女の本性、とでも思っているように口元を曲げている。

「警視庁からの話で、沖縄で1件目の身代金のうち十万円が使われたそうです。聞いてますか?」蓬田(よもぎだ)が問いかけてきた。

「いや、まだ課長から報告は無い。で?」

「はい、カジノの売上を銀行員が入金処理しようとして、通知のあった番号を発見し、警察へ届出たそうです。使用者は不明ということです」

「犯人が使ったってことだな。ほかでも出る可能性あるな」

「キャップ!自殺した大山道三さんのご両親に会ってきました」戸水(とみず)が報告する。

「で、どうだった?」

「はい、自宅のある群馬の沼田市に居ました。大山建二さん真理さんご夫妻です。誰を怨むとかではなく、商売に失敗したことが自殺の原因と理解しているようです。今回、テレビで息子の名前が出てきたのでビックリしていると言ってます。僕に、どうして名前が上がったのかと聞いてくるくらいです」

「ふ〜ん、年齢は?」

「旦那さんが89歳、奥さんが86歳です」

「あ〜その年齢で事件は無いな?どう思う?」

「はい、とても事件を起こしたような雰囲気はありませんでしたし、体力的にも無理かと」

「よし、除外しよう」

「以上か?」

 十勝川は大した情報が得られず、腹立たしいい部分もあるが、全員戦う目になっているので何も言わず会議を終了させた。

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